JASTI 5-1 の遵守を、どのような証拠をもって示せばいいか、簡単にまとめます。
JASTI 5-1 原文
⼯場は、⼯場所在地の法令に従い、労働安全衛⽣にかかる法令の遵守に努め、安全で衛⽣的な職場環境を提供しなくてはならない。
達成すべきコミットメント
「私たちは、事業場所在地の法令に従い、労働安全衛生にかかる法令の遵守に努め、安全で衛生的な職場環境を提供します。」
補足説明:法的根拠と国際基準
国内法:労働安全衛生法(安衛法)は、事業者の責任、危害防止基準、責任体制の明確化などを定め、労働者の安全と健康の確保を目指します。
国際基準:ILO第155号(職業安全衛生)条約や国連ビジネスと人権に関する指導原則(UNGPs)は、安全で健康的な労働環境を基本的人権と位置づけ、企業に人権デュー・ディリジェンスの実践を求めています。
コミットメント達成の意義
安全で衛生的な職場環境の提供は、労働者の生命と健康を守るという企業の基本的な社会的責任です。労働災害を防止し、従業員の心身の健康を増進することは、生産性の向上、企業イメージの向上、そして持続可能な事業運営の基盤となります。
遵守を裏付ける証拠をカテゴリー別に整理
1. OSH方針と組織体制
安全衛生活動の基盤となる方針を定め、責任体制を明確にします。
- 経営トップが承認した、書面による労働安全衛生方針。
- 総括安全衛生管理者、安全管理者、衛生管理者、産業医等の選任記録及び労働基準監督署への届出書。
- OSHに関する責任と権限を定めた組織図や職務記述書。
2. リスクアセスメントと管理
職場の危険性や有害性を特定し、災害が発生する前にリスクの低減措置を講じます。
- 化学物質、機械設備、作業手順等に関するリスクアセスメントの実施記録。
- 特定されたリスクに対する具体的な低減措置(除去、代替、工学的対策等)の計画と実施記録。
- 定期的な職場巡視の報告書と、指摘事項に対する是正措置の記録。
3. 安全衛生委員会と労働者参加
労使が協力して職場の安全衛生問題を審議し、改善に取り組みます。
- 安全衛生委員会の設置記録と委員名簿(労使双方の代表者を含む)。
- 毎月開催される委員会の議事録(審議内容、決定事項、措置項目を記載)。
- 議事録や審議結果の従業員への周知記録。
4. 安全衛生教育と訓練
労働者が安全に作業を行うために必要な知識と技能を習得させます。
- 雇入れ時、作業内容変更時、危険有害業務に関する特別教育の実施計画と記録。
- 使用した研修資料、テキスト、受講者の署名がある出席者名簿。
- 研修効果の測定記録(理解度テスト、能力評価など)。
5. 作業環境の測定と改善
有害物質、騒音、暑熱などの作業環境を測定・評価し、快適な職場環境を形成します。
- 安衛法に基づき義務付けられた作業環境測定の実施計画と結果報告書。
- 測定結果の評価に基づき、管理区分(第Ⅰ~Ⅲ区分)を決定した記録。
- 評価結果が思わしくない場合の、設備改善や作業方法の見直しなどの改善措置記録。
6. 健康診断と健康増進措置
労働者の健康状態を把握し、疾病の予防と早期発見、健康の保持増進を図ります。
- 定期健康診断、特殊健康診断、ストレスチェックの実施計画と実施記録。
- 健診結果に基づく医師からの意見聴取記録、および事後措置(就業上の配慮)の実施記録。
- 健康診断結果報告書、ストレスチェック結果報告書の労働基準監督署への提出記録。
7. 災害・事故・ヒヤリハット報告
発生した事象から学び、根本原因を究明して、同種災害の再発を防止します。
- 災害、事故、ニアミス(ヒヤリ・ハット)の報告・調査手順書。
- 災害調査報告書(原因分析、根本原因の特定を含む)。
- 具体的な再発防止対策の計画と実施記録、およびその効果の検証記録。
- 労働者死傷病報告の労働基準監督署への提出記録。
8. 緊急時への備えと対応
火災、爆発、化学物質漏洩などの緊急事態に備え、被害を最小限に抑えるための準備をします。
- 想定される緊急事態ごとの対応計画書(通報、避難、初期消火など)。
- 避難訓練、消火訓練などの定期的な訓練の実施計画と報告書。
- 消火器、救急箱などの緊急用設備の定期的な点検記録。
9. 監査とマネジメントレビュー
安全衛生マネジメントシステムが有効に機能しているかを定期的に評価し、見直しを行います。
- 内部または外部による労働安全衛生監査の計画書、報告書、是正措置記録。
- 経営トップによるマネジメントレビューの議事録(安全衛生パフォーマンスの評価、改善指示など)。
10. 外部認証と継続的改善
客観的な評価を受けると共に、法改正や社会の変化に対応し、常に改善し続けます。
- ISO45001などの労働安全衛生マネジメントシステムに関する有効な認証書。
- 法改正や新たな知見に対応するための、方針や手順の定期的な見直し記録。
- 安全衛生目標の設定と、その達成状況を追跡・評価している記録。
包括的なOSHコミットメントの確認と継続的強化
安全で衛生的な職場環境の実現は、個別の対策の寄せ集めではなく、方針、リスク管理、労働者参加、監視、そしてレビューといった要素が連携した、生きたマネジメントシステムによって達成されます。
本報告書で示された証拠を体系的に整備・維持し、継続的な改善のサイクルを回し続けることが、法的義務と国際的な人権尊重責任の両方を果たし、すべての労働者のための安全衛生文化を醸成する鍵となります。
重要な注意点
ここで挙げる証拠は、遵守を示すための具体例です。しかし、これらを全て揃えなくとも十分に遵守を証明又は疎明できることもあります。それは御社の状況次第、そして監査の判定基準次第です。 詳しくは私どもHCDコンサルティングにお尋ねください。
JASTI監査対策のご相談は、私どもHCDコンサルティングへ
JASTIは、中小企業等が最低限遵守すべき事項を社会人権面を中心に網羅した監査要求事項・評価基準から成り、ILO(国際労働機関)中核的労働基準を含みます。
当事務所代表は、全国社会保険労務士会連合会「ビジネスと人権」研修(ILO駐日事務所の技術協力で構築された研修)で、合計7度ファシリテーターを務めました。
JASTI監査に向けたコンサルティングは、私どもHCDコンサルティングにお任せください。