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JASTI 1-1-1 (強制労働)遵守の証拠

JASTI 1-1-1 の遵守を、どのような証拠をもって示せばいいか、簡単にまとめます。

重要な注意点

ここで挙げる証拠は、遵守を示すための具体例です。しかし、これらを全て揃えればそれで完ぺきということはなく、すべて揃わなくても十分に遵守を証明又は疎明できることもあります。それは御社の状況次第、そして監査の判定基準次第です。

詳しくは私どもHCDコンサルティングにお尋ねください。

JASTI 1-1-1 原文

工場は、囚人労働を含む強制労働をさせてはならない。また、強制労働を 行わない旨の方針を定めなくてはならない。 注:強制労働は、ILO の Forced Labour Indicators (11 の指標)に基づき判 断される。 囚人労働は、⺠間企業が国または公的機関と契約を締結し、刑務官等の管 理の下で行われる刑務作業を除く。

達成すべきコミットメント

「私たちは強制労働をさせません。※労働が、強制労働に該当するか否かは、ILO の Forced Labour Indicators (11 の指標)に基づき判断します。」

補足説明:強制労働とは

ILO(国際労働機関)は、強制労働を「ある者が処罰の脅威の下に強要され、かつ、その者が自らの自由意思で申し出たものではない一切の労務」と定義しています。これには、国家当局、民間企業、個人による強制的な労働慣行が含まれます。「処罰の脅威」には直接的な脅迫だけでなく、心理的圧力や依存関係の構築も含まれ、「非自発性」とは、自由かつ十分な情報に基づいて仕事に就いていない、または自由に離れられない状態を指します。

企業は、ILOが示す11の指標に該当するリスクがないことを具体的な証拠で示す必要があります。これは「強制労働が存在しない可能性が高い」ことを示すものであり、「リスクを最小限に抑える措置が講じられ、労働者の権利が尊重されている」ことを示すことが重要です。

コミットメント達成の意義

このコミットメントは、すべての人々の尊厳と権利を尊重し、倫理的かつ持続可能な事業運営を行うという企業の基本的な責任を表明するものです。強制労働の排除は、労働者の人権を保護し、公正な労働条件を確保する上で不可欠です。これにより、企業は法的リスクやレピュテーションリスクを回避し、従業員のエンゲージメントと生産性を向上させ、サプライチェーンにおける透明性と信頼性を高めることができます。国際的な基準を遵守し、社会からの信頼を得ることで、企業価値の向上にも繋がります。

ILO 強制労働11の指標と遵守を裏付ける証拠

1. 脆弱性の悪用

労働者が置かれている弱い立場(貧困、差別、不法移民、若年等)を利用し、不当な労働条件や搾取を受け入れさせる。

遵守を示す証拠 (例):
  • 脆弱な立場にある労働者を悪用していないことを示す記録。
  • 募集・斡旋プロセスの透明性・公正性を示す記録(手数料不徴収の確認等)。
  • 労働条件を理解できる言語で明示した雇用契約書、労働者へのヒアリング記録。
  • 差別のない採用・雇用方針、公正な処遇方針。
  • 移民労働者等への支援・権利に関する明確なコミュニケーション記録。

2. 欺き(だますこと)

労働条件や労働環境について労働者を欺き、虚偽の情報を提供する。

遵守を示す証拠 (例):
  • 募集要項、雇用契約書、労働条件通知書の内容の正確性を示す記録。
  • 労働者が理解できる言語での雇用条件の明示。
  • オリエンテーションや研修の内容記録。
  • 採用仲介業者が手数料を請求していないかの調査記録。
  • 透明で正確な求人情報と、労働者による条件理解の確認。

3. 移動の制限

就業時間外に職場や寮からの移動を制限・監視する、または身分証明書を保管・没収する。

遵守を示す証拠 (例):
  • 就業規則等で就業時間外の移動制限がないことを示す規定。
  • 労働者へのヒアリングによる移動の自由の確認。
  • 身分証明書の保管・没収がなく、自由に持ち出せる状態を示す記録。
  • 移動の自由を明確に述べた方針、監禁不在の物理的確認。
  • 労働者による個人文書への自由なアクセス確認。

4. 孤立

労働者を支援ネットワークや助けを求める手段から隔離し、地域や社会生活から排除する。

遵守を示す証拠 (例):
  • 労働者へのヒアリングによる孤立していないことの確認。
  • 家族・友人との連絡手段(電話・ネット)を保証する方針と実務。
  • 支援団体、労働組合、領事サービスに関する情報提供の証拠。
  • 遠隔地の場合、合理的な交通手段へのアクセス保証。
  • 多言語対応の支援サービスや地域社会との連携の証拠。

5. 身体的・性的暴力

労働者本人やその家族等への身体的暴力、言葉の暴力、性的暴力を振るう。

遵守を示す証拠 (例):
  • 暴力・ハラスメント禁止に関する企業方針。
  • 内部通報窓口や苦情処理制度の設置・運用記録。
  • 労働者への暴力・ハラスメント防止研修記録。
  • ゼロ・トレランス方針、安全な報告窓口、インシデント対応記録。

6. 威嚇・脅迫

処罰による脅威(解雇、告発、国外追放等)や、ストライキ参加等への制裁として労働を強制する。

遵守を示す証拠 (例):
  • 就業規則等で不当な制裁がないことを示す規定。
  • 労働組合法等の遵守、結社の自由・団結権の尊重。
  • 労働者・労働組合代表との対話記録。
  • 社内窓口への通報記録、苦情処理メカニズムの記録。
  • ハラスメント・脅迫防止方針、内部告発者保護の証拠。
  • 違約金等を予定する契約をしていないこと(雇用契約書)。

