JASTI 3-7-2 の遵守を、どのような証拠をもって示せばいいか、簡単にまとめます。
JASTI 3-7-2 原文
工場は、バッグ等の所持品を検査する場合、従業員に対して合理的理由 (就業規則等に明記するなど)に基づき、一般的に妥当な方法(直接身体 に触れたりしてはならない)で、画一的に行わなければならない。また、 被検査者と同性の者に検査を実施させなければならない。
達成すべきコミットメント
「私たちは、バッグ等の所持品を検査する場合、労働者等に対して合理的理由(就業規則等に明記するなど)に基づき、一般的に妥当な方法(直接身体に触れたりしません)で、画一的に行います。また、被検査者と同性の者に検査を実施します。」
補足説明:法的根拠と原則
日本の国内法:最高裁判所判例(西日本鉄道事件)、民法(プライバシー権)、労働契約法、労働基準法、就業規則の周知義務、厚生労働省指針。
国際人権基準:国連「ビジネスと人権に関する指導原則(UNGPs)」、世界人権宣言(UDHR)、市民的及び政治的権利に関する国際規約(ICCPR)、ILO「労働における基本的原則及び権利に関する宣言」。
企業は、所持品検査において事業上の必要性と従業員のプライバシー・尊厳の権利の均衡を保ち、国内外の法規および人権原則を遵守することが求められます。
コミットメント達成の意義
所持品検査に関するコミットメントを遵守することは、企業資産の保護と職場の安全維持に貢献しつつ、従業員のプライバシーと尊厳を尊重し、信頼関係を醸成します。これは、法的リスクの軽減、企業の評判向上、そして持続可能な企業価値の向上に不可欠です。
遵守を裏付ける証拠をカテゴリー別に整理
1. 合理的理由の明記
検査を必要とする合理的理由を就業規則等に明記し、適切に制定・周知します。
- 現行の就業規則に、検査の許容される理由(盗難防止、安全確保、機密保護等)、権限者、実施時期/状況を明示する条項。
- 就業規則の制定・改正が労働基準法に従って行われた記録(従業員代表との協議、労基署への届出)。
- 就業規則が全従業員に容易にアクセス可能であり、効果的に伝達されていることを示す証拠(受領確認書、イントラネット掲載記録)。
- 「合理的理由」を詳述した社内運用マニュアルやSOP、および判断・実施担当者向け研修記録。
2. 妥当な方法(身体に触れない)
直接身体に触れないなど、一般的に妥当な方法で検査を実施することを保証します。
- 検査プロトコル/SOPに、身体への直接的な物理的接触の厳格な禁止を明記。
- 従業員自身による所持品の開示を標準手続とすること。
- 検査員が私物を手探りで探ったり、扱ったりしない一般規則。
- 検査員に対し、敬意ある専門的な行動を義務付ける明確な指針。
- 検査実施担当者向け研修記録(非侵襲的技術、敬意あるコミュニケーション、プライバシー配慮に関するもの)。
- プライバシーに配慮した検査場所の指針および物理的設定(写真、図など)。
3. 画一的な実施
検査が恣意的な選別を避け、体系的かつ一貫した方法で画一的に実施されることを保証します。
- 就業規則または方針における画一的かつ非差別的適用の明確な記述。
- ランダム検査または特定のトリガーに基づく検査の場合、選定基準が客観的、透明、非差別的であることを文書化。
- (プライバシー遵守のもと)匿名化された検査ログ(画一的な適用パターンを示すもの)。
- 従業員が報復を恐れることなく不公平または差別的な検査に関する懸念を提起できる苦情処理メカニズムの記録。
4. 同性による検査
被検査者と同性の検査員によって検査が実施されることを保証し、プライバシーと尊厳を尊重します。
- 就業規則または方針に、同性検査員を義務付ける明確な条項。
- 運用時間中に男性および女性双方の検査員が利用可能であることを保証する手続の文書記録。
- 第三者の警備会社を利用している場合、契約書にこの要件を明記。
- 同性検査員が直ちに利用できない場合の明確なプロトコル(延期優先、緊急時のみ立会人+同意)。
- 全ての検査担当者向け研修記録(同性検査員規則、ジェンダー・アイデンティティへの配慮を含む)。
5. 人権デュー・ディリジェンス
所持品検査に関する人権デュー・ディリジェンスプロセスを確立し、負の影響を特定、防止、軽減、対処します。
- 所持品検査による潜在的な人権への負の影響(プライバシー、尊厳、非差別)を特定した評価記録。
