JASTI 5-21-1 の遵守を、どのような証拠をもって示せばいいか、簡単にまとめます。
JASTI 5-21-1 原文
工場は、工場所在地の法令に従い、事故時の対応に関する教育・研修を実 施しなければならない。
達成すべきコミットメント
「私たちは、事業場所在地の法令に従い、事故時の対応に関する教育・研修を実施します。」
補足説明:法的根拠
労働安全衛生規則 第35条:事業者は、労働者の雇入れ時等に「事故時等における応急措置及び退避に関すること」を教育する義務があります。
消防法 第8条:防火管理者は、消防計画に基づき、消火・通報・避難の訓練を定期的に(特定防火対象物は年2回以上)実施する義務があります。
コミットメント達成の意義
事故は常に予期せぬ形で発生します。そのとき、パニックに陥らず、冷静かつ迅速に適切な行動(避難、通報、応急手当)がとれるかどうかは、日頃の教育と訓練にかかっています。事故対応研修は、労働者の生命を守り、被害を最小限に抑えるための重要な投資です。
遵守を裏付ける証拠をカテゴリー別に整理
1. 教育・研修計画と教材
訓練が計画的かつ、事業所のリスクに基づいた内容で設計されていることを示します。
- 年間の安全衛生教育計画書。
- 応急手当、避難、緊急連絡に関する具体的な訓練教材(テキスト、スライド等)。
- リスクアセスメント結果を反映した訓練内容の記録。
2. 教育実施と力量評価の記録
訓練が実際に実施され、労働者が知識・技能を習得したことを客観的に証明します。
- 日付、内容、講師、参加者自筆署名入りの訓練実施記録。
- 訓練後の理解度テストや実技評価の結果。
- 力量が不十分だった者への再教育の記録。
3. 避難・消火訓練の記録
消防法に基づき、火災を想定した実践的な訓練が定期的に行われていることを示します。
- 年2回以上(特定防火対象物の場合)の訓練実施記録。
- 訓練シナリオ、参加者リスト、避難にかかった時間などを記録した報告書。
- 消防署への実施報告書の控え。
4. 訓練後のレビューと改善記録
訓練がやりっぱなしでなく、課題を次に活かす改善サイクルが機能していることを示します。
- 訓練後に実施した反省会やレビュー会議の議事録。
- 発見された課題(例:避難経路の混雑)と、それに対する具体的な改善計画・実施記録。
5. 避難経路図と掲示物
緊急時に必要な情報が、視覚的に分かりやすく提供されていることを示します。
- 「現在地」「避難経路」「消火器・AED等の場所」を明記した避難経路図の写真。
- 見やすい場所への常時掲示状況。
- 定期的な内容のレビューと更新の記録。
6. 応急手当体制の管理記録
応急手当に必要な「人」と「物」が、体系的に管理されていることを証明します。
- 応急手当有資格者(救命講習修了者等)の名簿と資格有効期限の管理台帳。
- AEDの設置場所、点検日、消耗品(バッテリー等)の有効期限を管理するログ。
- 救急箱の定期点検と中身の補充記録。
7. 安全衛生委員会議事録
労働者の意見を反映し、組織として事故対応体制の改善に取り組んでいることを証明します。
- 緊急時対応計画や訓練結果について審議した議事録。
- 労働者代表からの意見に基づき、訓練内容や設備を改善した記録。
- 議事録の3年間保存の証明。
8. 労働災害記録と是正措置
実際の事故事例から学び、訓練内容や緊急時対応計画を改善していることを示します。
- 労働者死傷病報告の提出控え。
- 事故調査報告書と原因分析の記録。
- 原因究明の結果を訓練内容に反映させた記録。
9. OHSマネジメントシステム
事故対応訓練が、ISO 45001等の国際基準に準拠した体系的な枠組みの一部であることを示します。
- ISO 45001認証書(取得している場合)。
- 緊急事態への準備及び対応(箇条8.2)に関する手順書。
- 内部監査報告書とマネジメントレビュー議事録。
統合コンプライアンス・ポートフォリオの重要性
事故時の対応能力は、単一の訓練では証明できません。リスク評価に基づく計画、定期的な実地訓練、応急手当体制の維持管理、そして訓練結果をフィードバックして改善するサイクル、これら全ての証拠が連携して初めて、実効性のある体制が証明されます。
これらの証拠を体系的に管理・提示することで、企業が労働者の生命と安全を守るための「生きた」安全管理システムを構築・運用していることを、説得力をもって示すことができます。
重要な注意点
ここで挙げる証拠は、遵守を示すための具体例です。しかし、これらを全て揃えなくとも十分に遵守を証明又は疎明できることもあります。それは御社の状況次第、そして監査の判定基準次第です。 詳しくは私どもHCDコンサルティングにお尋ねください。
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JASTIは、中小企業等が最低限遵守すべき事項を社会人権面を中心に網羅した監査要求事項・評価基準から成り、ILO(国際労働機関)中核的労働基準を含みます。
当事務所代表は、全国社会保険労務士会連合会「ビジネスと人権」研修(ILO駐日事務所の技術協力で構築された研修)で、合計7度ファシリテーターを務めました。
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