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JASTI 1-7-1~1-7-3(適切な懲戒)遵守の証拠

JASTI 1-7-1~1-7-3 の遵守を、どのような証拠をもって示せばいいか、簡単にまとめます。

重要な注意点

ここで挙げる証拠は、遵守を示すための具体例です。しかし、これらを全て揃えればそれで完ぺきということはなく、すべて揃わなくても十分に遵守を証明又は疎明できることもあります。それは御社の状況次第、そして監査の判定基準次第です。

詳しくは私どもHCDコンサルティングにお尋ねください。

原文

1-7-1 工場は、工場所在地の法令に従い、制裁の定めをする場合には、従業員の 懲戒に関する規定を設けなくてはならない。懲戒は、戒告、譴責、減給、 出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇などの段階的な規定である。

1-7-2 工場は、全ての従業員に採用の際に、懲戒規定を明確に伝達しなくてはな らない。工場は管理者に対し、懲戒規定を確実に理解させ、教育訓練を行 い、その達成度を確認しなくてはならない。

1-7-3 工場は、懲戒が実施された場合、その内容を記録し、維持しなくてはなら ない。記録には、懲戒を受けた従業員への通知方法を含む。

達成すべきコミットメント

1-7-1: 私たちは、事業場所在地の法令に従い、制裁の定めをする場合には、労働者等の懲戒に関する規定を設けます。

1-7-2: 私たちは、全ての労働者等に採用の際に、懲戒規定を明確に伝達します。私たちは、管理者に対し、懲戒規定を確実に理解させ、教育訓練を行い、その達成度を確認します。

1-7-3: 私たちは、懲戒が実施された場合、その内容を記録し、維持します。記録には、懲戒を受けた労働者等への通知方法を含みます。

補足説明:法的根拠と国際基準

国際人権基準:国連ビジネスと人権に関する指導原則(UNGPs)やILOの関連原則は、懲戒手続きにおける適法性、公正性、無差別、透明性、予測可能性、そして効果的な救済へのアクセスを強調しています。企業は人権を尊重する方針とプロセスを整備する責任があります。

日本の国内法:労働基準法は就業規則への懲戒事由・種類の明記と周知義務を、労働契約法は懲戒権の濫用禁止(客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合の無効)を定めています。また、関連書類の保存義務も規定されています。

コミットメント達成の意義

これらのコミットメントを達成することは、法的リスクを最小限に抑え、公正で透明性のある職場環境を構築し、従業員の権利を保護するために不可欠です。企業の社会的責任を果たし、従業員からの信頼を高め、国際的な人権尊重の潮流に対応することで、持続可能な企業経営の基盤を強化します。適切な懲戒制度の運用は、企業文化に深く影響を与え、信頼と心理的安全性を育みます。

懲戒規定コミットメント達成:達成を裏付ける証拠カテゴリー

1. 明確な懲戒規定と人権尊重の明文化

法令及び人権原則に準拠した、明確で包括的な懲戒規定を整備し、文書化します。

遵守を示す証拠 (例):
  • 最新版の就業規則の写し(明確な懲戒事由、処分の種類、人権尊重、公正な手続き、無差別に関する記述を含む)。
  • 就業規則の社内外法律専門家によるレビュー記録、改訂履歴。
  • 労働基準監督署への就業規則届出書(常時10人以上の場合、受付印のある写し)。
  • 企業の人権方針、行動規範等(懲戒規定が広範な倫理的枠組みの一部であることを示す)。

2. 全従業員への周知徹底

全ての労働者に対し、採用時及びその後も継続的に懲戒規定を明確に伝達し、アクセス可能な状態を確保します。

遵守を示す証拠 (例):
  • 新入社員向け研修資料(懲戒規定の説明、アクセス方法の明示)。
  • 労働条件通知書または雇用契約書(就業規則遵守義務への言及)。
  • 就業規則受領・アクセス確認の署名済み書式またはデジタル記録。
  • 社内イントラネット掲載、事業所内掲示、書面配布等の周知方法の証拠。

