JASTI 6-2-2 の遵守を、どのような証拠をもって示せばいいか、簡単にまとめます。
JASTI 6-2-2 原文
工場は、工場所在地の法令に従い、従業員の退職の自由を保証しなくては ならない。退職に際し、保証金、金銭上のペナルティを科してはならな い。
達成すべきコミットメント
「私たちは、すべての労働者が、合理的な通知を行うことで、自由に雇用関係を終了させる権利を保障します。労働者は、退職の権利を行使するにあたり、いかなる罰則も受けません。」
補足説明:法的根拠と国際人権
日本の国内法:民法第627条は、期間の定めのない雇用契約について、いつでも解約の申し入れができるとし、申し入れの日から2週間で終了すると定めています。労働基準法第5条は強制労働を禁止しています。
国際人権基準:ILO強制労働条約(第29号、第105号)は、不本意な労働からの自由を保障しており、退職の自由はこの中核的な権利の一部です。
遵守を裏付ける証拠をカテゴリー別に整理
1. 方針の明文化と周知
労働者が自由に退職する権利を尊重する方針を就業規則等に明記し、全従業員に周知します。
- 退職手続きと予告期間を定めた就業規則の条項。
- 従業員ハンドブックや入社時オリエンテーションでの説明資料。
- 方針に関する社内通知の記録。
2. 明確な退職手続きの確立
労働者が退職を希望する際に、誰に、いつ、どのように申し出るべきかの手続きを明確にします。
- 標準化された退職届の様式。
- 退職手続きの流れを説明したマニュアルやフローチャート。
- 退職面談のプロセスに関する規定。
3. 合理的な通知期間
法令(民法第627条)に基づき、過度に長い予告期間を課すことなく、合理的な通知期間を設定します。
- 就業規則に定められた予告期間(例:「退職予定日の14日前」「退職予定日の1ヶ月前」など)。
- 同業他社の慣行や判例と照らして不合理でないことの説明。
4. 違約金・賠償予定の禁止
労働基準法第16条に基づき、退職を理由とする違約金や、損害賠償額を予定する契約を締結しません。
- 労働契約書に賠償予定に関する禁止条項が含まれていないこと。
- 研修費返還規定などが、法的要件を満たし、労働者の退職の自由を不当に制約しないものであることの検証記録。
5. 退職妨害行為の防止
上司による執拗な引き止め、退職届の不受理、嫌がらせなど、労働者の自由な意思決定を妨げる行為を禁止します。
- 管理職向けのハラスメント防止・コンプライアンス研修の記録。
- 退職勧奨が強要にならないよう注意点をまとめたガイドライン。
- 退職妨害に関する相談窓口の設置と周知。
6. 退職後の迅速な手続き
退職日までに貸与品を返却させ、最終給与の支払いや必要書類の交付を遅滞なく行います。
- 退職手続きチェックリスト(本人・会社双方)。
- 離職票、源泉徴収票などの発行・交付記録。
- 最終給与の支払いを証明する賃金台帳や振込記録。
7. 管理職への教育
管理職が労働者の退職の権利を正しく理解し、適切な対応ができるよう、定期的に研修を実施します。
- コンプライアンス研修の実施記録(内容に退職関連法規を含む)。
- 適正な退職面談の進め方に関するガイドライン。
8. 苦情処理メカニズム
退職に関するハラスメントやトラブルについて、労働者が安心して相談できる窓口を設けます。
- 内部通報制度に関する規定と周知記録。
- ハラスメント相談窓口の運用実績(相談件数、対応記録)。
9. 監査とモニタリング
退職プロセスが適切に運用されているか、退職者面談やデータ分析を通じて定期的に検証します。
- 退職者面談の実施記録とフィードバック分析。
- 離職率や離職理由の定期的な分析レポート。
- 内部監査における退職プロセスの検証記録。
結論:労働者の尊厳と職業選択の自由の尊重
労働者の退職の自由を保証することは、単に法的な紛争を避けるためだけでなく、強制労働を防止し、個人の尊厳とキャリアの自己決定権という基本的な人権を尊重する企業の姿勢を示すものです。明確な方針、公正な手続き、そして退職を妨げる行為の防止策を組み合わせ、それらを継続的に監視・改善していくことで、企業は信頼性の高いコンプライアンス体制を構築し、すべての労働者が尊重される職場環境を実現することができます。
重要な注意点
ここで挙げる証拠は、遵守を示すための具体例です。しかし、これらを全て揃えなくとも十分に遵守を証明又は疎明できることもあります。それは御社の状況次第、そして監査の判定基準次第です。 詳しくは私どもHCDコンサルティングにお尋ねください。
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JASTIは、中小企業等が最低限遵守すべき事項を社会人権面を中心に網羅した監査要求事項・評価基準から成り、ILO(国際労働機関)中核的労働基準を含みます。
当事務所代表は、全国社会保険労務士会連合会「ビジネスと人権」研修(ILO駐日事務所の技術協力で構築された研修)で、合計7度ファシリテーターを務めました。
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