- 影響評価の結果が検査方針/手続に反映され、リスクを防止・軽減するための措置が講じられている証拠。
- これらの措置の有効性(苦情ログのレビュー、従業員調査、監査結果など)がどのように監視されているかの記録。
- HRDDプロセスおよび調査結果を関連するステークホルダーに伝達した記録。
6. 従業員への伝達・研修
所持品検査方針および従業員の権利に関する包括的な研修を全従業員に実施し、意識向上を図ります。
- 検査員だけでなく、全従業員を対象とした、検査方針(理由、方法、権利)に関する一般的な意識向上研修の資料。
- 検査中の従業員の権利(同性検査員の要求、身体に触れられない権利、敬意ある扱いの権利)に関する研修内容。
- 検査関連の懸念に対する苦情処理メカニズムの利用方法に関する研修。
- パンフレット、イントラネットページ、ハンドブック、新入社員オリエンテーション資料など、従業員に情報を提供するために使用されたコミュニケーション資料のコピー。
7. レビュー・監視・改善
所持品検査方針および手続が継続的に関連性を保ち、法的・人権的進展に準拠していることを保証するためのレビュー、監視、改善メカニズムを確立します。
- 所持品検査方針および手続の定期的なレビューのための文書化されたスケジュール。
- レビュー会議の議事録(議論、調査結果、決定の記録)。
- 従業員が検査プロセスに関するフィードバックを提供するための公式または非公式のチャネル。
- 内部監査が検査方針の遵守状況を対象としていることを示す報告書。
- 上級経営陣が検査プログラムの有効性とコンプライアンスを定期的にレビューしている証拠。
8. 文書化と記録管理
関連する全ての文書を一元的、組織的、かつ最新の状態に保ち、記録管理のベストプラクティスを適用します。
- 就業規則、方針、研修資料、検査プロトコル、レビュー記録、苦情処理手続の一元化された保管場所。
- 全ての方針文書に対するバージョン管理システム。
- 全ての研修セッションについて、日付、出席者、および取り上げられた内容の文書化。
- 特定の嫌疑に基づく画一的でない検査を実施する場合、各検査の客観的理由を機密に文書化した記録。
9. 継続的改善
コンプライアンスの維持と人権尊重のため、定期的なレビュー、監査、フィードバックに基づく継続的な改善を行います。
- 検査慣行の内部監査の実施(法的要件および会社方針との整合性の確認)。
- 必要に応じて、第三者による検証または評価の実施。
- 苦情処理メカニズムが十分に周知されていることの保証と、検査関連の苦情に対する対応記録。
- 従業員が検査プロセスに関するフィードバックを提供するためのチャネルの活用。
- 従業員が検査中に立会人を要求できる方針の採用(推奨)。
持続的なコミットメントと人権尊重文化の醸成
職場における所持品検査に関するコミットメントを実証するためには、明確に定義され周知された方針、詳細な検査プロトコル、包括的な研修記録、画一的適用を保証するシステム、同性検査員の配置、そして人権デュー・ディリジェンスに基づく継続的なレビューと改善への取り組みが不可欠です。これらの内部システムを継続的に見直し、改善することで、持続的なコンプライアンスと「具体的証拠」の即時的な利用可能性を確保することが推奨されます。
企業は、本報告書で提示された枠組みに基づき、定期的な自己監査を実施し、コンプライアンスを継続的に維持・改善していくことで、従業員の尊厳を尊重し、社会からの信頼を得ることが求められます。
重要な注意点
ここで挙げる証拠は、遵守を示すための具体例です。しかし、これらを全て揃えなくとも十分に遵守を証明又は疎明できることもあります。それは御社の状況次第、そして監査の判定基準次第です。 詳しくは私どもHCDコンサルティングにお尋ねください。
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JASTIは、中小企業等が最低限遵守すべき事項を社会人権面を中心に網羅した監査要求事項・評価基準から成り、ILO(国際労働機関)中核的労働基準を含みます。
当事務所代表は、全国社会保険労務士会連合会「ビジネスと人権」研修(ILO駐日事務所の技術協力で構築された研修)で、合計7度ファシリテーターを務めました。
JASTI監査に向けたコンサルティングは、私どもHCDコンサルティングにお任せください。