JASTI 5-17-2の遵守を、どのような証拠をもって示せばいいか、簡単にまとめます。
JASTI 5-17-2 原文
工場は、工場所在地の法令に従い、工場内の騒音を基準以下に維持しなければならない。法令の定めがない場合、85 デシベル以下の維持に努めなけ ればならない。基準を超える環境においては必要に応じて、耳栓などの防 護器具を使用させなくてはならない。
達成すべきコミットメント (JASTI 5.17.2)
「私たちは、事業場所在地の法令に従い、工場内の騒音レベルを基準以下に維持します。法令の定めがない場合、85dBA 以下に維持します。」
補足説明:法的根拠と国際基準
日本の国内法:労働安全衛生規則は、著しい騒音を発する屋内作業場での作業環境測定、結果に基づく管理区分の決定、および区分に応じた改善措置を義務付けています。
国際人権基準:ILO第148号条約は騒音による聴力障害の防止を、ISO 45001は騒音リスクの特定と管理を求めています。
このコミットメントは、騒音性難聴の予防、コミュニケーション障害の防止、そして労働災害リスクの低減を通じて、安全で健康的な職場環境を実現することを目的としています。
遵守を裏付ける証拠をカテゴリー別に整理
1. 方針と管理体制
騒音管理が、組織的な方針と明確な基準に基づいて行われていることを示します。
- 騒音管理に関する社内規程やマニュアル。
- 騒音レベルの基準値(法定+自主基準85dBA)を定めた文書。
- 騒音管理の責任者と役割分担を定めた組織図。
2. リスクアセスメント
騒音発生源と、それによる健康・安全リスクを体系的に特定・評価します。
- 騒音発生源(機械、設備)のリスト。
- 騒音リスクアセスメントの実施記録。
- リスクレベルに応じた管理措置の優先順位付け。
3. 作業環境測定
騒音レベルを客観的に測定し、法令および自主基準への適合性を評価します。
- 年間の作業環境測定計画書。
- 有資格機関による「作業環境測定結果報告書」。
- 測定地点を明記した工場レイアウト図。
4. 管理区分の決定と掲示
測定結果に基づき、作業場所を第I~IIIの管理区分に分け、労働者に周知します。
- 測定結果報告書内の管理区分評価。
- 作業場所の見やすい場所に管理区分を掲示した写真。
- 管理区分決定の根拠となった評価記録。
5. 工学的対策
騒音レベルを低減するための、物理的な設備改善策を講じます。
- 低騒音型の機械への更新記録。
- 遮音カバーや防音壁の設置記録(写真、工事契約書)。
- 吸音材の設置や、設備の定期的なメンテナンス記録。
6. 管理的対策
作業のやり方や体制を工夫し、労働者の騒音ばく露を低減します。
- 騒音作業時間の短縮や、作業ローテーションの計画・実績記録。
- 騒音発生源から離れた場所に操作室を設置した際の図面。
- 「聴力保護具着用」等の標識を掲示した写真。
7. 個人用保護具の管理
労働者が聴力保護具を適切に選定、使用、管理できるよう支援します。
- 適切な遮音性能を持つ保護具の選定記録。
- 労働者への保護具支給・交換記録。
- 保護具の清掃・保守に関する手順書と実施記録。
8. 健康診断(聴力検査)
騒音作業従事者の健康状態を定期的に確認し、職業性疾病を早期に発見します。
- 騒音作業従事者に対する特殊健康診断(聴力検査)の実施記録。
- 雇入れ時・配置換え時および6ヶ月ごとの健診記録。
- 健診結果に基づく医師の意見聴取と事後措置の記録。
9. 安全衛生教育
労働者が騒音の有害性を理解し、自らを守る行動がとれるようにします。
- 騒音の有害性や対策に関する安全衛生教育の実施記録。
- 保護具の正しい選択・使用方法に関する訓練記録。
- 教育後の理解度テストや実技評価の結果。
10. 安全衛生委員会での審議
騒音対策が、労働者の参加を得て、組織的に議論・決定されていることを示します。
- 安全衛生委員会の議事録(3年間保存)。
- 議事録に、作業環境測定結果、対策の進捗、健診結果が議題として記載されていること。
- 労働者代表からの意見や産業医の助言が記録されていること。
11. 内部監査
騒音管理プロセスが有効に機能しているかを、自主的に検証します。
- 内部監査報告書(騒音管理に関する評価項目を含む)。
- 監査での指摘事項に対する是正措置計画と完了報告。
- 前回監査からの改善状況のフォローアップ記録。
12. 経営層レビュー
騒音管理を含む安全衛生が、経営の重要課題として認識されていることを示します。
- マネジメントレビューの議事録。
- 議事録に、騒音管理のパフォーマンス評価や改善に関する議論が含まれていること。
- 騒音対策のための予算承認など、経営層の決定事項。
静かな職場が守る、労働者の健康と安全
騒音管理は、騒音性難聴という回復不能な健康障害から労働者を守るための重要な責務です。このコミットメントの達成は、単に測定値を示すだけでなく、リスクアセスメントから対策の実施、労働者への教育、そして継続的な改善に至る一連の管理サイクルが機能していることを証明することが不可欠です。
本インフォグラフィックで示した体系的な証拠は、企業が法令を遵守し、労働者の健康と安全を最優先する、責任ある組織文化を構築していることの力強い証明となります。
重要な注意点
ここで挙げる証拠は、遵守を示すための具体例です。しかし、これらを全て揃えなくとも十分に遵守を証明又は疎明できることもあります。それは御社の状況次第、そして監査の判定基準次第です。 詳しくは私どもHCDコンサルティングにお尋ねください。
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JASTIは、中小企業等が最低限遵守すべき事項を社会人権面を中心に網羅した監査要求事項・評価基準から成り、ILO(国際労働機関)中核的労働基準を含みます。
当事務所代表は、全国社会保険労務士会連合会「ビジネスと人権」研修(ILO駐日事務所の技術協力で構築された研修)で、合計7度ファシリテーターを務めました。
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