7. 身分証明書の留保

労働者のパスポートや在留カード等を保管し、自由に持ち出せない状態にする。

遵守を示す証拠 (例):
  • 身分証明書類の管理に関する社内規程(会社が保管しない、労働者が自由にアクセス可能)。
  • 保管場所の確認記録(会社による保管がないこと)。
  • 労働者へのヒアリングによる、身分証明書の自己管理確認。
  • 本人の意思に基づく安全な保管オプション(自由アクセス保証)の記録。

8. 賃金の未払いや留保

賃金の支払いを遅らせる、全額支払わない、最低賃金や残業代を支払わない。

遵守を示す証拠 (例):
  • 賃金台帳、給与明細。
  • 法令・労働契約等に基づく適切な賃金支払いの記録。
  • 賃金からの不当な控除(前借金との相殺等)がない記録。
  • 適時かつ全額の賃金支払い記録、透明性のある給与明細。
  • 最低賃金法遵守の記録。

9. 債務拘束

労働者の借金を理由に、職業に関する自由や権利がない中で労働させる(募集手数料の借金等)。

遵守を示す証拠 (例):
  • 労働を条件とする前貸(前借金)がない、または適切に管理されている規程。
  • 社内貸付金一覧表(不当な貸付がないことの確認)。
  • 違約金等を予定する契約をしていないことを示す雇用契約書等。
  • 採用費用の「雇用者負担原則」遵守の証拠。
  • 保証金禁止の方針と実務。

10. 劣悪な労働・生活環境

安全で健康的でない作業環境、または劣悪な生活環境(過密、不衛生な寮等)を提供する。

遵守を示す証拠 (例):
  • 労働安全衛生に関する方針や規程。
  • 作業環境測定結果、健康診断結果報告書。
  • 勤怠管理記録(労働時間、休憩、作業量の適正化)。
  • 社員寮の状況確認記録(清潔さ、安全性、水・衛生設備等)。
  • 労働安全衛生法遵守の記録(安全記録、リスク評価、PPE提供等)。
  • 労働者からの苦情・通報と是正措置の記録。

11. 過剰な労働時間

法定時間を超えた過剰な時間外労働、休日・休暇・休憩を与えずに労働者の意思に反して働かせる。

遵守を示す証拠 (例):
  • タイムカード、勤怠管理表、作業報告書。
  • 36協定書(労働者代表との協定)。
  • 年次有給休暇管理簿。
  • 休憩時間、休日の適切な付与を示す記録。
  • 時間外労働が任意である証拠(同意書、方針等)。
  • 割増賃金の適切な支払い記録。
  • 労働者インタビューによる任意性の確認。

その他の重要な証拠

1. 基盤となる方針とガバナンス

遵守を示す証拠 (例):
  • 公開された人権方針(強制労働の明確な禁止、ILO定義・指標参照、ゼロ・トレランス表明)。
  • 人権方針の取締役会承認記録、多言語対応、定期的な見直し記録。
  • 人権デューディリジェンス(HRDD)実施記録(リスク評価、緩和策、プロセス適応の証拠)。

2. 労働者エンゲージメントと苦情処理

遵守を示す証拠 (例):
  • 労働者の声を取り入れるチャネルの証拠(労働者調査、提案箱、労働者委員会等)。
  • アクセス可能で実効性のある苦情処理メカニズムの証拠(UNGPs基準合致)。
  • 苦情処理手順の文書化と伝達、複数チャネル、苦情の受付・調査・解決記録。
  • 移民労働者へのアクセス保証(言語サポート、文化的配慮等)。

3. サプライチェーン管理

遵守を示す証拠 (例):
  • サプライヤー行動規範(強制労働禁止、ILO基準遵守)。
  • サプライヤーのリスク評価、監査、是正措置計画の記録。
  • サプライチェーンの透明性とトレーサビリティ努力の証拠(マッピング等)。

4. 文書化および記録管理

遵守を示す証拠 (例):
  • 包括的な記録管理システム(方針、研修、契約書、給与、監査、苦情、是正措置等)。
  • 文書の体系的保持、検索・監査可能性の証拠。
  • 記録分析による体系的問題特定と予防措置改善の証拠。

継続的な取り組みと検証

これらの証拠は、それぞれが独立して存在するだけでなく、相互に整合性が取れていること(証拠の連鎖)が重要です。コンプライアンスは一度達成すれば終わりではなく、法改正や社内規程の変更に対応し続ける継続的な努力が必要です。企業は、これらの各指標に関連するリスクを特定し、適切に対処していることを示す様々な資料や活動の記録を収集・維持する必要があります。単一の証拠が十分であることは稀であり、むしろ、相互に関連し合うポリシー、実務、そして検証メカニズムから成る一貫したシステムを通じて、コミットメントの達成を立証する必要があります。ポリシーの存在だけでは不十分であり、その効果的な実施と労働者の生活への検証可能な影響を示すことが不可欠です。リスクは常に変化するため、企業は人権デューディリジェンスのプロセスを定期的に見直し、改善していく必要があり、労働者やその他のステークホルダーとの対話が不可欠です。

JASTI監査のコンサルティングは当事務所へ

JASTIは、中小企業等が最低限遵守すべき事項を社会人権面を中心に網羅した監査要求事項・評価基準から成り、ILO(国際労働機関)中核的労働基準を含みます。

当事務所代表は、全国社会保険労務士会連合会「ビジネスと人権」研修等ILO駐日事務所の技術協力で構築された研修で、何度もファシリテーターや講師を務めてります。

JASTI監査に向けたコンサルティングは、当事務所にお任せください。