JASTI 5-14-2の遵守を、どのような証拠をもって示せばいいか、簡単にまとめます。
JASTI 5-14-2 原文
工場は、工場所在地の法令に定められた頻度で、危険な材料を扱う従業員 に対し必要な健康診断を受診させなくてはならない。法令の定めがない場合、年に 1 回以上受診させなければならない。
達成すべきコミットメント (JASTI 5.14.2)
「私たちは、事業場所在地の法令に定められた頻度で、危険な材料を扱う労働者等に対し必要な健康診断を受診させます。」
補足説明:法的根拠と国際基準
日本の国内法:労働安全衛生法第66条第2項は、有機溶剤、鉛、特定化学物質、石綿など、政令で定める有害な業務に従事する労働者に対し、「特殊健康診断」の実施を義務付けています。
国際人権基準:ISO 45001は、リスクアセスメントに基づき、職業性疾病を予防するための健康監視(サーベイランス)を要求しています。
このコミットメントは、高リスク業務に従事する労働者の健康を保護するための、より専門的で予防的な管理体制が機能していることを証明するものです。
遵守を裏付ける証拠をカテゴリー別に整理
1. リスクアセスメント
特殊健康診断が必要な「危険な材料」と対象業務を、科学的根拠に基づき特定します。
- 化学物質や有害業務に関するリスクアセスメントの実施記録。
- 特殊健康診断の対象となるハザードを特定した文書。
- 労働者の意見を聴取した記録(議事録、アンケート等)。
2. 対象者と健診計画の管理
対象者全員が、法令で定められた頻度で、漏れなく受診できる体制を構築します。
- 特殊健康診断対象者名簿(業務内容、曝露物質、受診日を記載)。
- 年間健康診断実施計画書。
- 対象業務への配置転換時の健診実施記録。
3. 特殊健康診断の実施記録
労働者一人ひとりが、法に定められた検査項目を含む健診を受診したことを証明します。
- 特殊健康診断個人票(法定様式または同等内容)。
- 曝露物質に応じた特殊検査項目が実施されていることの証明。
- 法定期間(5年~40年)保管されていることの記録。
4. 作業環境測定
職場における有害物質の濃度等を客観的に測定し、曝露リスクを管理します。
- 有資格機関による作業環境測定結果報告書。
- 測定結果に基づく管理区分の評価記録。
- 管理区分に応じた施設改善や呼吸用保護具の使用徹底などの措置記録。
5. 医師の意見聴取と事後措置
健診結果を活かし、労働者の健康を守るための具体的な行動に繋げます。
- 異常所見者に関する産業医からの意見書。
- 作業転換、労働時間短縮、治療勧奨などの事後措置の実施記録。
- 措置内容に関する本人への説明・同意の記録。
6. 安全衛生委員会での審議
有害業務の健康管理が、労働者の参加を得て透明性をもって議論されていることを示します。
- 安全衛生委員会の議事録(3年間保存)。
- 議事録に、特殊健診の結果、作業環境測定結果、事後措置が議題として記載されていること。
- 労働者代表からの意見や産業医の助言が記録されていること。
7. 保護具の管理
リスクアセスメントに基づき、適切な保護具を選定し、その使用を徹底します。
- 保護具着用管理責任者の選任記録。
- 有害物質に応じた保護具の選定マトリックス。
- 労働者への保護具支給記録と、フィットテスト等の実施記録。
8. 安全衛生教育(特別教育)
労働者が「危険な材料」を安全に取り扱うための知識とスキルを確保します。
- 有害業務に関する「特別教育」の実施記録(受講者サイン含む)。
- 教育カリキュラム(物質の有害性、作業手順、保護具、緊急時措置)。
- 教育後の理解度テストや実技評価の記録。
9. 労基署への結果報告
常時50人以上の事業場として、特殊健診結果も労働基準監督署へ報告する義務を果たします。
- 労働基準監督署の受付印がある「特殊健康診断結果報告書」の控え。
- 報告が「遅滞なく」行われたことを示す日付。
- 電子申請の場合は受付完了通知。
10. 記録の長期保管
健康への長期的な影響を考慮し、法令に基づき健診記録を長期間保管します。
- 特殊健診個人票の管理台帳(石綿40年、特化物30年等)。
- 長期保管に対応した文書管理規程。
- 退職者の記録も適切に保管されていることの証明。
11. 内部監査
有害業務の健康管理プロセスが有効に機能しているかを、自主的に検証します。
- 内部監査報告書(特殊健診プロセスの評価を含む)。
- 対象者の特定、頻度、事後措置の適切性に関する監査記録。
- 監査指摘事項に対する是正措置計画と完了報告。
12. 経営層レビュー
有害業務の健康管理が経営の重要課題として認識され、トップが改善を主導していることを示します。
- マネジメントレビューの議事録。
- 議事録に、特殊健診の結果や作業環境改善の状況が含まれていること。
- 健康管理に関する方針や目標の見直し、資源配分に関する経営層の決定事項。
予防的アプローチで守る、労働者の健康と企業の未来
危険な材料を扱う労働者への特殊健康診断は、職業性疾病を未然に防ぐための最も重要な予防措置です。それは、リスクアセスメントを起点とし、適切な健診の実施、結果に基づく事後措置、そして継続的な職場環境改善へと繋がる一連の管理サイクルです。
本インフォグラフィックで示した証拠を体系的に整備することは、企業が最も脆弱な立場に置かれうる労働者の健康を守るという重い責任を果たし、持続可能な経営を実践していることの力強い証明となります。
重要な注意点
ここで挙げる証拠は、遵守を示すための具体例です。しかし、これらを全て揃えなくとも十分に遵守を証明又は疎明できることもあります。それは御社の状況次第、そして監査の判定基準次第です。 詳しくは私どもHCDコンサルティングにお尋ねください。
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JASTIは、中小企業等が最低限遵守すべき事項を社会人権面を中心に網羅した監査要求事項・評価基準から成り、ILO(国際労働機関)中核的労働基準を含みます。
当事務所代表は、全国社会保険労務士会連合会「ビジネスと人権」研修(ILO駐日事務所の技術協力で構築された研修)で、合計7度ファシリテーターを務めました。
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