3. 管理者への専門教育と理解度確認

管理者に対し、懲戒規定の内容、公正な適用、人権配慮について専門的な教育訓練を実施し、理解度を確認します。

遵守を示す証拠 (例):
  • 管理者向け懲戒手続マニュアル、研修資料(ケーススタディ、適正手続、人権配慮)。
  • 管理者研修の出席者リスト、オンラインコース修了記録。
  • 懲戒規定の理解度テスト結果、または遵守誓約書。
  • 定期的な再研修や法改正に伴う情報更新の記録。

4. 公正な懲戒プロセスの文書化

懲戒プロセス全体(調査、弁明機会、決定等)を標準化し、各段階を適切に文書化します。

遵守を示す証拠 (例):
  • 被疑事実通知書、弁明機会付与通知書の標準テンプレート。
  • 従業員の弁明書または聴聞議事録のテンプレート。
  • 懲戒処分通知書の標準テンプレート(理由、根拠条項、不服申立情報を含む)。
  • 懲戒委員会議事録のテンプレート(該当する場合)。

5. 懲戒実施記録の適正な作成と維持

実施された懲戒処分について、関連情報(通知方法を含む)を正確に記録し、適切に維持・管理します。

遵守を示す証拠 (例):
  • 個別の懲戒案件ファイル(苦情申立、調査記録、弁明記録、処分通知書等を含む)。
  • 従業員への懲戒処分通知の配達証明(内容証明郵便受領書、受領確認署名等)。
  • 懲戒記録の保存期間を定めた社内方針。
  • 懲戒に関する集計データ(傾向分析や予防策検討のため、個人情報保護に配慮)。

6. 記録の機密保持と適切なアクセス管理

懲戒記録の機密性を保護し、不正アクセスや改ざんを防止するための適切な管理体制を構築・運用します。

遵守を示す証拠 (例):
  • 懲戒記録保管システムの説明(安全な電子データベース、施錠された物理ファイル等)。
  • 記録へのアクセス制御に関する方針と、アクセス権限者リスト。
  • 個人情報保護法及び関連規定の遵守状況を示す記録。
  • 機密情報取り扱いに関する従業員(特に人事担当者)への研修記録。

7. 報復防止と実効性のある苦情処理

懲戒手続きに関連して報復を恐れず懸念を表明できる、アクセス可能で実効性のある苦情処理メカニズムを運用します。

遵守を示す証拠 (例):
  • 明確な報復禁止条項を含む就業規則または行動規範。
  • 匿名性・機密性が確保された内部通報窓口の設置と周知。
  • 通報者保護規定と、その遵守を担保する措置の記録。
  • 苦情・通報の受付、調査、是正措置、フィードバックのプロセスと記録。

8. 定期的な見直しと継続的改善

懲戒規定及びその運用状況を定期的に監視・評価し、フィードバックを反映して継続的な改善を図ります。

遵守を示す証拠 (例):
  • 懲戒制度に関する定期的な内部監査または外部監査の実施記録。
  • 従業員満足度調査、ヒアリング等を通じた懲戒制度に関するフィードバック収集・分析記録。
  • 監査結果、フィードバック、法改正等を踏まえた方針・運用の見直しと改善の記録。
  • 是正措置や教育的指導の重視を示す方針や運用実績。

持続的なコンプライアンスと人権尊重文化の醸成

懲戒規定に関するコミットメントの達成と維持には、規定の明確化、全従業員への周知と教育、公正なプロセスの確立と文書化、適切な記録管理、そして実効性のある苦情処理メカニズムと継続的な改善サイクルが不可欠です。

企業は、これらの証拠カテゴリーを参考に自社の取り組みを評価し、定期的な見直しを通じて、労働者の権利を真に尊重し、公正性と透明性を重んじる企業文化を醸成していくことが求められます。経営層の強いリーダーシップ、管理職への継続的な教育、そして全従業員の意識向上が、この目標達成の鍵となります。

JASTI監査のコンサルティングは当事務所へ

JASTIは、中小企業等が最低限遵守すべき事項を社会人権面を中心に網羅した監査要求事項・評価基準から成り、ILO(国際労働機関)中核的労働基準を含みます。

当事務所代表は、全国社会保険労務士会連合会「ビジネスと人権」研修等ILO駐日事務所の技術協力で構築された研修で、何度もファシリテーターや講師を務めてります。

JASTI監査に向けたコンサルティングは、当事務所にお任せください。