タイトルの通り、三重県のパブリックコメント募集に応募しました。以下、応募文面をそのまま転載します。
目次
前書き
※三重県人権施策基本方針(第三次改定)【中間案】は、単に【中間案】と表記します。
※第五次人権が尊重される三重をつくる行動プラン【素案】は、単に【素案】と表記します。
三重県伊賀市の中川勉と申します。全国社会保険労務士会連合会で「ビジネスと人権」部会の委員をさせていただいております。
「事業者が積極的に人権問題に取り組めるようになるにはどうしたらよいか」という観点で意見を申し上げます。
「三重県人権施策基本方針(第三次改定)」または「第五次人権が尊重される三重をつくる行動プラン」にて、あるいはその両方で、明記すべきと思うところを、下記の通りいくつか提案させていただきます。
なお、本書面の記載内容は、全国社会保険労務士会連合会や三重県社会保険労務士会とはかかわりなく、私個人が一県民として意見を表明したものです。その点ご了承ください。
提案Ⅰ 県と商取引を行う企業等に対して「ビジネスと人権」の考え方に沿った行動(特に人権DD)を義務付けることを明言する
該当箇所
【中間案】p.1「『ビジネスと人権』に関する社会的な関心の高まりを背景とした取組の推進などの人権をめぐる社会の変化を反映しました。」
【中間案】p.6「『最近5年間で、県や市町が主催する講演会や研修会に一度も参加したことがない』と回答した人の割合が79.3%。…社会的関心の高まった事象をテーマにした学習会等を開催するなど、より効果的な手法等を検討しながら、人権啓発活動を進めていくことが必要です。」
【素案】p.3全体
【素案】p.5(3)事業者等への啓発活動の推進
【素案】p.8(4)②事業者・団体の人権教育の取組促進
【中間案】p.1,p.6 の記述から、三重県が今後「ビジネスと人権」に関する学習会を数多く開催することが伺い知れます。
三重県のやる気や本気を感じ取ることができ、大変すばらしいことだと思います。
確かに、「ビジネスと人権」のように、社会の関心が高まったテーマをとらえて、テコ入れを行うのは効果的です。
しかし、ただ関心の高まりを待つだけではなく、積極的に関心を高める施策にも、もっと力を入れるべきだと思います。
義務付けを明言すれば、否が応でも関心が高まり、研修等への参加率も上がる
例えば、「県と商取引を行うなど県から資金が流入することとなる全ての企業に対し、「ビジネスと人権」の考え方に沿った行動(特に人権DD実施)を義務付けていく」旨を明言するのはどうでしょう。
義務付けの対象となる企業においては、「ビジネスと人権」に取り組むことが業務の一部になるため、否が応でも人権への関心が高まります。
そして、その関心は、傍観者としてのものではなく、人権を完全に自分事としてとらえたものになります。
義務付けの対象となる企業向けに、「県と商取引を行うために、最低限必要な『ビジネスと人権』に関する基礎知識」などと銘打って県や市町が研修会を主催すれば、高い参加率が期待できるはずです。
自治体は取引先に「ビジネスと人権に関する指導原則」を順守させるべき
県と商取引を行う企業等に対して「ビジネスと人権」の考え方に沿った行動(特に人権DD)を義務付けるというのは、「ビジネスと人権に関する指導原則」における次のような規定に則った行動です。
4.国家は、国家が所有または支配している企業、あるいは輸出信用機関及び公的投資保険または保証機関など、実質的な支援やサービスを国家機関から受けている企業による人権侵害に対して、必要な場合には人権デュー・ディリジェンスを求めることを含め、保護のための追加的処置をとるべきである。
5.国家は、人権の享受に影響を及ぼす可能性のあるサービスを提供する企業と契約を結ぶか、あるいはそのための法を制定している場合、国際人権法上の義務を果たすために、しかるべき監督をすべきである。
6.国家は、国家が商取引をする相手企業による人権の尊重を促進すべきである。
ビジネスと人権に関する指導原則:国際連合「保護、尊重及び救済」枠組実施のために(A/HRC/17/31) | 国連広報センター
三重県は国家ではないので、三重県がここまでする義務はないのかもしれません。一方で、三重県は国家と同様、行政を担当するわけですから、国家と同様に取引相手の人権尊重を促すべく行動すべきとも言えそうです。
それはさておき、人権への関心を高めて人権に関連する講演会や研修会への参加率を上げる点で、県と商取引を行う企業等に対して「ビジネスと人権」の考え方に沿った行動(特に人権DD)を義務付けるのは、明らかに効果的です。
県と商取引を行う企業等に対して「ビジネスと人権」の考え方に沿った行動(特に人権DD)を義務付ける旨を明記すべきだと思います。
提案Ⅱ 県の事業者向け人権施策を、全て「ビジネスと人権」に完全準拠させることを明言する
該当箇所 【中間案】全般
県の事業者向け人権施策は、【中間案】の段階でも、「ビジネスと人権」から逸脱するものではありません。
ある程度人権に関する知識のある人が【中間案】を読めばそれは自明です。
それでもあえて「県の事業者向け人権施策は全て『ビジネスと人権』に完全準拠する」旨を明言するべきです。
企業は「ビジネスと人権」への対応で大変
