JASTI 5-7-6の遵守を、どのような証拠をもって示せばいいか、簡単にまとめます。
JASTI 5-7-6 原文
工場は、工場所在地の法令に従い、避難通路の幅の確保、および避難経路 (矢印等)を表示しなくてはならない。法令の定めがない場合、避難通路 は幅 1.2m 以上確保しなくてはならず、床面または床面より 1m以内の壁面 に避難経路(矢印等)を表示すること。火栓の前には、使用上・点検上の障害とならないように、障 害物を置いてはならない。
達成すべきコミットメント
「私たちは、事業場所在地の法令に従い、避難通路の幅の確保、および避難経路(矢印等)を表示します。法令の定めがない場合も、私たちは、避難通路の幅として 1.2m 以上を確保し、床面または床面より 1m以内の壁面に避難経路(矢印等)を表示します。」
補足説明:法的根拠とベストプラクティス
法的要件:建築基準法は廊下幅(例:両側居室で1.6m)、労働安全衛生規則は機械間の通路幅(80cm以上)などを規定しています。これらは避難経路の最低限の幅を保証します。
自主基準とベストプラクティス:法令を超える「1.2m以上」の通路幅確保や、煙の中でも視認しやすい「低い位置」への経路表示は、労働者の安全を最優先する国際的なベストプラクティスに合致する積極的な取り組みです。
コミットメント達成の意義
緊急時、特にパニック状態や視界不良の状況下では、明確に確保・表示された避難通路が命綱となります。十分な幅と分かりやすい経路表示は、誰もが迅速かつ安全に避難できる環境を構築し、群集事故のリスクを大幅に低減します。
遵守を裏付ける証拠をカテゴリー別に整理
1. 承認済み建築図面
建物が設計段階で、法令や自主基準に準拠した通路幅を確保していたことを証明します。
- 建築確認済証と、それに添付された承認済みの設計図面。
- 通路や廊下の寸法が明記され、法的要件(1.2m以上等)を満たしていることの記録。
2. 通路幅の実測記録と写真
コミットメントで掲げた通路幅(1.2m以上)が、現場で実際に確保されていることを視覚的に示します。
- 主要な避難通路の幅をメジャー等で実測している日付入りの写真。
- 測定箇所と測定値を記録したリストや図面。
3. 通路・経路の表示写真
避難経路が誰にでも分かるように、明確に表示されていることを証明します。
- 床へのライン表示(黄色の実線等)の写真。
- 壁面の低い位置(1m以内)に設置された避難方向を示す矢印等の標識の写真。
4. 日常安全巡回と是正措置
通路が常に利用可能な状態に維持され、問題発見時に迅速に対応する体制を示します。
- 通路の障害物や表示の損傷を確認する、日付と署名入りの巡回チェックリスト。
- 発見された不備に関する是正措置報告書。
5. 消防計画と避難経路図
避難経路の維持管理が、法的に義務付けられた計画の一部であることを示します。
- 所轄消防署に届け出た消防計画書(受理印付き)。
- 通路の維持管理に関する方針や点検手順を明記した箇所。
- 計画書に添付された、最新の避難経路図。
6. 避難訓練の記録とレビュー
確保された通路と表示が、実際の避難時に有効に機能することを検証・改善している証拠です。
- 定期的な避難訓練の実施記録。
- 訓練で発見された通路上の問題点(混雑、表示の見にくさ等)と、その改善策を記したレビュー議事録。
7. 安全衛生教育の記録
従業員が通路確保の重要性と表示の意味を理解し、遵守する文化があることを示します。
- 通路確保のルールや表示の意味に関する、雇入れ時教育や定期教育の実施記録(研修資料、出席者名簿)。
8. 安全衛生委員会議事録
労働者の意見を反映し、組織として通路の安全確保に取り組んでいることを証明します。
- 通路の安全性に関する議論や、従業員からの改善提案が記載された議事録。
- 委員会での決定に基づき、改善措置が講じられた記録。
9. 5S活動記録
整理・整頓・清掃活動を通じて、通路が常に安全な状態に維持されていることを示します。
- 定期的な5Sパトロールのチェックシート。
- 通路の整理整頓に関する改善前後の写真や報告書。
統合コンプライアンス・ポートフォリオの重要性
安全な避難通路は、設計図(静的証拠)から日々の巡回記録(動的証拠)まで、複数の証拠を組み合わせることで、その遵守が証明されます。特に、自主基準である「1.2m幅」や「低位置表示」の実測・写真記録は、法令遵守を超える積極的な安全への姿勢を示す強力な証拠となります。
これらの証拠を体系的に管理し提示することで、堅牢なマネジメントシステムと安全文化に裏打ちされた、実効性のある避難経路確保が実現できていることを、客観的かつ説得力をもって示すことができます。
重要な注意点
ここで挙げる証拠は、遵守を示すための具体例です。しかし、これらを全て揃えなくとも十分に遵守を証明又は疎明できることもあります。それは御社の状況次第、そして監査の判定基準次第です。 詳しくは私どもHCDコンサルティングにお尋ねください。
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JASTIは、中小企業等が最低限遵守すべき事項を社会人権面を中心に網羅した監査要求事項・評価基準から成り、ILO(国際労働機関)中核的労働基準を含みます。
当事務所代表は、全国社会保険労務士会連合会「ビジネスと人権」研修(ILO駐日事務所の技術協力で構築された研修)で、合計7度ファシリテーターを務めました。
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