JASTI 6-9-2 の遵守を、どのような証拠をもって示せばいいか、簡単にまとめます。
JASTI 6-9-2 原文
時間外労働の賃金は、工場所在地の法令に定める割増率に従って支給され なければならない。工場所在地の法令の定めがない場合は、通常業務の時 間給を下回ってはならない。出来高制の場合の時間外給与の計算において も、実際の労働時間で支払い給与を時給換算した場合、最低賃金を下回らないようにしなければならない。
達成すべきコミットメント
「私たちは、時間外労働の賃金を、事業場所在地の法令に定める割増率に従って支給します。事業場所在地の法令の定めがない場合は、時間外労働の賃金が通常業務の時間給を下回らないようにします。出来高制の場合の時間外給与の計算においても、実際の労働時間で支払い給与を時給換算した場合、最低賃金を下回らないようにします。」
補足説明:法的根拠と国際基準
日本の国内法:労働基準法第37条が時間外・休日・深夜労働に対する割増率(25%~60%)を詳細に規定しています。最低賃金法は、すべての労働者に対する賃金の最低基準を定めています。
国際人権基準:世界人権宣言やILO原則は「公正かつ有利な報酬」の権利を保障しており、適正な割増賃金の支払いはこの基本的人権の実現に不可欠です。
遵守を裏付ける証拠をカテゴリー別に整理
1. 規程と36協定の整備
時間外労働に関するルールと割増賃率を就業規則に明記し、適法な36協定を締結・届出します。
- 法定割増率を明記した就業規則や賃金規程。
- 所轄労働基準監督署に届け出た、有効な36協定の控え。
- 全従業員への就業規則の周知を証明する記録。
2. 正確な労働時間記録
割増賃金計算の基礎となる労働時間を、客観的な方法で1分単位で正確に記録します。
- タイムカード、ICカード、PCログ等の客観的な勤怠記録。
- 法定の端数処理ルールに則った、1分単位での時間計算を示す証拠。
- 時間外労働の事前申請・承認記録。
3. 割増率の正確な適用
時間外、休日、深夜、月60時間超の各労働に対し、法で定められた正しい割増率を適用して計算します。
- 各種割増率(1.25, 1.35, 1.5, 1.6など)を正しく適用した給与計算記録。
- 割増が重複するケース(例:時間外+深夜)での正しい計算証拠。
- 給与計算システムの割増率設定画面のスクリーンショット。
4. 賃金台帳と給与明細
法定帳簿である賃金台帳を正確に作成し、労働者には計算根拠が明確な給与明細を交付します。
- 労働時間数、割増賃金額等が明記された賃金台帳。
- 勤怠記録と賃金台帳の内容が一致していることの証明。
- 時間外労働時間や手当額が明記された給与明細書のサンプル。
5. 出来高制の最低賃金保証
出来高制労働者に対し、賃金総額を実労働時間で割った時給換算額が、最低賃金を下回らないことを保証します。
- 出来高制労働者の正確な実労働時間の記録。
- 賃金を時給換算し、地域別最低賃金と比較した計算シート。
- 最低賃金を下回った場合に差額を支払った記録。
6. 出来高制の割増賃金
出来高制労働者の時間外労働に対し、時給換算額を基礎として、法に基づいた割増賃金(割増部分)を支払います。
- 出来高制に特有の割増賃金計算方法を示した詳細な計算シート。
- 保障給制度を定めた就業規則や適用記録。
7. 透明性と従業員への説明
従業員が自身の賃金計算方法を理解できるよう、情報提供と説明を徹底します。
- 賃金計算方法を説明した従業員ハンドブックや研修資料。
- 時間外労働時間や割増額が詳細に記載された給与明細。
8. 内部監査と検証
賃金計算プロセスが正しく運用されているかを定期的に監査し、不一致や誤りを是正します。
- 給与計算に関する内部監査の計画書、チェックリスト、報告書。
- 監査で指摘された問題点に対する是正措置計画と完了報告。
9. 苦情処理と改善
賃金に関する従業員からの質問や苦情に対応する窓口を設け、寄せられた意見を継続的な改善に繋げます。
- 相談窓口の設置と周知の記録。
- 賃金に関する相談・苦情の受付・対応記録(匿名化)。
- フィードバックに基づき給与計算プロセスや説明資料を改善した記録。
結論:公正な報酬による信頼の構築
時間外労働に対する適正な賃金の支払いは、法的義務であると同時に、労働者の貢献に報い、公正な処遇を保証するという企業の倫理的責任の表れです。正確な労働時間の記録、法令に準拠した厳密な計算、そして透明性の高いコミュニケーションを徹底することで、企業は従業員との信頼関係を深め、持続可能な成長の基盤を築くことができます。
重要な注意点
ここで挙げる証拠は、遵守を示すための具体例です。しかし、これらを全て揃えなくとも十分に遵守を証明又は疎明できることもあります。それは御社の状況次第、そして監査の判定基準次第です。 詳しくは私どもHCDコンサルティングにお尋ねください。
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JASTIは、中小企業等が最低限遵守すべき事項を社会人権面を中心に網羅した監査要求事項・評価基準から成り、ILO(国際労働機関)中核的労働基準を含みます。
当事務所代表は、全国社会保険労務士会連合会「ビジネスと人権」研修(ILO駐日事務所の技術協力で構築された研修)で、合計7度ファシリテーターを務めました。
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