JASTI 6-8-2 の遵守を、どのような証拠をもって示せばいいか、簡単にまとめます。
JASTI 6-8-2 原文
時間記録は、始業時と、終業時または残業の後に行わなければならない。
達成すべきコミットメント
「私たちは、労働時間の記録を、始業時と、終業時または残業の後に行います。」
補足説明:法的根拠と国際基準
日本の国内法:厚生労働省のガイドラインは、使用者が労働者の始業・終業時刻を客観的な方法で日々確認・記録することを求めています。
国際人権基準:世界人権宣言は「労働時間の合理的制限」の権利を、ILO条約は始業・終業・時間外労働の記録義務を定めており、正確な記録がこれらの権利の前提となります。
遵守を裏付ける証拠をカテゴリー別に整理
1. 方針の文書化
始業・終業・残業後の労働時間記録を義務付ける方針を策定し、全従業員に周知します。
- 時間記録に関する方針を明記した就業規則や社内規程。
- 従業員ハンドブック、イントラネットでの方針周知の記録。
2. 客観的な記録システム
タイムカード、ICカード、PCログなど、客観的な方法で始業・終業時刻を記録するシステムを導入・運用します。
- タイムスタンプ付きの勤怠システムログやタイムカードのサンプル。
- システム仕様書や設定文書。
- 自己申告制の場合は、ガイドラインに沿った厳格な運用記録。
3. 「残業後」記録の徹底
時間外労働を行った日は、定時ではなく、実際の最終退社時刻を終業時刻として記録します。
- 時間外労働の承認記録と、実際の退勤時刻記録の照合データ。
- 遅い時刻の打刻を許容するシステム設定や運用ルールの文書。
4. 記録の検証と正確性
記録された時間が実態と一致しているか、従業員本人と管理者の両方が定期的に確認・検証します。
- 従業員による勤怠記録の確認・承認プロセスを示す記録。
- 管理者による部下の勤怠記録のレビュー・承認ログ。
- 記録修正に関する正式な申請・承認手続きの運用記録。
5. 裏付け文書との整合性
記録された労働時間が、賃金台帳や時間外労働の承認記録と正確に一致していることを示します。
- 労働時間数が正確に反映された賃金台帳。
- 承認された時間外労働記録と、勤怠記録および賃金台帳の突合記録。
6. 記録の保存と管理
労働時間に関する全ての記録を、法定保存期間(原則5年)に従い、安全かつ検索可能な状態で保管します。
- 記録の保存期間と方法を定めた社内方針。
- 安全な保管場所(施錠された書庫、セキュアなサーバー等)の証明。
- 監査等の際に必要な記録を迅速に提出できる体制の証拠。
7. 「労働時間」の正しい定義
使用者の指揮命令下にある時間(準備、後始末、手待時間、義務的研修等)も労働時間として管理・記録します。
- 労働時間の定義に関する社内方針や研修資料。
- 着替えや手待ち時間などを労働時間として扱う具体的な運用記録。
8. 研修とコミュニケーション
全従業員および管理職が、時間記録の重要性と正しい手順を理解し、遵守するよう徹底します。
- 時間管理に関する研修の実施記録(資料、参加者リスト)。
- 正確な記録の重要性を伝える社内報やポスター。
9. 監査と改善プロセス
時間記録の実務を定期的に監査し、問題を発見した場合は是正措置を講じ、継続的な改善を図ります。
- 内部または第三者による監査報告書。
- 監査結果に基づく是正措置計画と完了報告。
- 労働時間に関する苦情とその対応記録。
結論:透明性のある記録による公正な労働慣行の実現
労働時間を始業・終業・残業後に正確に記録することは、公正な賃金の支払いと過重労働防止の基礎であり、労働者の基本的な権利を守るための第一歩です。客観的なシステム、明確なルール、そして継続的な監視・改善を組み合わせることで、企業は法令と国際基準を遵守し、すべての従業員にとって透明で信頼できる労働環境を構築することができます。
重要な注意点
ここで挙げる証拠は、遵守を示すための具体例です。しかし、これらを全て揃えなくとも十分に遵守を証明又は疎明できることもあります。それは御社の状況次第、そして監査の判定基準次第です。 詳しくは私どもHCDコンサルティングにお尋ねください。
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JASTIは、中小企業等が最低限遵守すべき事項を社会人権面を中心に網羅した監査要求事項・評価基準から成り、ILO(国際労働機関)中核的労働基準を含みます。
当事務所代表は、全国社会保険労務士会連合会「ビジネスと人権」研修(ILO駐日事務所の技術協力で構築された研修)で、合計7度ファシリテーターを務めました。
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