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JASTI 5-18-3 遵守の証拠

JASTI 5-18-3の遵守を、どのような証拠をもって示せばいいか、簡単にまとめます。

JASTI 5-18-3 原文

従業員寮においては、工場所在地の法令に従い、避難訓練を行わなければ ならない。避難訓練の実施記録(日付、参加者、訓練の内容等)を保管し なくてはならない。 注:日本の場合は、原則として50人以上の従業員寮のみ当該対応が必要 となる。

達成すべきコミットメント

「私たちは、事業場所在地の法令に従って、50人以上の労働者等が居住する寮において、避難訓練を行い、その実施記録(日付、参加者、訓練の内容等)を保管します。」

補足説明:法的根拠と国際基準

日本の国内法:消防法は、収容人員50人以上の寮(特定防火対象物)に対し、防火管理者の選任、消防計画の作成・届出、年2回以上の避難訓練の実施、および記録の3年間保管を義務付けています。

国際人権基準:ILO条約やISO 45001は、緊急事態への準備と対応、そして継続的改善の重要性を強調しており、避難訓練はその中核的な活動です。

このコミットメントは、法的義務の履行はもちろん、訓練の形骸化を防ぎ、実効性を高めるための継続的な改善努力を通じて、労働者の生命を守る企業の姿勢を示すものです。

コミットメント達成の意義

寮における定期的な避難訓練は、緊急時における労働者の生命を守るための最も直接的かつ効果的な手段です。これにより、パニックを防ぎ、迅速かつ秩序ある避難行動を促します。この取り組みは、企業の安全配慮義務を果たすだけでなく、労働者が安心して生活・就労できる環境を構築し、企業全体の安全文化を醸成することに繋がります。

遵守を裏付ける証拠をカテゴリー別に整理

1. 防火管理者の選任

消防法に基づき、寮の防火管理責任者が適正に選任されていることを証明します。

遵守を示す証拠 (例):
  • 消防署の受理印付き防火管理者選任届出書の控え。
  • 防火管理者の資格を証明する書類(講習修了証等)の写し。

2. 消防計画の策定と届出

寮の実態に即した実効性のある消防計画が策定され、消防署に届け出られていることを示します。

遵守を示す証拠 (例):
  • 避難訓練の年間計画を含む、最新の消防計画書。
  • 消防署の受理印付き消防計画届出書の控え。
  • 計画の改訂履歴。

3. 消防計画の周知

計画が全居住者に周知され、緊急時に機能するための基盤が構築されていることを証明します。

遵守を示す証拠 (例):
  • 寮居住者への説明会の議事録や配布資料(多言語対応の証拠含む)。
  • 掲示板やイントラネットでの周知記録。
  • 内容の理解度を確認した記録。

4. 避難訓練の計画(シナリオ)

訓練が形骸化せず、多様な状況に対応できるよう計画されていることを示します。

遵守を示す証拠 (例):
  • 年2回以上の訓練実施が明記された年間計画。
  • 火災、地震、夜間など、毎回異なる具体的な訓練シナリオ。
  • 通報、初期消火、避難誘導、救護などの詳細な訓練内容の記録。

5. 避難訓練の実施記録(本体)

消防法に基づき、訓練が規定通りに実施され、その詳細が記録・保管されていることを証明します。

遵守を示す証拠 (例):
  • 訓練実施記録(日付、時間、シナリオ、内容を明記)。
  • 寮居住者を含む全参加者の署名入り名簿。
  • 記録の3年間以上の保管を証明するファイリングシステム。

6. 訓練実施の視覚的証拠

訓練が実際に、かつ真剣に行われたことを客観的に示し、記録の信頼性を補強します。

遵守を示す証拠 (例):
  • 避難、消火器操作、点呼など、訓練の各段階を示す日付入り写真。
  • 訓練全体の様子を記録したビデオ。
  • 改善策の実施前後を比較できる写真。

7. 訓練結果の評価と改善

訓練がPDCAサイクルに基づいており、継続的に改善されていることを証明します。

遵守を示す証拠 (例):
  • 訓練後の評価報告書(避難時間、課題等を明記)。
  • 参加者からのフィードバックや改善提案をまとめた記録。
  • 課題に対する具体的な改善計画書(責任者、期限を明記)。

8. 安全衛生委員会での審議

訓練結果が労使で共有され、組織的な安全衛生活動の一環として管理されていることを示します。

遵守を示す証拠 (例):
  • 訓練結果と改善策が議題となった安全衛生委員会の議事録。
  • 労働者代表の意見が反映されている記録。
  • 議事録の3年間以上の保管記録。

9. 寮の安全設備図面

避難計画が寮の物理的構造と整合しており、根拠に基づいていることを証明します。

遵守を示す証拠 (例):
  • 避難経路、非常口、消防設備、集合場所が明記された最新の建築図面。
  • 増改築があった場合は、更新された図面と関連する許可証。

10. 消防用設備の点検

訓練を支える消防設備が、常に正常に機能する状態に維持されていることを示します。

遵守を示す証拠 (例):
  • 消防署の受理印付き消防用設備等点検結果報告書(年1回)。
  • 消火器、報知設備、誘導灯等の個別点検票。

11. 緊急時対応マニュアル

訓練が実践的な手順に落とし込まれ、負傷者発生等にも対応できることを示します。

遵守を示す証拠 (例):
  • 負傷者救護や応急手当の手順を含む緊急時対応マニュアル。
  • 救急用具(AED含む)の設置場所リストと点検記録。
  • 応急手当資格者のリスト。

12. 防火管理維持台帳

関連する全ての証拠が一元管理され、体系的なコンプライアンス体制が構築されていることを示します。

遵守を示す証拠 (例):
  • 消防計画、点検報告書、訓練記録等をまとめた台帳。
  • 監査時に迅速に提示できる、整理されたファイリングシステム。

継続的改善による実効性の証明

寮における避難訓練のコミットメント達成を証明するためには、単に訓練を実施し記録するだけでは不十分です。重要なのは、訓練から得られた課題を分析し、具体的な改善策を立案・実行し、その結果を次回の訓練や消防計画に反映させるという「継続的改善のサイクル」を回していることを示すことです。

防火管理者、消防計画、訓練記録、安全衛生委員会議事録、関連設備の点検記録といった証拠群が相互に連携し、一貫したストーリーを語ることで、訓練が形骸化せず、真に労働者の安全確保に貢献していることを説得力をもって証明できます。

重要な注意点
ここで挙げる証拠は、遵守を示すための具体例です。しかし、これらを全て揃えなくとも十分に遵守を証明又は疎明できることもあります。それは御社の状況次第、そして監査の判定基準次第です。 詳しくは私どもHCDコンサルティングにお尋ねください。

JASTI監査対策のご相談は、私どもHCDコンサルティングへ

JASTIは、中小企業等が最低限遵守すべき事項を社会人権面を中心に網羅した監査要求事項・評価基準から成り、ILO(国際労働機関)中核的労働基準を含みます。

当事務所代表は、全国社会保険労務士会連合会「ビジネスと人権」研修(ILO駐日事務所の技術協力で構築された研修で、合計7度ファシリテーターを務めました。

JASTI監査に向けたコンサルティングは、私どもHCDコンサルティングにお任せください。