JASTI 1-6の遵守を、どのような証拠をもって示せばいいか、簡単にまとめます。
重要な注意点
ここで挙げる証拠は、遵守を示すための具体例です。しかし、これらを全て揃えればそれで完ぺきということはなく、すべて揃わなくても十分に遵守を証明又は疎明できることもあります。それは御社の状況次第、そして監査の判定基準次第です。
詳しくは私どもHCDコンサルティングにお尋ねください。
JASTI 1-6 原文
工場は、従業員に業務上の必要性等に基づかない時間外労働をさせてはな らない。時間外労働は、工場所在地の法令に従い、労使協定及び従業員の 合意等に基づき実施されなくてはならない。
達成すべきコミットメント
「私たちは、労働者等に業務上の必要性等に基づかない時間外労働をさせません。また、私たちは、業務上の必要性等に基づいて労働者等に時間外労働をさせる場合は、事業場所在地の法令に従い、労使協定及び労働者等の合意等に基づきます。」
補足説明:法的根拠と国際基準
日本の国内法:労働基準法(法定労働時間、時間外労働、36協定)、時間外労働の「業務上の必要性」の解釈、時間外労働における「労働者等の合意」の理解が中心となります。
国際人権基準:ILOの労働時間に関する条約(例:C001、C030、C047)やSA8000などが参照され、強制労働の防止、労働者の健康と安全への権利の保護と整合します。
コミットメント達成の意義
このコミットメントの達成は、日本の法令遵守を確実にするだけでなく、公正な労働条件、合理的な労働時間、強制労働からの保護といった国際的に認められた人権を尊重することに繋がります。労働者のウェルビーイングと生産性の向上、法的リスクの低減、そして企業のレピュテーション向上に貢献します。
残業の命令に関する基準:遵守を裏付ける証拠カテゴリー
1. 方針・規則・契約
時間外労働は真の業務上の必要性に基づき、法令・協定の範囲内でのみ行われることを明記した方針、規則、契約を整備します。
- 時間外労働の基本原則を定めた人権方針・労働方針・行動規範。
- 「業務上の必要性」の定義や時間外労働命令手続きを規定した就業規則。
- 法令・36協定の範囲内で時間外労働義務が生じうることを記載した雇用契約書。
2. 時間外労働の申請・承認
時間外労働の必要性を事前に審査し、承認する正式なプロセスを運用します。
- 業務上の必要性、推定時間、上長承認を求める標準化された時間外労働申請書(電子・紙)。
- 承認(または却下)された申請記録。
- 管理職向けの時間外労働の必要性評価・承認基準に関するガイドラインや研修資料。
3. 有効な36協定
適法な時間外労働の前提となる、有効な36協定を締結・届出・周知します。
- 署名・捺印・日付のある最新の36協定書(適切な様式)。
- 労働者代表の民主的な選出プロセスを記録した文書(議事録、投票記録等)。
- 労働基準監督署の受付印のある36協定書の写し。
- 全従業員への36協定内容の周知記録(イントラネット掲載、メール配信ログ等)。
4. 法令・協定上限の遵守
時間外労働時間の上限規制(月・年単位、特別条項等)を遵守し、正確に記録・管理します。
- 全従業員の客観的な労働時間記録(タイムカード、PCログ、勤怠レポート等)。
- 法定割増率で計算・支払われた割増賃金を示す給与計算記録及び給与明細。
- 時間外労働時間の上限遵守状況を追跡する内部モニタリングシステムのレポート。
- 上限超過リスクを警告する手続きの文書。
5. 労働者の合意と伝達
時間外労働に関する労働者の合意(集団的・個別的)を得るための適切な手続きとコミュニケーションを確保します。
- 時間外労働義務を規定した雇用契約書・就業規則(適法な周知)。
- 専門業務型裁量労働制等における個別の書面同意書。
- 時間外労働の必要性・期間等に関する従業員・代表者との協議・説明記録。
6. 堅牢な記録管理
労働時間、時間外労働、割増賃金等に関する正確かつ検証可能な記録を法令に基づき適切に保存・管理します。
- 出退勤時刻・休憩時間の客観的記録方法(タイムレコーダー、PCログ等)の運用。
- 労働関係重要書類(労働者名簿、賃金台帳、勤怠記録等)の法定期間保存方針と実践。
- 内部監査・外部検査のための記録検索・提出が容易なシステム。
7. 健康・安全とウェルビーイング
長時間労働による健康リスクを低減し、労働者のウェルビーイングを確保するための措置を講じます。
- 長時間労働者への健康福祉措置(医師による面接指導、追加休暇等)の実施記録。
- 業務負荷の評価・管理プロセスの記録。
- 休憩・年次有給休暇の完全取得を奨励する方針と実践、取得状況の記録。
- 人権方針における現地労働法遵守と健康安全配慮の明記。
8. 苦情処理・監視・改善
実効性のある苦情処理メカニズムを運用し、定期的な監視・監査を通じて継続的な改善を図ります。
- 時間外労働に関する懸念を表明できる、アクセス可能で秘密厳守の苦情処理チャネルの周知。
- 苦情の調査・対処・解決プロセス、是正措置の記録。
- 労働時間管理等に関する内部監査・第三者監査報告書。
- 監査結果に基づく是正措置計画(CAPs)と実施・フォローアップ記録。
- 時間外労働削減目標、効率化施策、方針の定期的見直し・改訂記録。
持続的なコンプライアンスと人権尊重文化の醸成
時間外労働に関するコミットメントの達成には、方針の明確化、適正なプロセスの確立と運用、正確な記録管理、労働者の健康と安全への配慮、実効性のある苦情処理、そして継続的な監視と改善サイクルが不可欠です。
企業は、これらの証拠カテゴリーを参考に自社の取り組みを評価し、法令遵守を徹底するとともに、労働者の権利を真に尊重する企業文化を醸成していくことが求められます。経営層のリーダーシップ、管理職への教育、全従業員の意識向上が鍵となります。
JASTI監査のコンサルティングは当事務所へ
JASTIは、中小企業等が最低限遵守すべき事項を社会人権面を中心に網羅した監査要求事項・評価基準から成り、ILO(国際労働機関)中核的労働基準を含みます。
当事務所代表は、全国社会保険労務士会連合会「ビジネスと人権」研修等ILO駐日事務所の技術協力で構築された研修で、何度もファシリテーターや講師を務めてります。
JASTI監査に向けたコンサルティングは、当事務所にお任せください。