JASTI 5-14-1の遵守を、どのような証拠をもって示せばいいか、簡単にまとめます。
JASTI 5-14-1 原文
工場は、工場所在地の法令に従い、対象となる全ての従業員に健康診断を受診させなくてはならない。
達成すべきコミットメント (JASTI 5.14.1)
「私たちは、事業場所在地の法令に従い、対象となる全ての労働者等に健康診断を受診させます。」
補足説明:法的根拠と国際基準
日本の国内法:労働安全衛生法第66条は、事業者に対し、労働者への健康診断の実施を明確に義務付けています。対象は正社員だけでなく、一定の要件を満たすパートタイム労働者や派遣社員も含まれます。
国際人権基準:ILO第155号条約は「安全で健康的な労働環境」を中核的労働基準と位置づけており、健康診断はその実現のための重要な手段です。
このコミットメントは、法令遵守を基盤とし、全ての労働者の健康を維持・増進するための体系的な管理プロセスの実践を証明するものです。
遵守を裏付ける証拠をカテゴリー別に整理
1. 方針と対象者管理
全ての対象労働者を網羅し、受診漏れを防ぐための管理体制を構築します。
- 健康診断の実施に関する社内規程。
- 全対象者(正社員、パート、派遣等)を網羅した健康診断管理台帳。
- 医療機関とのサービス契約書。
2. 雇入れ時健康診断
労働者を新たに雇い入れる際の、法定健康診断の実施を徹底します。
- 雇入れ時健康診断の受診記録(個人票)。
- 法定11項目が全て実施されていることの証明。
- 入社手続きフローに健康診断の受診が組み込まれている資料。
3. 定期健康診断
1年以内ごとに1回、全ての常時使用労働者に対し、定期的な健康診断を実施します。
- 全従業員の定期健康診断個人票(5年間保存)。
- 受診率100%を目指すための受診勧奨やフォローアップの記録。
- 未受診者に対する理由の確認と対応記録。
4. 特定業務従事者健診
深夜業など、身体への負荷が大きい業務に従事する労働者に対し、6ヶ月に1回の健診を実施します。
- 特定業務従事者のリストと業務内容の記録。
- 配置転換時および6ヶ月ごとの健康診断個人票。
- 深夜業の勤務時間・回数の記録。
5. 特殊健康診断
有機溶剤や特定化学物質など、有害な業務に従事する労働者に特化した健診を実施します。
- 特殊健康診断の対象者リストと曝露物質の記録。
- 特殊健康診断個人票(保存期間は5年~40年)。
- 作業環境測定結果報告書。
- リスクアセスメント記録。
6. ストレスチェック
労働者のメンタルヘルス不調を未然に防ぐため、ストレスチェックと面接指導を実施します。
- ストレスチェックの実施記録。
- 高ストレス者への面接指導の申出勧奨と実施記録。
- 集団分析結果に基づく職場環境改善計画。
7. 医師の意見聴取と事後措置
健診結果に基づき、医師の意見を聴取し、適切な就業上の措置を講じます。
- 健診結果に異常所見があった労働者に関する医師からの意見書。
- 作業転換、労働時間短縮などの措置を講じた記録。
- 措置内容に関する本人への説明・同意の記録。
8. 結果通知と保健指導
労働者が自らの健康状態を把握し、健康維持に努めることを支援します。
- 全受診者への健康診断結果通知の記録。
- 保健指導の対象者リストと、実施記録。
- 健康に関する情報提供の記録(社内報、ポスター等)。
9. 安全衛生委員会での活用
健診結果を職場全体の健康課題として捉え、労使で改善に取り組みます。
- 安全衛生委員会の議事録(3年間保存)。
- 議事録に、健診結果の集団分析や職場改善策の討議が記録されていること。
- 産業医からの助言内容と、それに対する委員会の審議記録。
10. 労基署への結果報告
常時50人以上の事業場として、定期健診結果を労働基準監督署へ報告する義務を果たします。
- 労働基準監督署の受付印がある「定期健康診断結果報告書」の控え。
- 報告が「遅滞なく」行われたことを示す日付。
- 電子申請の場合は受付完了通知。
11. 記録の保管管理
法令遵守とトレーサビリティを確保するため、関連記録を法定期間、適切に保管します。
- 健康診断個人票の保管記録(一般5年、特殊5~40年)。
- 安全衛生委員会議事録(3年)など、関連文書の管理台帳。
- 個人情報保護に配慮した施錠可能な保管庫やアクセス制限のあるサーバー。
12. 継続的改善と監査
健康管理体制が有効に機能しているかを、自主的に検証し、改善し続けます。
- 内部監査報告書(健康診断プロセスの評価を含む)。
- 監査指摘事項に対する是正措置計画と完了報告。
- 経営層によるマネジメントレビューの議事録。
健康診断から始める、持続可能な職場環境
健康診断の実施は、単なる義務の履行ではありません。それは、労働者一人ひとりの健康を守り、組織全体の生産性を向上させ、安全文化を醸成するための継続的な改善サイクル(PDCA)の出発点です。
本インフォグラフィックで示した証拠を体系的に整備・管理することは、企業が労働者の健康という基本的人権を尊重し、持続可能な経営を実践していることの力強い証明となります。
重要な注意点
ここで挙げる証拠は、遵守を示すための具体例です。しかし、これらを全て揃えなくとも十分に遵守を証明又は疎明できることもあります。それは御社の状況次第、そして監査の判定基準次第です。 詳しくは私どもHCDコンサルティングにお尋ねください。
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JASTIは、中小企業等が最低限遵守すべき事項を社会人権面を中心に網羅した監査要求事項・評価基準から成り、ILO(国際労働機関)中核的労働基準を含みます。
当事務所代表は、全国社会保険労務士会連合会「ビジネスと人権」研修(ILO駐日事務所の技術協力で構築された研修)で、合計7度ファシリテーターを務めました。
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