JASTI 5-18-8の遵守を、どのような証拠をもって示せばいいか、簡単にまとめます。
JASTI 5-18-8 原文
工場は、食材を扱う従業員に、エプロン、マスク、手袋、ヘアネット等を 着用させなければならない。
達成すべきコミットメント
「私たちは、食材を扱う労働者等に、エプロン、マスク、手袋、ヘアネット等を着用させます。」
補足説明:法的根拠と国際基準
日本の国内法:食品衛生法およびHACCPに基づく衛生管理計画において、個人用保護具(PPE)の着用は、異物混入や微生物汚染を防ぐための重要な管理措置です。労働安全衛生法は、リスクアセスメントに基づき労働者の安全と健康を確保する観点からPPEの提供を求めています。
国際人権基準:ILO条約やISO 45001は、リスクに基づいた予防的アプローチと、労働者の健康保護を重視しており、適切なPPEの着用はその具体的な実践となります。
コミットメント達成の意義
適切な個人用保護具(PPE)の着用は、毛髪や飛沫などによる食品への汚染を物理的に防ぎ、食品の安全性を確保するための基本です。これにより、消費者の健康を守ると同時に、労働者自身を業務上の汚れや飛沫から保護します。企業の徹底した衛生管理体制と高い安全意識を示し、ブランドイメージと信頼性を向上させます。
遵守を裏付ける証拠をカテゴリー別に整理
1. PPE着用基準・手順書
PPE着用が企業の公式ルールとして定められ、その運用基準が明確であることを証明します。
- 食品衛生管理規程やHACCP計画書内の個人衛生に関する条項。
- 作業工程ごとの具体的なPPE着用基準を定めた手順書。
- PPEの交換頻度、洗濯・廃棄方法を定めたルール。
2. リスクアセスメント記録
PPEの選定が、科学的根拠に基づいた合理的なリスク対策であることを示します。
- 食品衛生ハザード(異物混入、微生物汚染等)のリスク評価記録。
- リスク低減措置としてPPE着用を選定した根拠を示す文書。
- 従業員の参加(意見聴取など)の記録。
3. PPEの提供記録
企業が必要なPPEを無償で、かつ十分に提供していることを具体的に証明します。
- エプロン、マスク、手袋、ヘアネット等の購入記録(請求書等)。
- PPEの在庫管理記録。
- 従業員ごとの配布記録。
4. PPEの管理記録
PPEが常に衛生的で効果的な状態に保たれ、交差汚染のリスクを管理していることを示します。
- 再利用可能なPPE(エプロン等)の洗濯・消毒スケジュールと実施記録。
- 使い捨てPPE(手袋等)の交換頻度の基準と遵守記録。
- 汚染されたPPEの安全な廃棄に関する手順と記録。
5. 教育・訓練の記録
労働者がPPEを正しく使用するための知識とスキルを有していることを証明します。
- PPEの正しい着用・着脱方法、管理に関する定期的な研修の記録。
- 新規採用者や異動者への教育記録。
- 参加者名簿(署名付き)と研修資料、理解度テストの結果。
6. 着用状況の物理的証拠
ルールが現場で実際に遵守されていることを視覚的に証明する、最も直接的な証拠です。
- 調理中の労働者が適切なPPEを着用している日付入り写真。
- 作業工程ごとに定められたPPEが正しく着用されている様子の写真。
- ビデオによる作業風景の記録。
7. 監視・監査の記録
PPE着用ルールが日常的に維持され、問題点が是正されていることを示します。
- 定期的な職場巡回や内部監査のチェックリストと報告書。
- PPEの着用状況、清潔さ、保管状況の確認項目。
- 発見された不適合(マスクのずれ等)と是正措置の記録。
8. 安全衛生委員会の議事録
PPE管理が労使で協議され、組織的に改善されていることを証明します。
- PPE着用状況や衛生管理が議題となった議事録。
- 監査結果や労働者の意見に基づく改善策の審議記録。
- 議事録の3年間以上の保管記録。
9. 食品取扱者の健康診断記録
労働者の健康状態が食品の安全性に影響を与えないことを確認していることを示します。
- 雇入れ時および定期的な健康診断の個人票。
- 感染症や皮膚疾患の有無に関する確認記録。
- 労働基準監督署への結果報告書控え(該当事業場)。
10. 検便記録
食中毒の主要因となる病原菌の無症状保菌者を管理する、最も重要な予防措置の記録です。
- 月1回以上の検便(O157等)の実施記録。
- 冬季のノロウイルス検査記録。
- 陽性反応時の対応(就業制限等)の記録。
11. 始業前健康チェック記録
体調不良者による食品汚染をリアルタイムで防ぐ、最前線の管理措置の記録です。
- 従業員による毎日の健康状態の自己申告・記録。
- 発熱、下痢、嘔吐等の有無の確認。
- 異常時の報告と対応措置の記録。
12. HACCP計画書との連携
PPE着用が、HACCPに基づく体系的な衛生管理システムの一部として機能していることを示します。
- HACCP計画書に、PPE着用が重要管理点(CCP)または一般的衛生管理の項目として明記されていること。
- モニタリング記録とPPE着用記録の整合性。
体系的管理による衛生と安全の証明
PPE着用のコミットメント達成は、単に物品を配布するだけでは証明できません。「なぜそれが必要か(リスク評価)」、「どのように使うか(手順と教育)」、「実際に使われているか(監視)」、「労働者の健康は大丈夫か(健康管理)」という一連の管理サイクルが、文書と記録によって裏付けられていることが不可欠です。
これらの証拠を統合的に管理することは、企業が食品安全と労働者の健康に対し、体系的かつ継続的に責任を果たしていることを示す強力な証明となり、あらゆるステークホルダーからの信頼を獲得します。
重要な注意点
ここで挙げる証拠は、遵守を示すための具体例です。しかし、これらを全て揃えなくとも十分に遵守を証明又は疎明できることもあります。それは御社の状況次第、そして監査の判定基準次第です。 詳しくは私どもHCDコンサルティングにお尋ねください。
JASTI監査対策のご相談は、私どもHCDコンサルティングへ
JASTIは、中小企業等が最低限遵守すべき事項を社会人権面を中心に網羅した監査要求事項・評価基準から成り、ILO(国際労働機関)中核的労働基準を含みます。
当事務所代表は、全国社会保険労務士会連合会「ビジネスと人権」研修(ILO駐日事務所の技術協力で構築された研修)で、合計7度ファシリテーターを務めました。
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