JASTI 1-2-2 の遵守を、どのような証拠をもって示せばいいか、簡単にまとめます。
重要な注意点
ここで挙げる証拠は、遵守を示すための具体例です。しかし、これらを全て揃えればそれで完ぺきということはなく、すべて揃わなくても十分に遵守を証明又は疎明できることもあります。それは御社の状況次第、そして監査の判定基準次第です。
詳しくは私どもHCDコンサルティングにお尋ねください。
JASTI 1-2-2 原文
工場は、従業員から保証金の徴収・違約金を定める契約または損害賠償額を予定する契約をしてはならない。
達成すべきコミットメント
「私たちは、労働者等から保証金を徴収せず、また雇用契約に違約金や損害賠償予定額を定める条項を含めません。」
補足説明:保証金・違約金と強制労働
労働者からの保証金徴収や、雇用契約における違約金・損害賠償予定の設定は、強制労働の重要な指標とみなされ、国際人権基準および日本の国内法(労働基準法)で禁止されています。これらの慣行は労働者の自由を不当に拘束し、脆弱性を悪用するリスクを高めます。
コミットメント達成の意義
このコミットメントの達成は、強制労働リスクを排除し、労働者の権利と尊厳を守るために不可欠です。企業は法的義務を遵守し、レピュテーションリスクを低減させるとともに、労働者の信頼とエンゲージメントを高め、国際的な人権基準への適合を示し、持続可能なサプライチェーンの構築に貢献します。
保証金・違約金・賠償予定禁止:遵守を裏付ける証拠
1. 明確な方針と契約
労働者からの保証金徴収、違約金・損害賠償予定の設定を明確に禁止する公式方針の存在と、それが雇用契約に法的に有効な形で反映されていること。
- 人権方針・労働者の権利に関する方針(保証金・違約金・損害賠償予定の禁止条項明記)。
- 上記禁止事項を盛り込んだ企業行動規範。
- 方針承認を示す取締役会・上級管理職会議の議事録。
- 標準雇用契約テンプレート(禁止条項の不在と、保証金・違約金が要求されない旨の明確な記述)。
- 全労働者使用言語への契約翻訳版。
- 契約条件(特に金銭的保証金や退職違約金がないこと)の受領・理解を確認する労働者からの署名入り確認書。
- 契約テンプレートの国内労働法・企業人権コミットメント準拠に関する法務意見書。
2. サプライチェーン管理
保証金不徴収・違約金不設定の原則をサプライチェーンにも拡大し、サプライヤーにも遵守を求める体制。
- これらの慣行を明確に禁止する企業のサプライヤー行動規範。
- サプライヤー行動規範の遵守を法的に義務付けるサプライヤーとの契約合意書。
- これらの特定の点に関するサプライヤー自己評価質問票(SAQ)の記録。
- これらの特定の禁止事項に関するサプライヤーのコンプライアンスを検証するサプライヤー監査報告書。
- これらの要件に関するサプライヤーへのコミュニケーションおよび研修の証拠。
- サプライヤーによる不遵守に対処するためのプロセス(是正措置計画、事業関係終了の可能性を含む)。
3. 労働者の意識向上と権利擁護
全労働者が保証金・違約金禁止の方針を理解し、自身の権利として認識し、懸念を表明できる環境が整備されていること。
- 保証金・違約金禁止方針を記載したオンボーディング資料(従業員ハンドブック、研修ビデオ等)。
- 研修セッション記録(日付、出席者、指導言語、理解度確認結果を含む)。
- 方針を受領・理解したことを確認する労働者からの署名入り確認書。
- 労働者が理解できる言語で方針を伝達する職場掲示物やイントラネット情報。
- 労働者が理解できる言語に翻訳された、アクセスしやすく機密性が保たれた苦情処理手順の文書。
- 苦情処理システム(電話、メール、相談窓口等)の証明と周知の記録。
4. 財務・給与システムの完全性
財務・給与システムが、禁止された保証金・違約金の控除や不正な会計処理を防止するよう設計・運用されていること。
- 保証金・違約金のための控除コードが存在しないことを示す給与システム構成レポート。
- そのような控除がないことを示す匿名化された給与明細の抜粋。
- 禁止された控除の不在を検証する内部財務監査報告書またはチェックリスト。
- 「預り金」「雑収入」等の勘定科目が保証金等を隠蔽するために使用されていないことを示す会計方針及び照合記録。
- 給与外での徴収がないことを確認するための銀行取引明細書との照合。
5. 監査とモニタリング
内部および第三者による監査、労働者インタビューを通じて、方針の遵守状況を客観的かつ定期的に検証していること。
- 保証金・違約金不徴収の検証を含む内部監査の範囲文書、計画、報告書。
- 内部監査調査結果に基づく是正措置計画と完了の証拠。
- 完全な第三者社会監査報告書(SMETA、SA8000等)で、関連項目での遵守を確認。
- 監査に関連する是正措置計画報告書(CAPR)。
- 倫理的かつ機密に実施される労働者インタビューのプロトコルと、保証金・違約金に関する経験についての匿名化・集計された調査結果。
- 労働者インタビュー実施者の研修記録。
6. 継続的改善と是正措置
方針・手順を定期的に見直し更新するとともに、万一不遵守が発見された場合に迅速かつ公正に是正する体制が整備されていること。
- 定期的な方針レビューの記録(経営会議議事録等)。
- 方針、契約テンプレート、研修資料の改訂版(版管理、更新日明記)。
- 法令変更や国際基準の更新によって、方針をどのように見直したかについての記録文書。
- 不遵守が特定された場合の是正方針(調査、返金、再発防止)。
- 過去の是正措置に関して、匿名化されたケースファイルを作成する(該当する場合、返金額、対象労働者、システム変更等)。
- 返金を検証する財務記録および労働者による受領確認書(該当する場合)。
継続的な取り組みと検証
これらの証拠は、企業が労働者からの保証金徴収や違約金設定をしないというコミットメントを実質的に達成していることを多角的に示すものです。重要なのは、禁止事項を方針として掲げるだけでなく、それが企業活動のあらゆる側面に浸透し、研修、システム、監査、そしてサプライチェーン全体を通じて継続的に実施・検証され、必要に応じて是正される生きた原則であることを示すことです。国際人権基準の動向や法改正、リスクの変化に対応し、労働者やステークホルダーとの対話を通じて、常に人権デューディリジェンスのプロセスを見直し、改善していく必要があります。
JASTI監査のコンサルティングは当事務所へ
JASTIは、中小企業等が最低限遵守すべき事項を社会人権面を中心に網羅した監査要求事項・評価基準から成り、ILO(国際労働機関)中核的労働基準を含みます。
当事務所代表は、全国社会保険労務士会連合会「ビジネスと人権」研修等ILO駐日事務所の技術協力で構築された研修で、何度もファシリテーターや講師を務めてります。
JASTI監査に向けたコンサルティングは、当事務所にお任せください。