育休取得者の業務を肩代わりする従業員の支援~両立支援等助成金「育休中等業務代替支援コース」が使えます。

人手不足の会社や部署で誰かが育児休業を数ヶ月〜1年取ると、その仕事は残った同僚にのしかかります。仕事が増えても給料などに反映されないと、職場の不満や不公平感が溜まりがち。結果、休む本人は「迷惑をかけて申し訳ない」と、長期の育休をためらう大きな原因になっています。

この「育休を取る人と支える人の間のモヤモヤ」を解消し、みんなが気持ちよく働けるように考えられた新しい制度が「サンキューペイ制度」や「業務代替手当」です。このレポートでは、サンキューペイの考え方や事例に加え、お金に余裕のない中小企業でも導入しやすい公的な支援策(両立支援等助成金「育休中等業務代替支援コース」について、どう使えて、どう運用すればいいかを詳しく解説します。

「サンキューペイ制度」や「業務代替手当」

育休中の社員の業務を代わってくれる同僚に「ありがとう」の気持ちを込めて手当を出すのが「サンキューペイ制度」や「業務代替手当」です。根っこにあるのは「頑張ってくれた同僚にちゃんと報いたい」という考えです。2つの成功事例を紹介します。

大和ハウスグループ(賞与再分配型)

大和ハウスグループが2023年末に始めた「サンキューペイ制度」は、育休を取る社員の「賞与減額分」を原資に、代わりに頑張ってくれた同僚に「感謝の気持ち」として再分配する仕組みです。

これは、育休社員が抱える「休んでごめん」という罪悪感を減らし、サポートする同僚にも正当な報酬が支払われることで、職場の相互扶助を促すのが狙いです。

正社員だけでなく契約社員も対象で、男女どちらの育休でもOK。代替要員の補充や業務軽減がないなど、「同僚に実質的な負担増があった」場合に適用されます。会社が新たな予算を出さずに運用できる、画期的な制度として注目されています。

三井住友海上(純増型)

再分配ではなく、会社がお金を出す「純増型モデル」の例が、三井住友海上火災保険の「育休職場応援手当」です。

これは、育休を取った人の同僚に、会社から直接一時金が払われる仕組みです。すごいのは、一時金の額が、職場の人数と育休取得者の性別(休む期間の目安)で変わることです。

例えば、人手が少ない「13人以下の職場」では手厚くなります。特に休業が長くなりがちな女性の育休なら同僚に10万円、男性なら3万円という具合です。

同社は、この手当で同僚にも報いることで、社員が気兼ねなく育休を取れる雰囲気を作りたいと考えています。少人数の部署ほど手当を増やすのは、現場の負担をちゃんと見て制度に反映させている証拠と言えます。

中小企業が独力で導入するのは難しい

このように、大企業においては、「サンキューペイ」や「応援手当」といった事例が見られますが、これらは‥

  • 豊富なリソース
  • 整備された人事制度

の両方があってこそ実現可能なものです。

しかし、日本企業の大部分を占める中小企業にとって、独自に手当を支給したり、代替要員を雇用したりすることは、極めて大きな金銭的負担となります。

経営者の方々も「育児休業を取得しやすい環境整備が重要」という点には同意されていますが、代替要員の採用コストや、手当の支給による利益の減少が障壁となり、制度の導入や社内風土の改革になかなか踏み出せないという、中小企業特有のジレンマが存在します。

両立支援等助成金「育休中等業務代替支援コース」が、中小企業を助ける

このような中小企業の経済的障壁を取り除き、育休を支える周囲の従業員への手当支給(サンキューペイ制度の導入)や新規雇用の取り組みを国の予算によって直接的に後押しするために創設されたのが、厚生労働省が管轄する両立支援等助成金の「育休中等業務代替支援コース」です。

本コースは、政府の「こども未来戦略」に基づく施策として2024年(令和6年)1月に新設された非常に新しい制度です。その後も継続的な拡充が行われています。

本制度の最大の特徴は、大企業を対象から除外し、資金力や人員体制に余裕がない「中小企業事業主」のみを支給対象に限定している点にございます。国が休業期間中の代替体制整備に要する費用の一部を補填することで、企業規模に関わらず労働者が不利益を被ることなく育児と仕事を両立できる社会インフラの構築を目指しております。

「育休中等業務代替支援コース」には、企業が講じた具体的な代替措置に応じて、以下の3つの区分(スキーム)があり、それぞれで支給要件や助成金額の算定方法が異なります。

  1. 手当支給(育児休業):育児休業取得者の業務を代替する同僚への手当支給に対する助成。
  2. 手当支給(短時間勤務):短時間勤務利用者の業務を代替する同僚への手当支給に対する助成。
  3. 新規雇用(育児休業):代替要員を新規に採用したり、派遣を受け入れたりする場合に対する助成。

中小企業がこれらのスキームを具体的にどう活用し、「サンキューペイ制度」を自社に導入・運用していくか、その詳細な要件と支給構造について分析・解説します。

手当支給(育児休業)

サンキューペイ制度導入の際、中小企業が活用できる最も直接的な資金源となるのが、手当支給等(育児休業)です。育児休業取得者の業務を代替する周囲の従業員(業務代替者)に対し、企業が業務代替手当などを支給した場合、その費用の大半が国から補填される仕組みとなっています。

