JASTI 5-9-1の遵守を、どのような証拠をもって示せばいいか、簡単にまとめます。
JASTI 5-9-1 原文
工場は、以下の個人用保護具等を、必要に応じて従業員に無償で提供しな くてはならない。 手袋、金属メッシュ手袋、耳栓、ゴーグル、防水靴、滑り防止靴、マス ク、呼吸補助装置など。
達成すべきコミットメント
「私たちは、事業場所在地の法令に従い、手袋、金属メッシュ手袋、耳栓、ゴーグル、防水靴、滑り防止靴、マスク、呼吸補助装置などの個人用保護具等を、必要に応じて労働者等に無償で提供します。」
補足説明:法的根拠と国際基準
国内法:労働安全衛生法および関連規則は、特定の有害業務(騒音、粉じん、化学物質等)における保護具の使用を義務付けています。また、2024年4月からは「保護具着用管理責任者」の選任が義務化されました。
国際基準:ILO第155号条約は、必要な保護具を「無償で」提供することを国際的な原則として定めています。また、ISO 45001は、リスク対策の最終手段としてPPEを位置づける「管理の優先順位」の考え方を採用しています。
コミットメント達成の意義
個人用保護具(PPE)は、工学的対策や管理的対策を講じてもなお残るリスクから労働者を守るための最後の砦です。適切なPPEを、必要とする全ての労働者に無償で提供し、正しく使用してもらうことは、労働災害を未然に防ぎ、安全で健康な職場を実現するための企業の重要な責任です。
遵守を裏付ける証拠をカテゴリー別に整理
1. リスクアセスメント記録
「なぜ保護具が必要か」の根拠。リスク評価に基づき、PPEを最終手段として選定したプロセスを示します。
- 作業ごとの危険性・有害性の特定とリスク評価の記録。
- 工学的・管理的対策を優先検討し、残存リスクに対してPPEの必要性を判断した記録。
2. 保護具の選定・管理記録
特定されたリスクに対し、適切な種類・品質のPPEが選定・管理されていることを証明します。
- リスクに応じた保護具の選定基準書(マトリックス)。
- 購入・在庫・支給の各記録台帳。
- 呼吸用保護具のフィットテスト実施記録。
3. 点検・保守・交換記録
PPEが常に有効な状態に維持されている、継続的な管理体制を示します。
- 定期的な点検チェックリスト(日付、点検者署名)。
- フィルター等の消耗品の交換記録。
- 破損・劣化した保護具の修理・交換記録。
4. 保護具着用管理責任者の記録
法令に基づき、専門の管理者がPPE管理を統括していることを証明します。
- 保護具着用管理責任者の選任書。
- 選任された責任者が、選定・教育・管理等の職務を遂行していることを示す活動記録や報告書。
5. 安全衛生教育・訓練記録
労働者がPPEを「正しく使える」能力があることを示し、保護具の有効性を保証します。
- PPEの正しい着用・管理方法に関する訓練の実施記録(参加者リスト、研修資料)。
- 特別教育(特定化学物質等)の実施記録。
- 訓練後の理解度テストや実技評価の結果。
6. 無償提供の証明
ILO条約の絶対原則である「労働者に費用を課さない」ことを明確に示します。
- PPEを無償提供する旨を明記した社内規定や労働条件通知書。
- PPE購入費用が会社経費として計上されている会計記録。
- 労働者の給与から天引きされていないことを示す給与明細。
7. 作業環境測定結果
騒音、粉じん、化学物質等のレベルを客観的データで示し、保護具の必要性を裏付けます。
- 有資格者による作業環境測定の報告書。
- 測定結果に基づく管理区分(Ⅰ~Ⅲ)の決定記録。
- 個人ばく露測定の結果記録。
8. 安全衛生委員会議事録
労働者の意見を反映し、組織としてPPE管理体制の改善に取り組んでいることを証明します。
- PPEの選定や使用状況について審議した議事録。
- 労働者からのフィードバック(フィット感等)と、それに基づく改善の記録。
9. OHSマネジメントシステム
PPE管理が、一貫した安全衛生管理システムの一部として機能していることを示します。
- ISO 45001認証書、またはそれに準拠した社内マニュアルや手順書。
- PPE管理に関する内部監査報告書と是正処置記録。
統合コンプライアンス・ポートフォリオの重要性
個人用保護具(PPE)の遵守証明は、単一の証拠では不十分です。リスクアセスメント(計画)から、選定・支給(実行)、点検・訓練(評価)、そして体制の見直し(改善)に至るPDCAサイクル全体を示す、体系的な証拠の組み合わせが不可欠です。
これらの証拠を統合的に管理・提示することで、PPEの提供が単なる物品配布ではなく、労働者の安全と健康を最優先する、継続的に改善されるマネジメントシステムの一部であることを、説得力をもって証明できます。
重要な注意点
ここで挙げる証拠は、遵守を示すための具体例です。しかし、これらを全て揃えなくとも十分に遵守を証明又は疎明できることもあります。それは御社の状況次第、そして監査の判定基準次第です。 詳しくは私どもHCDコンサルティングにお尋ねください。
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JASTIは、中小企業等が最低限遵守すべき事項を社会人権面を中心に網羅した監査要求事項・評価基準から成り、ILO(国際労働機関)中核的労働基準を含みます。
当事務所代表は、全国社会保険労務士会連合会「ビジネスと人権」研修(ILO駐日事務所の技術協力で構築された研修)で、合計7度ファシリテーターを務めました。
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