JASTI 5-11-4の遵守を、どのような証拠をもって示せばいいか、簡単にまとめます。
JASTI 5-11-4 原文
工場は、化学薬品の保管場所において、化学薬品を個別に貯蔵し、漏洩防 止のため二重の容器を設置しなければならない。
達成すべきコミットメント
「私たちは、化学薬品の保管場所において、化学薬品を個別に貯蔵し、漏洩防止のため二重の容器を設置します。」
補足説明:法的根拠
消防法:異なる類の危険物を同一場所で貯蔵することを原則禁止しています(個別貯蔵)。また、液体危険物の貯蔵所には、漏洩防止のための「ためます」や「囲い」の設置を義務付けています。
労働安全衛生法:リスクアセスメントに基づき、化学物質の漏洩リスクを評価し、適切な管理措置を講じることが求められます。個別貯蔵や二次容器の設置は、その具体的な措置となります。
コミットメント達成の意義
不適切な化学物質の混和は、予測不能な火災や爆発、有毒ガスの発生を引き起こす可能性があります。また、漏洩は労働者の健康被害や環境汚染に直結します。「個別貯蔵」と「漏洩防止」は、これらの重大な事故を未然に防ぎ、安全な職場環境を維持するための、化学物質管理における二大原則です。
遵守を裏付ける証拠をカテゴリー別に整理
1. 個別貯蔵・漏洩防止の写真
ルールが現場で物理的に実践されていることを示す、最も直接的で説得力のある証拠です。
- 「酸類」「塩基類」等、分類ラベル付きの棚で分別保管している写真。
- ドラム缶がスピルパレット上に置かれている写真。
- 試薬瓶が漏洩防止トレイに収納されている写真。
- 屋外タンクが防油堤に囲まれている写真。
2. 混和危険性マトリックス
個別貯蔵のルールが、科学的根拠に基づいて明確に定義されていることを示します。
- SDS情報に基づき、一緒に保管してはいけない化学物質の組み合わせを明記した一覧表。
- マトリックスが貯蔵場所に掲示されている写真。
3. 化学物質保管手順書 (SOP)
安全な貯蔵方法が標準化され、全作業員が従うべきルールとして確立されていることを証明します。
- 分別保管や二次容器の使用方法を定めた手順書。
- 手順書が関係者に周知されている記録。
4. リスクアセスメント記録
貯蔵方法が、法令に基づくリスク評価の結果として決定されたことを示す根拠文書です。
- 化学物質の漏洩や不適切な混和をハザードとして特定した記録。
- リスク低減措置として、個別貯蔵や二次容器設置を定めた文書。
5. 設備購入・検査記録
企業が安全設備へ適切に投資し、その機能を維持していることを示します。
- スピルパレット、耐火キャビネット等の購入記録。
- 大型タンク等の定期的な健全性検査(インテグリティ検査)の報告書。
6. 内部監査・パトロール記録
ルールが形骸化せず、日常的に監視・徹底されていることを示す動的な証拠です。
- 保管状況に関する日付・署名入りの安全パトロールや内部監査のチェックリスト。
- 不適切な混載や容器の破損など、発見された不備に関する是正措置報告書。
7. 労働者への教育記録
労働者が安全な貯蔵方法を理解し、実践できる能力を持っていることを示します。
- 化学物質の危険性や保管ルールに関する安全衛生教育の実施記録(参加者リスト、教材)。
- 漏洩時の緊急対応手順に関する訓練記録。
8. 消防計画書
化学物質の安全な貯蔵が、事業所全体の公式な防火管理体制の一部であることを示します。
- 所轄消防署に届け出た消防計画書。
- 危険物の貯蔵・取扱方法や火災予防策に関する記載。
9. 化学物質在庫リスト
全ての貯蔵ルールと管理活動の基礎となる、化学物質の網羅的なリストです。
- 全ての化学物質の名称、CAS番号、貯蔵場所、在庫量を記載したマスターリスト。
- 定期的な更新の履歴。
統合コンプライアンス・ポートフォリオの重要性
化学物質の安全な貯蔵は、単一の証拠では証明できません。リスクアセスメント(計画)から物理的な設備(実行)、そして継続的な監査と教育(評価・改善)まで、複数の証拠が相互に関連しあうことで、初めてその有効性が証明されます。
これらの証拠を統合的に管理・提示することで、企業の化学物質管理が、法令遵守を超えた、体系的で継続的に改善される「生きたシステム」であることを、説得力をもって示すことができます。
重要な注意点
ここで挙げる証拠は、遵守を示すための具体例です。しかし、これらを全て揃えなくとも十分に遵守を証明又は疎明できることもあります。それは御社の状況次第、そして監査の判定基準次第です。 詳しくは私どもHCDコンサルティングにお尋ねください。
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JASTIは、中小企業等が最低限遵守すべき事項を社会人権面を中心に網羅した監査要求事項・評価基準から成り、ILO(国際労働機関)中核的労働基準を含みます。
当事務所代表は、全国社会保険労務士会連合会「ビジネスと人権」研修(ILO駐日事務所の技術協力で構築された研修)で、合計7度ファシリテーターを務めました。
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