JASTI 5-18-4の遵守を、どのような証拠をもって示せばいいか、簡単にまとめます。
JASTI 5-18-4 原文
従業員寮の各部屋の面積は、少なくとも1人当たり床の間及び押入を除き 4.5 ㎡の面積を有し、男女別の部屋にしなくてはならない。
達成すべきコミットメント
「私たちは、労働者等の寮における各部屋の面積として、床の間及び押入を除き、少なくとも1人当たり 4.5 ㎡の面積を確保し、男女別の部屋にします。」
補足説明:法的根拠と国際基準
日本の国内法:事業附属寄宿舎規程は、一人当たりの最低居住面積(2.5㎡以上)と男女別室の原則(別棟、または完全区画・別出入口)を定めています。本コミットメントの4.5㎡は、この法的基準を大幅に上回ります。
国際人権基準:ILO第115号勧告は、具体的な数値目標はないものの、「適切かつディーセントな住宅」と「合理的な水準の品位、衛生及び快適さ」を求めており、本コミットメントはこの精神に合致するものです。
コミットメント達成の意義
法的基準を超える居住空間の確保と男女別室の徹底は、労働者の健康、プライバシー、尊厳を守るという企業の強い意志の表れです。快適で安全な生活環境は、労働者の満足度と生産性の向上に繋がり、ESG(環境・社会・ガバナンス)の観点からも企業の社会的評価を高める重要な要素となります。
遵守を裏付ける証拠をカテゴリー別に整理
1. 企業の公式方針文書
法的基準を上回る4.5㎡基準が、企業の意図的な戦略であることを証明します。
- 労働者住宅ポリシーなど、寮の基準を定めた公式方針文書。
- 経営層による方針の承認記録。
- 方針がILO勧告等の国際基準と整合していることの説明。
2. 建築設計図
計画段階で、面積基準と男女別区画が法的に適合していることを示します。
- 各部屋の寸法と面積計算が記載された、認証済みの設計図。
- 床の間・押入れが面積から除外されていることの明記。
- 男女別の棟または区画、独立した出入口が示された図面。
3. 寄宿舎規則
コミットメントの内容が社内ルールとして確立され、法的に届け出られていることを証明します。
- 労働基準監督署の受理印付き寄宿舎規則の控え。
- 各部屋の最大収容人数を明記した条項。
- 男女別室の原則を明確に定めた条項。
4. 部屋割当記録
日常の運用において、過密状態を防ぎ、面積基準が遵守されていることを示します。
- 寮居住者の氏名と割り当てられた部屋番号を示す最新の名簿。
- 各部屋の現在の居住人数と、規則上の最大収容人数の比較。
- 季節変動等に対応する人員管理の記録。
5. 現地での実測・査察記録
計画や文書だけでなく、物理的な現実がコミットメントと一致していることを証明します。
- メジャー等を当てて部屋の寸法を測定している日付入り写真。
- 床の間・押入れを除いた居住面積の実測データ。
- 査察日、対象部屋、測定結果を記録した報告書。
6. 男女別室の視覚的証拠
男女の区画が物理的に、かつ実質的に分離・独立していることを視覚的に示します。
- 男性寮と女性寮が別棟であることを示す写真や配置図。
- 同一棟の場合、完全な物理的区画(壁など)を示す写真。
- 男女それぞれの独立した出入口を示す写真。
7. 清掃・維持管理記録
居住環境の質が、面積だけでなく清潔さによっても高く保たれていることを示します。
- 共用エリア(トイレ、シャワー等)の清掃スケジュールと実施記録。
- 定期的な点検チェックリスト(衛生状態、設備の不備等)。
- 問題発見時の是正措置記録。
8. 内部監査報告書
PDCAサイクルが機能し、継続的に遵守状況が監視・改善されていることを証明します。
- 寮の面積・男女別室に関する定期的な内部監査の記録。
- 監査所見、発見された不適合、および是正措置計画。
- 是正措置の有効性評価の記録。
9. 居住者への聞き取り調査
形式的な遵守だけでなく、労働者の「体感」として安全と快適性が確保されていることを示します。
- 機密性を保った聞き取り調査の実施記録。
- 面積、プライバシー、男女別室ルールに関する満足度の聴取結果。
- 聴取結果に基づく改善策の検討・実施記録。
10. 従業員研修記録
寮利用者が規則を理解し、協力することで、安全で快適な環境が維持されることを示します。
- 寮の利用規則(特に男女別室ルール)に関する研修の実施記録。
- 新規入居者へのオリエンテーション記録。
- 研修資料や参加者名簿。
11. 安全衛生委員会議事録
寮の環境改善が、労使双方で協議され、組織的に管理されていることを証明します。
- 寮の居住環境が議題となった安全衛生委員会の議事録。
- 内部監査や聞き取り調査の結果報告と、改善策の審議記録。
- 労働者代表の意見が反映された記録。
12. 建築関連許可証
寮の建物自体が、建築基準法に基づき法的に承認されていることを証明する根幹的な証拠です。
- 寮の建物に関する建築確認済証の写し。
- 工事完了後の検査済証の写し。
- 増改築があった場合は、その都度の確認済証・検査済証。
統合的証拠によるコンプライアンスの証明
寮の面積と男女別室に関するコミットメントの達成は、単一の証拠では証明できません。企業の公式方針、法的に認証された設計図、日常の運用記録、物理的な現場の状況、そして継続的な監視・改善プロセスを示す記録群が一体となって、初めてその遵守が客観的に証明されます。
これらの証拠を体系的に管理・提示することは、企業が労働者の安全、健康、そして尊厳に対して真摯に取り組んでいることを示す強力なメッセージとなり、全てのステークホルダーからの信頼を獲得する上で不可欠です。
重要な注意点
ここで挙げる証拠は、遵守を示すための具体例です。しかし、これらを全て揃えなくとも十分に遵守を証明又は疎明できることもあります。それは御社の状況次第、そして監査の判定基準次第です。 詳しくは私どもHCDコンサルティングにお尋ねください。
JASTI監査対策のご相談は、私どもHCDコンサルティングへ
JASTIは、中小企業等が最低限遵守すべき事項を社会人権面を中心に網羅した監査要求事項・評価基準から成り、ILO(国際労働機関)中核的労働基準を含みます。
当事務所代表は、全国社会保険労務士会連合会「ビジネスと人権」研修(ILO駐日事務所の技術協力で構築された研修)で、合計7度ファシリテーターを務めました。
JASTI監査に向けたコンサルティングは、私どもHCDコンサルティングにお任せください。