JASTI 5-9-3の遵守を、どのような証拠をもって示せばいいか、簡単にまとめます。
JASTI 5-10 原文
工場所在地の法令に従い、避難経路はフロアマップによって掲示しなくて はならず、マップには掲示の場所の「現在地」と、消火器の場所、及び避 難経路(矢印等)を記載しなくてはならない。 注:日本においては、避難経路図の表示義務は、不特定多数の人が集まる 場所に限定されているため適用外。
達成すべきコミットメント
「私たちは、事業場所在地の法令に従い、不特定多数の人が集まる事業場においては、避難経路をフロアマップによって掲示し、マップには掲示の場所の「現在地」と、消火器の場所、及び避難経路(矢印等)を記載します。」
補足説明:法的根拠と対象
法的根拠:消防法および各市町村の火災予防条例が、避難経路図の掲示を求めています。特に、工場や店舗、病院、寮など、不特定多数の人が利用する「特定防火対象物」では、より厳格な管理が義務付けられています。
必須記載事項:コミットメントの通り、「現在地」「消火器の場所」「避難経路」の3点は、緊急時に迅速な判断と行動を促すための最低限必要な情報です。
コミットメント達成の意義
緊急時、特に初めてその場所を訪れた人にとって、分かりやすい避難経路図は命を救うための重要な情報源です。正確で最新の情報を、誰の目にもつく場所に掲示することは、パニックを防ぎ、全員の安全な避難を支援する企業の基本的な責任です。
遵守を裏付ける証拠をカテゴリー別に整理
1. 消防計画書
避難経路図の掲示を含む避難対策が、法的に義務付けられた公式な計画の一部であることを示します。
- 所轄消防署へ提出し受理された最新の消防計画書。
- 避難経路の維持管理や案内に関する方針、責任者を定めた箇所。
2. 避難経路図の現物・写真
コミットメントの要求事項が、物理的に実装されていることを直接的に示す最も重要な証拠です。
- 各階の見やすい場所に掲示された避難経路図の現物写真。
- 図内に「現在地」「消火器」「避難経路(矢印)」が明確に記載されていることの確認。
3. 避難経路図のレビュー・更新記録
地図が放置されず、常に最新かつ正確な情報を提供していることを証明します。
- レイアウト変更等に伴う、定期的なレビューと更新の履歴ログ。
- 更新日、更新内容、承認者の記録。
- 避難訓練後のレビュー議事録(地図の分かりやすさ等に関する改善検討)。
4. 避難訓練の記録とレビュー
避難経路図が「絵」ではなく、実際に使われる「ツール」として機能していることを証明します。
- 定期的な避難訓練の実施記録(特定防火対象物は年2回以上)。
- 訓練中に地図が参照されたか、分かりにくかった点はなかったか等の検証記録。
5. 安全衛生教育の記録
労働者が避難経路図の見方を理解し、緊急時に活用できる知識を持っていることを示します。
- 雇入れ時教育や定期教育で、避難経路図の見方を説明した記録。
- 訓練時の周知徹底に関する記録。
6. 内部パトロール・監査記録
日常的な管理体制により、地図の掲示状況や経路の安全が維持されていることを示します。
- 安全パトロールのチェックリスト(地図の有無、汚れ、経路上の障害物など)。
- 内部監査で、避難経路図の管理状況を指摘・改善した記録。
7. 関連設備の点検記録
地図に記載された設備が、実際に機能することを専門家の点検で保証します。
- 消防用設備等点検結果報告書(消火器、誘導灯など)。
- 建築設備定期検査報告書(非常灯など)。
8. リスクアセスメント記録
避難経路図の掲示が、事業場の火災等のリスク評価に基づく重要な対策であることを示します。
- 火災や避難経路の障害物をハザードとして特定した記録。
- リスク低減措置として、避難経路図の掲示や訓練を定めた文書。
9. 安全衛生委員会議事録
労働者の意見を反映し、組織として避難体制の改善に取り組んでいることを証明します。
- 避難訓練の結果や避難経路図の改善について審議した議事録。
- 労働者代表からの意見や改善提案の記録。
統合コンプライアンス・ポートフォリオの重要性
避難経路図のコンプライアンスは、計画(消防計画)、物理的な設置(掲示写真)、実効性の検証(訓練記録)、そして継続的な改善(レビュー記録)といった証拠を組み合わせることで、その信頼性が証明されます。
これらの証拠を体系的に管理・提示することで、単に地図を掲示しているだけでなく、労働者の安全を確保するための生きた管理システムが機能していることを、説得力をもって示すことができます。
重要な注意点
ここで挙げる証拠は、遵守を示すための具体例です。しかし、これらを全て揃えなくとも十分に遵守を証明又は疎明できることもあります。それは御社の状況次第、そして監査の判定基準次第です。 詳しくは私どもHCDコンサルティングにお尋ねください。
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JASTIは、中小企業等が最低限遵守すべき事項を社会人権面を中心に網羅した監査要求事項・評価基準から成り、ILO(国際労働機関)中核的労働基準を含みます。
当事務所代表は、全国社会保険労務士会連合会「ビジネスと人権」研修(ILO駐日事務所の技術協力で構築された研修)で、合計7度ファシリテーターを務めました。
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