助成の仕組みと高い補助率

この助成スキームは、初期費用を支援する「業務体制整備経費」と、手当の継続支給をサポートする「業務代替手当の定率補助」という二本立てで構成されています。

まず、「業務体制整備経費」は、休業者発生に備えた業務の棚卸しや見直し、そして就業規則への手当制度の新規規定といった初期投資に対する定額のインセンティブです。支給額は育休期間に応じて設定され、1か月未満の短期休業で2万円、1か月以上の本格休業では一律5万円が一時金として支給されます。

次に、「業務代替手当の補助」は、事業主が業務代替者に実際に支払った手当総額に対し、4分の3という非常に高い補助率が適用されます。この助成には「月額10万円」という高額な上限が設けられており、最大で12か月分の支給が可能です。

したがって、対象者1人あたりの最大受給額は、「業務体制整備経費5万円 + (月額上限10万円 × 12か月)」を合計した最大125万円に達する、非常に大きな金額となります。

この高い補助率が企業経営にもたらす実質的なメリットを理解するために、小売業の4人体制小規模部署を想定したシミュレーションを以下に示します。

項目金額・内容備考
企業の毎月の手当支給総額月額 120,000円同僚3人に対し、毎月4万円ずつの「フォロー手当」を支給した場合
助成金による国からの補助額月額 90,000円支給総額12万円の4分の3が助成対象となる
企業の実質的な自己負担額月額 30,000円12万円を支給しても、実質の持ち出しは3万円に留まる
初回の業務体制整備経費50,000円初回支給時に一時金として助成される

この試算が示す通り、同僚3人に対して毎月4万円という手厚いサンキューペイを支給しても、企業が実際に負担する毎月の費用(実質負担額)はわずか3万円に抑えられます。この強力なレバレッジ効果を活用することで、資金力に乏しい中小企業でも、大企業に引けを取らない魅力的な還元制度を構築することが可能になります。

この手厚い助成金を受給するためには、単に同僚に金銭を支払うだけでは不十分であり、以下の厳格な要件とプロセスを適正に履行し、その証拠を労働局に提出することが求められます。

【助成金受給のための厳格な要件とプロセス】

  1. 対象育児休業の期間:対象労働者が連続7日以上の育児休業を取得すること。
  2. 制度の確立と周知:サンキューペイ(業務代替手当)の支給要件、算定ルールを就業規則または賃金規程に明記し、労働基準監督署へ届け出ること。
  3. 業務の代替体制整備:休業開始前に、代替業務の洗い出し、効率化を図り、誰がどの業務を担当するか明確にすること。
  4. 手当の確実な支給と証明:規定に基づき、業務代替者に対して実際に手当を支給し、その実績を賃金台帳や給与明細等で客観的に証明できること。

手当支給(短時間勤務)

育児休業からの復帰後、多くの労働者は「育児のための短時間勤務制度」(時短勤務)を利用します。所定労働時間の短縮(例:8時間から6時間)により生じる不足労働時間(この例では2時間)は、他の同僚が代替することになります。この「復帰後の潜在的な業務代替負担」に対しても、手当支給(短時間勤務)が設けられています。

短時間勤務制度利用における助成制度の概要

基本的な助成構造は、手当支給等(育児休業)同様に、体制整備経費(一時金)と手当の定率補助から構成されます。

  1. 業務体制整備経費(一時金):
    • 時短勤務利用者の業務代替体制を構築し、関連規程を整備した事業主に対し、一律2万円が支給されます。
  2. 業務代替手当の補助(月額補助):
    • 事業主が代替者に対して支給した手当総額の4分の3が助成されます。
    • ただし、完全な業務代替ではないため、助成の上限は「月額3万円」と低く設定されています。

【特筆すべき点:助成期間の長さと最大受給額】

この区分で特筆すべきは、助成の対象期間が「対象の子が3歳に達するまで」と長く設定されている点です(支給申請は1年ごとに区切る必要があります)。

例えば、子が1歳で復帰し、3歳になるまでの約2年間(24か月)手当を継続して支給した場合、最大受給額は「業務体制整備経費2万円 + (上限3万円 × 24か月)」となり、最大約110万円の助成を受けることが可能です。5.2 適用要件(国の定める基準)

この助成区分を利用するためには、「育児短時間勤務制度」の運用が国の定める以下の基準を満たしている必要があります。

  • 所定労働時間: 原則として、労働者の1日の所定労働時間が7時間以上であることが前提となります。
  • 変形労働時間制等の場合の例外: 所定労働時間が7時間未満となる日がある場合でも、それが1週間において2日以内であることが要件です。シフト制や変形労働時間制を採用する企業は、勤務実績の厳格な管理が求められます。
  • 利用期間: 短時間勤務の利用期間が連続して1か月以上であることが必要です。

新規雇用(育児休業)

手当支給(育児休業)、手当支給(短時間勤務)は、既存従業員による業務カバーを前提としていますが、現実には、高度な専門性を要する業務や、既存従業員がすでに業務過多でこれ以上の業務引受が不可能な状況も多く発生します。

新規雇用(育児休業)は、このようなケースで組織の生産性を維持するため、育休取得者の代替要員を外部から新たに雇用する(または人材派遣を受け入れる)際にかかる費用を助成する制度です。

新規雇用より手当支給がよいと思います

育休取得者が発生した時に、タイミングよく新規雇用するのはなかなか難しいです。

したがって、両立支援等助成金の「育休中等業務代替支援コース」の利用を念頭において、育休取得者の業務を肩代わりする従業員は、手当支給で支援するのがよいと思います。

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