JASTI 1-5-2 1-5-3 の遵守を、どのような証拠をもって示せばいいか、簡単にまとめます。
重要な注意点
ここで挙げる証拠は、遵守を示すための具体例です。しかし、これらを全て揃えればそれで完ぺきということはなく、すべて揃わなくても十分に遵守を証明又は疎明できることもあります。それは御社の状況次第、そして監査の判定基準次第です。
詳しくは私どもHCDコンサルティングにお尋ねください。
JASTI 1-5-2 原文
工場は、従業員が行う食事、水分摂取、トイレ、治療行為や通院、その他 必要な行為に対し、正当な理由なく報復や懲戒を科してはならない。
JASTI 1-5-3 原文
工場は、正当な理由なく、以下の従業員の行動を制限してはならない。
食堂への移動、休憩中の行動、トイレの使用、水飲み場の利用、必要な怪 我の手当など
達成すべきコミットメント
「私たちは、労働者等が行う食事、水分摂取、トイレ、治療行為や通院、その他必要な行為に対し、正当な理由なく報復や懲戒を科しません。」「私たちは、正当な理由なく、食堂への移動、休憩中の行動、トイレの使用、水飲み場の利用、必要な怪我の手当などの労働者等の行動を制限しません。」
補足説明
国際人権基準:ILO条約やSA8000等は、労働者の基本的権利(適切な休憩、安全な飲料水、衛生的なトイレ設備へのアクセス、健康と安全の保護)を保障しています。これらは、労働者が人間としての尊厳を保ち、健康的に働くための基盤です。
日本の国内法:労働基準法は休憩時間やその自由利用を、労働安全衛生法は安全な作業環境(給水設備、トイレ設備、応急手当等)の確保を企業に義務付けています。労働契約法は、懲戒権の濫用を禁止し(第15条)、企業に安全配慮義務を課しています。これらの法律は、労働者の基本的ニーズと行動の自由を法的に裏付けています。
コミットメント達成の意義
これらのコミットメントの達成は、労働者の基本的な人権と尊厳を守り、健康的で安全な労働環境を提供するために不可欠です。法的義務の遵守はもちろん、企業の社会的責任(CSR)と持続可能性(ESG)への貢献、従業員のエンゲージメントと生産性の向上、そして企業ブランド価値の向上にも繋がります。労働者が安心して権利を行使できる企業文化の醸成は、信頼に基づく良好な労使関係の基盤となります。
生理的ニーズと行動の自由:遵守を裏付ける証拠カテゴリー
1. 方針と規定の明確化
労働者の基本的ニーズと行動の自由を尊重する方針・規定を整備し、全社に周知します。
- 基本的ニーズ(食事、水分、トイレ、治療等)尊重を明記した人権方針・就業規則。
- 行動の自由(休憩、移動、施設利用等)を不当に制限しない旨の規定。
- 「正当な理由」なく報復・懲戒・制限を行わない旨の明確な方針。
- 上記方針・規定の取締役会承認、経営トップによるコミットメント声明。
2. 適切な環境・設備の提供
労働者が基本的ニーズを満たせる、衛生的で安全な設備・環境を整備・維持します。
- 清潔で十分な数のトイレ設備(男女別、労働安全衛生規則準拠)。
- 安全な飲用水への自由なアクセス(給水設備の設置・維持管理)。
- 適切な休憩スペース、食堂、食事場所の提供と自由な利用の保障。
- 応急手当用品の常備とアクセス、定期的な点検・補充記録。
3. 治療・通院への配慮
労働者の健康維持のため、治療行為や定期的な通院等に必要な配慮を行います。
- 疾病治療や通院のための時間休・休暇制度、柔軟な勤務時間調整の規定と運用実績。
- 健康状態に応じた業務内容の調整や合理的配慮に関する方針と相談窓口。
- 定期健康診断結果に基づく事後措置(通院勧奨、就業上の措置)の実施記録。
- 上記に関する管理職向け研修資料と実施記録。
4. 休憩時間の自由利用保障
労働基準法に基づき適切な休憩時間を付与し、その自由な利用を保障します。
- 労働時間に応じた適切な休憩時間付与を定めた就業規則と勤怠管理記録。
- 休憩時間は労働から完全に解放され、自由に利用できる旨の方針・周知。
- 休憩中の行動(食事、私用、離席等)を不当に制限しない運用の徹底。
- 休憩時間に関する苦情・相談への対応記録と改善措置。
5. 懲戒・報復の防止と適正手続き
労働者の権利行使に対し不当な報復・懲戒を行わず、懲戒処分は適正な手続きに則ります。
- 懲戒事由と手続きを定めた就業規則(労働契約法第15条の趣旨を反映)。
- 懲戒処分実施前の事実調査、客観的証拠収集、弁明機会付与の記録。
- 懲戒委員会の設置や公平な判断プロセスの運用記録。
- 権利行使や内部通報者に対する報復行為を禁止する方針と、その遵守状況。
6. 従業員への周知と教育
労働者の権利と関連方針について、全従業員及び管理職への周知・教育を徹底します。
- 入社時研修及び定期研修での関連方針・権利に関する教育プログラムと実施記録。
- 管理職向け研修(部下の権利尊重、不当な制限・報復の防止)。
- 社内イントラネット、ハンドブック等での関連規定・情報の常時アクセス可能な状態。
- 権利や方針に関する従業員からの質問・相談窓口の設置と周知。
7. 実効性のある苦情処理メカニズム
報復を恐れず懸念を報告できる、アクセス可能で機密性の高い苦情処理チャネルを確立・運用します。
- 匿名性・機密性が確保された内部通報窓口(ホットライン等)の設置と全従業員への周知。
- 通報者に対する不利益な取り扱い(報復)を厳禁とする方針と、その遵守を担保する措置。
- 通報受付、調査、是正措置、再発防止策のプロセスと記録(個人情報保護に配慮)。
- 苦情処理メカニズムの定期的な評価と改善の取り組み。
8. 監視と継続的改善
方針遵守状況を定期的に監視・評価し、従業員の声を反映して継続的な改善を図ります。
- 関連方針の遵守状況に関する定期的な内部監査・自己点検の実施記録。
- 従業員満足度調査やヒアリング等を通じたフィードバック収集と分析。
- 監査結果、従業員の声、法改正等を踏まえた方針・運用の見直しと改善記録。
- 改善策の実施状況と効果測定の記録。
持続的なコンプライアンスとベストプラクティスのための積極的措置
労働者の基本的ニーズと行動の自由を尊重するコミットメントの達成には、方針の整備、適切な環境提供、透明な運用、従業員との対話、実効性のある救済措置、そして継続的な監視と改善のサイクルが不可欠です。
企業は、これらの証拠カテゴリーを参考に自社の取り組みを評価し、定期的な見直しを通じて、労働者の権利を真に尊重する企業文化を醸成していくことが求められます。これには、経営層のリーダーシップ、管理職への教育、そして全従業員の意識向上が鍵となります。