JASTI 5-21-2 の遵守を、どのような証拠をもって示せばいいか、簡単にまとめます。
JASTI 5-21-2 原文
工場は、工場所在地の法令に従い、少なくとも 2 名、または従業員数の 2%以上の人員に CPR(心肺蘇生)の講習を受けさせなくてはならない。
達成すべきコミットメント
「私たちは、事業場所在地の法令に従い、少なくとも 2 名、または労働者等数の2%以上の人員に CPR(心肺蘇生)の講習を受けさせます。」
補足説明:法的根拠と自主基準
労働安全衛生規則:第35条で「事故時等における応急措置」の教育を、第633条で「救急用具の使用方法の周知」を義務付けています。CPR講習はこれらの義務を具体的に実践するものです。
自主基準(2名または2%以上):日本の法令にはCPR講習受講者の具体的な人数規定はありません。この数値目標は、法令を超える高いレベルの安全体制を目指す、企業の積極的な意思表明です。
コミットメント達成の意義
心停止など一刻を争う事態において、その場に居合わせた人による迅速なCPR(心肺蘇生)は救命率を大幅に向上させます。事業場内に一定数のCPR講習受講者を確保することは、いつ、どこで、誰が倒れても、即座に救命活動を開始できる体制を整えることであり、労働者の生命を守るための具体的な行動です。
遵守を裏付ける証拠をカテゴリー別に整理
1. リスクアセスメント記録
CPR講習の必要性が、職場の潜在的リスク評価に基づいて決定されたことを示す根拠文書です。
- 心停止リスク(感電、窒息、重篤な負傷等)を特定したリスク評価シート。
- リスク低減措置として、応急手当能力の確保(CPR講習)を定めた記録。
2. CPR/AED管理台帳
「2%以上」という自主目標の達成状況を継続的に管理していることを示す最重要証拠です。
- 総従業員数と、目標人員数(2%)を記載した台帳。
- CPR有資格者名簿(氏名、資格有効期限)。
- AEDの設置場所と点検・消耗品管理ログ。
3. 講習修了証と参加記録
個々の労働者が、公的機関等の信頼できる講習を修了したことを直接的に証明します。
- 消防署や日本赤十字社などが発行した有効なCPR講習修了証の写し。
- 講習の参加者リスト(自筆署名付き)。
4. 訓練計画と教材
訓練が計画的かつ、質の高い内容で設計されていることを示します。
- 年間の安全衛生教育計画書。
- CPR、AED使用法、止血法などを含む訓練カリキュラム。
- 使用したテキストやプレゼンテーション資料。
5. 訓練効果の評価記録
訓練が単なる受講に終わらず、知識と技能の習得に繋がったことを証明します。
- 講習後の理解度を確認する筆記試験の結果。
- CPRやAED操作の実技試験の評価記録。
- 評価結果に基づくフィードバックや追加訓練の記録。
6. 応急手当の手順書と周知
緊急時に誰でも、落ち着いて行動できるよう、具体的な手順を定め周知していることを示します。
- 緊急連絡網、役割分担、CPR手順を記載したマニュアル。
- AED設置場所や救急箱の場所を示す掲示物。
- 労働者へのインタビューによる認知度の確認記録。
7. 避難・消火訓練との連携
CPR訓練が、火災等のより広範な事故対応訓練と連携して行われていることを示します。
- 避難訓練のシナリオに、負傷者発生と応急手当(CPR)の項目が含まれている記録。
- 訓練報告書における、救護班の活動状況の記録。
8. 安全衛生委員会議事録
労働者の意見を反映し、組織として応急手当体制の改善に取り組んでいることを証明します。
- CPR講習の計画や実施結果について審議した議事録。
- AEDの増設や訓練内容の見直しに関する議論と決定の記録。
9. 労働災害記録と改善
実際の事故事例から学び、応急手当体制の有効性を評価・改善していることを示します。
- 労働災害報告書における、応急手当の実施状況の記録。
- 事故レビューに基づき、CPR訓練の重要性を再確認し、体制を強化した記録。
統合コンプライアンス・ポートフォリオの重要性
CPR講習の遵守証明は、単に修了証を集めるだけでは不十分です。なぜその人数目標なのか(リスク評価)、誰が資格を持っているのか(管理台帳)、資格は有効か(期限管理)、そして実際に使えるのか(訓練と評価)といった、一連の管理サイクルを示す証拠の連携が不可欠です。
これらの証拠を体系的に管理・提示することで、企業が労働者の生命を守るための実効性のある救護体制を、計画的かつ継続的に構築・維持していることを、説得力をもって示すことができます。