JASTI 1-2-1 の遵守を、どのような証拠をもって示せばいいか、簡単にまとめます。
重要な注意点
ここで挙げる証拠は、遵守を示すための具体例です。しかし、これらを全て揃えればそれで完ぺきということはなく、すべて揃わなくても十分に遵守を証明又は疎明できることもあります。それは御社の状況次第、そして監査の判定基準次第です。
詳しくは私どもHCDコンサルティングにお尋ねください。
要求事項原文
JASTI 1-2-1 「工場は、身分証明書やパスポート等、従業員の身分を保証する文書、在留 カード、マイナンバーカード、現金や貯金通帳、銀行口座のカード、保険証などを預託させてはならない。」
達成すべきコミットメント
「私たちは、労働者等に対して、身分証明書やパスポート等、労働者等の身分を保証する文書、在留カード、マイナンバーカード、現金や貯金通帳、銀行口座のカード、保険証などを預託させません。」
補足説明:身分証明書等の預託と強制労働
国際的に認められた人権の尊重および日本の国内法遵守の観点から、このコミットメントを達成するには、強制労働の11の指標に該当するリスクがないことを証明する具体的な証拠が必要です。身分証明書やパスポート等の留保は、これらの11の指標の一つである「脆弱性の悪用」や「身分証明書の留保」の具体的な行為例として挙げられ、これは強制労働における「非自発性」を基礎づける重要な要素です。
企業がこのようなコミットメントの達成を実証するには、単一の証拠だけでなく、相互に関連し合う方針、実務、そして検証メカニズムから成る一貫したシステムを通じて示すことが不可欠です。方針が存在するだけでなく、その効果的な実施と労働者の生活への検証可能な影響を示すことが求められます。
コミットメント達成の意義
このコミットメントは、労働者の移動の自由と自己決定権を尊重し、強制労働のリスクを排除するために不可欠です。身分証明書等の不当な預託を防ぐことは、労働者が不当な束縛や搾取から保護され、公正かつ尊厳ある労働条件を享受できるようにするために重要です。企業はこれにより、法的義務を遵守し、レピュテーションリスクを低減させるとともに、労働者の信頼とエンゲージメントを高め、持続可能なサプライチェーンの構築に貢献します。
身分証明書等の不当な預託禁止:遵守を裏付ける証拠
1. 方針および規則
身分証明書等の預託を明確に禁止する公式な方針や規則の存在。
- 人権方針・労働者の権利に関する方針(身分証明書、パスポート、在留カード、マイナンバーカード、現金、貯金通帳、銀行カード、保険証等の預託禁止条項)。
- 上記禁止事項を盛り込んだ企業行動規範。
- 人事・法務・管理職向け内部指示書・伝達事項。
- 方針承認を示す取締役会・上級管理職会議の議事録。
- 方針伝達を示す企業ウェブサイト、公式声明。
- 方針遵守プロセスの明確化(研修、契約審査、苦情処理メカニズム)。
2. 雇用契約
雇用契約において、身分証明書等の預託を求めないことが明記されていること。
- 標準雇用契約テンプレート(身分証明書等預託要求禁止の明確かつ法的有効な条項)。
- 全労働者使用言語への契約翻訳版。
- 労働者署名入り確認書(契約条件、特に預託がないことの受領・理解)。
- 契約テンプレートが国内労働法や企業の人権コミットメントに準拠している旨の法務専門家の意見書。
- 労働者が理解できる言語による契約条件説明に関する文書化された手順。
3. 実施・運用上の保護
労働者が実際に身分証明書等を自身で管理できていることを示す運用上の証拠。
- 労働者が身分証明書等を自身で管理している証拠(例:労働者への確認、保管場所の確認)。
- 身分証明書等の保管場所・管理方法に関する規定・手順(企業が保管しない、または本人の意思で安全に保管し自由アクセスを保証する場合)。
- 実際に身分証明書等の預託を行っていないことを示す現場での確認記録。
4. モニタリング・是正
身分証明書等の預託に関する問題を監視し、発見された場合は是正する仕組み。
- 定期的な内部監査・チェックリスト(身分証明書等預託問題の確認)。
- 労働者ヒアリング記録(身分証明書等の自己管理確認、特に外国人労働者・技能実習生等への丁寧なヒアリング)。
- 違反特定時の調査記録。
- 違反特定時の是正措置記録(返却記録、再発防止策実施記録)。
- 過去の是正措置に関する正式な方針(人権への真のコミットメント指標)。
5. 対話・コミュニケーション
労働者が懸念を表明できる窓口の存在と、それを通じた対話の記録。
- 相談窓口・苦情処理メカニズムの存在と周知を示す文書。
- 苦情処理メカニズムの公正性・アクセス可能性・予測可能性・公平性・透明性の確保。
- 相談窓口への預託懸念報告時の対応記録。
- 労働者・労働組合・労働者代表との対話記録(身分証明書管理状況の確認)。
6. 文書化・記録管理 (補足)
上記各証拠を体系的に収集・維持し、その有効性を定期的に評価すること。
- 包括的な記録管理システム(方針、研修、契約書、監査、苦情、是正措置等)。
- 文書の体系的保持、検索・監査可能性の証拠。
- 記録分析による体系的問題特定と予防措置改善の証拠。
継続的な取り組みと検証
要求事項の遵守やコミットメントの達成を示すには、相互に整合性が取れていること(証拠の連鎖)が重要です。 単一の証拠が十分であることは稀であり、相互に関連し合う方針、実務、そして検証メカニズムから成る一貫したシステムを通じて、 要求事項の遵守やコミットメントの達成を立証する必要があります。 要求事項の遵守やコミットメントの達成は一度だけではだめです。 リスクは常に変化するため、企業は変化に対応し続ける継続的な努力が必要です。 企業は、これらに適切に対処していることを示す様々な資料や活動の記録を、収集・維持する必要があります。
JASTI監査のコンサルティングは当事務所へ
JASTIは、中小企業等が最低限遵守すべき事項を社会人権面を中心に網羅した監査要求事項・評価基準から成り、ILO(国際労働機関)中核的労働基準を含みます。
当事務所代表は、全国社会保険労務士会連合会「ビジネスと人権」研修等ILO駐日事務所の技術協力で構築された研修で、何度もファシリテーターや講師を務めてります。
JASTI監査に向けたコンサルティングは、当事務所にお任せください。