JASTI 5-11-1の遵守を、どのような証拠をもって示せばいいか、簡単にまとめます。
JASTI 5-11-1 原文
工場は、使用する化学薬品のリストを作成し、化学物質名、在庫量、貯蔵 場所を記載しなくてはならない。
達成すべきコミットメント
「私たちは、使用する化学薬品のリストを作成し、化学物質名、在庫量、貯蔵場所を記載します。」
補足説明:法的根拠と対象
労働安全衛生法:リスクアセスメント(第57条の3)やSDS(安全データシート)管理(第57条の2)を適切に行うための大前提として、使用する化学物質の網羅的なリスト化が事実上不可欠です。
消防法:引火性・発火性のある「危険物」の貯蔵量を正確に把握し、指定数量に応じた規制を遵守するために、在庫量の管理が求められます。
コミットメント達成の意義
化学物質管理は「まず、そこにあるものを知る」ことから始まります。正確な在庫リストは、事業場に存在する化学的ハザードを「見える化」し、リスク評価、適正な保管、緊急時対応計画など、全ての安全衛生管理活動の出発点となる最も重要な基盤です。
遵守を裏付ける証拠をカテゴリー別に整理
1. 化学物質在庫台帳
化学物質管理のハブとなる中心的な文書。全ての化学物質情報を一元管理します。
- 全ての化学物質を網羅したマスターリスト(Excel、データベース等)。
- 記載項目:化学物質名、CAS番号、貯蔵場所、在庫量、SDS参照番号、危険有害性分類など。
2. 在庫管理規程
在庫リストが体系的かつ継続的に管理されていることを示すルールブックです。
- 化学物質の購入から廃棄までの管理手順を定めた文書。
- 在庫リストの更新頻度、責任者、棚卸し方法を明確化した規程。
3. リスクアセスメント記録
在庫リストが、法令で義務付けられたリスクアセスメントの基礎情報として活用されていることを示します。
- 在庫リストに基づき、リスク評価の対象物質を特定した記録。
- 各物質のリスクレベルに応じた管理策を決定した文書。
4. 消防法関連の記録
在庫リストに基づき、危険物の貯蔵量が管理され、消防法を遵守していることを証明します。
- 在庫量と指定数量を比較し、管理状況を評価した記録。
- 指定数量以上の場合、消防署の許可証や設置届出書。
- 少量危険物貯蔵取扱届出書。
5. SDS管理記録
在庫リストの各化学物質について、最新のSDSが整備・管理されていることを示します。
- 在庫リストと連動したSDSのデータベースやファイル。
- 作業場で労働者が容易にSDSを閲覧できる体制の証明(PC端末、掲示など)。
6. 変更管理(MOC)記録
新規化学物質の導入時などに、在庫リストが適切に更新されるプロセスを示します。
- 新規物質導入時のリスク評価や承認に関する記録。
- 変更に伴う在庫リストやSDS、SOPの更新記録。
7. 実地監査・棚卸し記録
リストが形骸化せず、現場の状況を正確に反映していることを物理的に証明します。
- 定期的な棚卸しの実施記録とチェックリスト。
- 台帳と現物の一致を確認した記録(写真含む)。
- 差異があった場合の調査・是正措置記録。
8. 内部監査報告書
自社の管理システムを継続的に監視・改善していることを客観的に示す証拠です。
- 在庫リストの正確性や管理規程の遵守状況に関する内部監査の報告書。
- 発見された不適合事項と、その是正処置計画・完了報告。
9. 購入記録との照合
在庫リストの情報が、実際の購入実態と乖離していないことを裏付けます。
- 化学物質の購入伝票や納品書と、在庫リストの記載内容を照合した記録。
- 購入と同時にSDSが入手されていることの確認記録。
統合コンプライアンス・ポートフォリオの重要性
化学物質の在庫リストは、それ単体で存在するのではなく、リスクアセスメント、SDS管理、購買、現場管理、監査といった様々な活動と連携して初めてその価値を発揮します。
これらの証拠を体系的に管理・提示することで、在庫リストが全ての化学物質管理活動のハブとして機能し、生きた安全管理システムの中核を担っていることを、説得力をもって証明できます。
重要な注意点
ここで挙げる証拠は、遵守を示すための具体例です。しかし、これらを全て揃えなくとも十分に遵守を証明又は疎明できることもあります。それは御社の状況次第、そして監査の判定基準次第です。 詳しくは私どもHCDコンサルティングにお尋ねください。
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JASTIは、中小企業等が最低限遵守すべき事項を社会人権面を中心に網羅した監査要求事項・評価基準から成り、ILO(国際労働機関)中核的労働基準を含みます。
当事務所代表は、全国社会保険労務士会連合会「ビジネスと人権」研修(ILO駐日事務所の技術協力で構築された研修)で、合計7度ファシリテーターを務めました。
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