JASTI 7-1-10 の遵守を、どのような証拠をもって示せばいいか、簡単にまとめます。
JASTI 7-1-10 原文
全ての賃金の明細は、従業員が確認できる形である必要がある。従業員に 明細を見せるだけの場合は、サイン等によって従業員に確認させなくては ならない。
達成すべきコミットメント
「私たちは、全ての賃金の明細を、労働者等が確認できる形とします。労働者等に明細を見せるだけの場合は、サイン等によって労働者等に確認します。」
補足説明:法的根拠と国際基準
日本の国内法:所得税法第231条により、給与支払者は労働者に賃金明細書を交付する義務があります。原則は書面交付ですが、労働者の承諾を得れば電子交付も可能です。
国際人権基準:ILO賃金保護条約(第95号)は、労働者が賃金の各支払時にその細目を知らされる権利を定めており、情報の透明性は公正な労働条件の基本です。
遵守を裏付ける証拠をカテゴリー別に整理
1. 方針の文書化と周知
賃金明細の交付・確認に関する方針を策定し、就業規則や行動規範に明記して、全従業員に周知します。
- 賃金明細の交付方法を定めた就業規則・賃金規程。
- 方針に関する社内イントラネットでの告知記録。
2. 明細書の交付とアクセス
全ての労働者に対し、給与支払日に賃金明細書を確実に交付し、いつでも内容を確認できる状態を保証します。
- Web給与明細システムの導入と、従業員へのアクセス権付与の記録。
- 電子交付に同意しない従業員への紙媒体での交付記録。
3. 電子交付の適法な同意
賃金明細を電子的に交付する場合、事前に労働者から書面または電磁的方法による明確な同意を得ます。
- 労働者本人が署名した電子交付に関する同意書。
- 電子システム上で同意を取得した際の監査可能なログ。
- 同意取得前に必要な情報を提供した記録。
4. 内容の明確性と理解可能性
勤怠、支給、控除の各項目を明確に記載し、労働者が計算根拠を理解できるよう配慮します。
- 法定・推奨項目を網羅した賃金明細のサンプル。
- 明細の読み方を解説した多言語ガイドやFAQ。
- 賃金に関する問い合わせ窓口の設置と周知。
5. 「見せるだけ」の場合の確認
賃金明細の控えを渡さない場合、内容を確認した証拠として、労働者から署名または同等の確認を得ます。
- 署名確認を義務付ける社内規程や運用ガイドライン。
- 労働者が署名した賃金明細の控えや受領ログ。
- デジタル確認システムの監査証跡。
6. 記録の適正な保存
賃金台帳などの関連記録を法定期間(原則5年)安全に保存し、監査や問い合わせに対応できる体制を維持します。
- 文書の保存期間と方法を定めた記録管理規程。
- 賃金台帳や電子交付同意書の保管記録。
- データバックアップとセキュリティに関する手順書。
7. 研修とコミュニケーション
従業員が自身の権利と明細の確認方法を理解し、管理職がその重要性を認識するよう、継続的な教育を行います。
- 賃金明細に関する従業員・管理職向け研修の実施記録。
- 制度変更時の全社的な周知活動の記録。
8. 苦情・問い合わせ対応
賃金明細に関する疑問や懸念を、従業員が報復を恐れることなく申し出られる、実効性のある窓口を設けます。
- 苦情処理手順を定めた文書と周知記録。
- (匿名化された)問い合わせ・苦情の受付・対応ログ。
- 従業員調査における制度の信頼性に関するフィードバック。
9. 監査と継続的改善
賃金明細の交付・確認プロセスを定期的に監査し、その結果に基づいて継続的な改善を行います。
- 内部監査報告書および是正措置の記録。
- 外部の社会監査報告書(該当する場合)。
- 公開報告書での透明性に関する記述。
結論:賃金情報の透明性が信頼の鍵
賃金明細を「確認できる形」で提供することは、単なる情報交付義務を超え、労働者との信頼関係を築くための重要な対話です。明確な規程、アクセスしやすいシステム、そして実質的な確認プロセスを組み合わせることで、企業は賃金に関する透明性と公正性へのコミットメントを具体的に証明し、全ての従業員が尊重される職場環境を促進することができます。
重要な注意点
ここで挙げる証拠は、遵守を示すための具体例です。しかし、これらを全て揃えなくとも十分に遵守を証明又は疎明できることもあります。それは御社の状況次第、そして監査の判定基準次第です。 詳しくは私どもHCDコンサルティングにお尋ねください。
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JASTIは、中小企業等が最低限遵守すべき事項を社会人権面を中心に網羅した監査要求事項・評価基準から成り、ILO(国際労働機関)中核的労働基準を含みます。
当事務所代表は、全国社会保険労務士会連合会「ビジネスと人権」研修(ILO駐日事務所の技術協力で構築された研修)で、合計7度ファシリテーターを務めました。
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