JASTI 5-11-2 の遵守を、どのような証拠をもって示せばいいか、簡単にまとめます。
JASTI 5-11-2 原文
工場は、工場所在地の法令に従い、化学物質を使用する従業員に対し、当 該化学物質の危険性又は有害性等に鑑みて従業員の健康障害を防止するた めに必要な貯蔵、取扱い、使用方法、並びに廃棄の方法を訓練しなければ ならず、必要な保護具、例えば手袋、防護メガネ、マスクなどを提供しな くてはならない。
達成すべきコミットメント
「私たちは、事業場所在地の法令に従い、化学物質を使用する労働者等に対し、当該化学物質の危険性又は有害性等に鑑みて労働者等の健康障害を防止するために必要な貯蔵、取扱い、使用方法、並びに廃棄の方法を訓練しなければならず、必要な保護具、例えば手袋、防護メガネ、マスクなどを提供しなくてはならない。」
補足説明:法的根拠と対象
労働安全衛生法 第59条:事業者は、労働者の雇入れ時や作業内容変更時に、その業務に関する安全衛生教育を行うことを義務付けています。化学物質の取扱いもこれに含まれます。
特別教育(安衛則第36条):特定化学物質や有機溶剤など、特に有害な物質を扱う業務については、法定のカリキュラムに基づく、より専門的な「特別教育」の実施が必須です。
コミットメント達成の意義
化学物質による健康障害は、不可逆的なダメージを与える可能性があります。労働者が危険性を正しく理解し、安全な取扱い方法を習得するための「訓練」と、リスクから物理的に身を守る「保護具」は、化学物質管理における両輪です。これらを体系的に提供することは、労働者の生命と健康を守る企業の根幹的責務です。
遵守を裏付ける証拠をカテゴリー別に整理
1. リスクアセスメント記録
訓練内容や必要な保護具が、具体的なリスク評価に基づいて決定されたことを示す根拠文書です。
- 化学物質ごとの危険有害性の特定とリスク評価の結果。
- 評価に基づき、必要な訓練項目と保護具を特定した記録。
2. 訓練計画と教材
訓練が計画的かつ、法的要件とリスク評価に基づいた内容で設計されていることを示します。
- 年間の安全衛生教育計画書。
- SDSやリスク評価結果を反映した訓練教材、テキスト。
- 特別教育の法定カリキュラム。
3. 訓練実施・力量評価記録
訓練が実際に実施され、労働者が必要な知識・技能を習得したことを証明します。
- 日付、内容、講師、参加者署名入りの訓練実施記録。
- 訓練後の理解度テストや実技評価の結果。
- 評価が不十分だった者への再教育の記録。
4. 保護具の選定・支給記録
リスクに対し適切な保護具が選ばれ、労働者個人に確実に提供されたことを示します。
- リスク評価に基づく保護具の選定基準書。
- 個人別の支給台帳(種類、数量、日付、受領サイン)。
- 呼吸用保護具のフィットテスト記録。
5. 保護具着用管理責任者の記録
法令に基づき、専門の管理者が保護具管理を統括していることを証明します。
- 保護具着用管理責任者の選任書。
- 責任者による保護具の選定、教育、保守管理に関する活動記録や報告書。
6. SDSの管理と周知記録
訓練内容の根拠となる、化学物質の危険有害性情報が適切に管理・提供されていることを示します。
- 最新のSDSを管理するデータベースやファイル。
- 労働者が作業場でいつでもSDSを閲覧できる体制(PC、掲示等)の証明。
7. 作業環境測定結果
訓練や保護具の必要性を、作業環境の客観的データで裏付けます。
- 有害物質の濃度や騒音レベルの測定報告書。
- 測定結果に基づく管理区分の決定と、それに応じた対策(訓練、保護具着用)の記録。
8. 内部監査・パトロール記録
訓練の実施状況や保護具の着用・管理状況が、継続的に監視・改善されていることを示します。
- 内部監査や安全パトロールのチェックリストと報告書。
- 訓練未受講者や保護具の不適切な使用に対する指摘と是正措置の記録。
9. 安全衛生委員会議事録
労働者の意見を反映し、組織として訓練内容や保護具の改善に取り組んでいることを証明します。
- 訓練計画や保護具選定に関する審議の議事録。
- 労働者からの意見(訓練内容、保護具の使い心地等)と、それに対する改善策の記録。
統合コンプライアンス・ポートフォリオの重要性
化学物質からの労働者保護は、「知る(訓練)」ことと「防ぐ(保護具)」ことの組み合わせで成り立ちます。これらの遵守証明は、リスクアセスメント(計画)から訓練の実施、保護具の管理、そして監査による見直し(改善)まで、一連のPDCAサイクルが機能していることを示す証拠の連鎖によって、その信頼性が確固たるものになります。
これらの証拠を体系的に管理・提示することで、生きた安全衛生管理システムが機能し、労働者の安全と健康が最優先されていることを、説得力をもって証明できます。
重要な注意点
ここで挙げる証拠は、遵守を示すための具体例です。しかし、これらを全て揃えなくとも十分に遵守を証明又は疎明できることもあります。それは御社の状況次第、そして監査の判定基準次第です。 詳しくは私どもHCDコンサルティングにお尋ねください。
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JASTIは、中小企業等が最低限遵守すべき事項を社会人権面を中心に網羅した監査要求事項・評価基準から成り、ILO(国際労働機関)中核的労働基準を含みます。
当事務所代表は、全国社会保険労務士会連合会「ビジネスと人権」研修(ILO駐日事務所の技術協力で構築された研修)で、合計7度ファシリテーターを務めました。
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