いま、日本を含む世界全体で、企業に対して「ビジネスと人権に関する指導原則」に則った行動を求める圧力が強まっています。
欧米先進国では、「ビジネスと人権に関する指導原則」で規定された人権デューディリジェンスの少なくとも一部の実施を、企業に対して法律で義務付ける流れです。
日本においては、法律による人権デューディリジェンスの義務化こそされていませんが、政府が「『ビジネスと人権』に関する行動計画」や「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」を発出しています。
日本国内の企業に対して「ビジネスと人権に関する指導原則」に則った行動を求める圧力は、今後も年々高まり続けます。
そして、「ビジネスと人権」の遵守状況がひどい場合、某芸能事務所のように、取引先から取引を打ち切られることもあり得ます。
「ビジネスと人権」は、もはや単なる人権問題ではなく、企業存亡にかかわる経済リスクともなっています。
県の施策が「ビジネスと人権」と一致する旨を明言することで、事業者の負担感が減り、県の施策への積極的な取り組みにつながる
しかし、「ビジネスと人権」遵守には、かなりの負担が伴います。
この状況で、「『ビジネスと人権』とは全く異なる『県の人権施策』に対応しなければならない」と事業者が考えてしまったとしたら、どんなことが起きるでしょうか。
事業者にとって、「県の人権施策」への取り組みは、単に負担を増大するものにしか見えません。
一方、「『県の人権施策』は『ビジネスと人権』の一部だ」と事業者が考えてくれたらどうでしょう。
事業者にとって、「県の人権施策」への対応は、「ビジネスと人権」遵守に伴う負担を軽くしてくれるものに見えるはずです。
明言せずとも自明ですが、敢えて明言することに意味がある
先ほども言いましたが、【中間案】の段階でも、県の事業者向け人権施策は「ビジネスと人権」から逸脱するものではありません。
ある程度人権に関する知識のある人からすればそれは自明です。しかし、皆が皆、知識があるわけではありません。
「県の事業者向け人権施策は全て『ビジネスと人権』に完全準拠する」旨をあえて明言するべきです。
提案Ⅲ 課題別施策の全てについて、「国際的に認められた人権」のどれに関連するかを明示する
該当箇所 【中間案】p.10-p.24
「ビジネスと人権に関する指導原則」では、企業が遵守すべき「国際的に認められた人権」の最低限度が明瞭に定義されています。
国際的に認められた人権には、少なくとも、国際人権章典で表明されたもの、及び、「労働における基本的原則及び権利に関する ILO 宣言」に挙げられた基本的権利に関する原則が含まれる。
「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン 」p.7
「国際的に認められた人権」は、最低限度の部分に限ると、限定列挙で表現することが可能なはずです。
事業者にとって三重県人権施策基本方針(第三次改定)が取り組みやすいものになるよう、各課題別施策が限定列挙された「国際的に認められた人権」のうちどの項目に関連するかを明記するべきです。
提案Ⅳ 外国人の人権に関する研修の充実を明言する
該当箇所 【素案】p.6 – p.7、1 データに見る現状~「人権問題に関する三重県民意識調査」結果より■あなたは学校や職場、地域で、次のような人権学習を受けたことがありますか。
該当箇所に掲載されているグラフを見るかぎり、外国人の人権問題についての学習経験率が、部落差別や障害者の人権問題についての学習経験率よりも圧倒的に低いです。
※以下、該当箇所よりグラフを転載したものです。3つの画像は、縦方向の%を表すメモリの幅がほぼ同じになるように調整しています。
外国人の人権問題は最も深刻な人権課題
客観的に見て、外国人の人権に関する問題は、部落差別や障害者の人権問題よりも深刻です。
課題別施策の対処となっている人権課題の中でも、外国人の人権問題が最も深刻なのではないでしょうか。
実際、日本で働く外国人技能実習生のうちかなりの割合が、「国際的に認められた人権」の観点では「強制労働させられている状態」に該当します。移動の自由が制限される事態も、無視できない割合で生じています。
「強制労働」を強いられて奴隷の一歩手前の状態まで追い込まれている事例など、部落差別や障害者の人権問題ではほとんど見られないはずです。
また、そのような酷い強制労働を利用して他国で作られた製品が、日本に大量に入ってきていることも問題です。
深刻な問題ほど手厚く対処すべき
ところが、外国人の人権に関する問題は、部落差別や障害者の人権問題に比べて、学習が進んでいないという現実があります。
おそらく、学習以外の人権擁護の取り組みについても、外国人の人権問題よりも部落差別や障害者の人権問題の方に、より多くのリソース(ヒトモノカネ)が投下されているのではないでしょうか?
人権リスクに限りませんが、リスクというものは深刻なものから順に対処するべきものです。
しかし、少なくとも人権学習については、深刻なものほど対処が遅れていると言わざるを得ない状況だと思います。
これを改善すべく、課題別施策の中で、外国人の人権に関する研修を最も充実させる旨を明記すべきです。