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JASTI 7-6 遵守の証拠

JASTI 7-6 の遵守を、どのような証拠をもって示せばいいか、簡単にまとめます。

JASTI 7-6 原文

工場は、時間外労働を含む労働時間内の就業で、従業員の能力を超える生 産ノルマや出来高制、その他の報奨金制度を設定してはならない。

達成すべきコミットメント

「私たちは、時間外労働を含む労働時間内の就業で、労働者等の能力を超える生産ノルマや出来高制、その他の報奨金制度を設定しません。」

補足説明:法的根拠と国際基準

日本の国内法:労働基準法(労働時間、休日、36協定、出来高払制の保障給)および労働安全衛生法(長時間労働者への面接指導等)が、労働時間と生産要求に関する法的最低基準を定めています。

国際人権基準:ILOの労働時間に関する条約や出来高払いに関するガイダンス、国連ビジネスと人権に関する指導原則(UNGPs)は、単なる法令遵守を超え、労働者の健康と尊厳を守るため、達成可能で公正な生産基準の設定を企業に求めています。

遵守を裏付ける証拠をカテゴリー別に整理

1. 方針とガイドライン

能力を超える生産要求を禁止する、明確に文書化された方針や社内規程が存在することを示します。

遵守を示す証拠 (例):
  • コミットメントを明記した行動規範や人事方針。
  • 生産目標の設定方法、見直し、調整メカニズムを定めた標準作業手順書(SOP)。
  • 出来高払制に関する公正な規則(保障給を含む)。

2. 経営陣の責任と監督

方針の維持・監督に関する責任体制が明確であり、経営層が関与していることを示します。

遵守を示す証拠 (例):
  • 方針の責任者を示す組織図や職務記述書。
  • 管理職の業績評価に、公正な労働慣行の遵守が含まれている記録。
  • 人権デューディリジェンスのプロセスに、過度な生産要求のリスク評価が統合されている証拠。

3. 客観的な労働時間管理

始業・終業時刻、休憩時間を客観的に記録し、時間外労働を適正に管理していることを証明します。

遵守を示す証拠 (例):
  • タイムカード、ICカード、PCログ等の客観的な記録システムの導入・運用記録。
  • 労働基準監督署に提出済みの36協定の写し。
  • 時間外労働の申請・承認プロセスと、割増賃金の正確な支払記録。

4. 生産基準の設定と見直し

生産ノルマが、平均的な労働者の能力に基づき、公正かつ達成可能なものとして設定・見直されていることを示します。

遵守を示す証拠 (例):
  • 時間研究や過去のパフォーマンスデータに基づくノルマ設定方法論の文書。
  • 大多数の労働者が通常時間内に目標を達成していることを示す生産記録データ。
  • 生産基準の定期的な見直し会議の議事録。

5. 賃金・インセンティブ制度の公正性

賃金・報奨金制度が透明であり、過度な労働を助長するものではなく、真の努力に報いる設計であることを示します。

遵守を示す証拠 (例):
  • 全労働者への賃金体系(基本給、出来高率等)に関する明確な説明文書。
  • インセンティブ制度の設計思想と、収益分布の分析記録(一部の労働者に偏っていないことの証明)。
  • ノルマ未達成を理由とした不利益取扱いの禁止を定めた方針。

6. 出来高払制の保障給

出来高払制の労働者に対し、労働基準法に基づき、労働時間に応じた一定額の賃金を保障していることを示します。

遵守を示す証拠 (例):
  • 雇用契約書や就業規則における保障給の明記。
  • 保障給と出来高払いの収益を明確に区別し、適正に支払っている給与記録。
  • 「完全出来高払制」ではないことの証明。

7. 労働者の健康・安全監視

過重労働による健康障害を防止するため、労働者の健康状態を監視し、必要な措置を講じていることを示します。

遵守を示す証拠 (例):
  • 労働安全衛生法に基づく、長時間労働者への医師による面接指導の実施記録と、その後の措置(業務負荷調整等)の記録。
  • 産業医や衛生委員会からの報告書。

8. リスクアセスメントと分析

生産圧力や業務負荷に関連するリスクを特定し、分析・評価していることを示します。

遵守を示す証拠 (例):
  • 業務負荷、生産圧力、人間工学的要因を含む健康安全リスクアセスメント報告書。
  • 事故、インシデント、ニアミスデータと生産圧力との相関分析記録。
  • 高い離職率や欠勤率の根本原因分析の記録。

9. 苦情処理メカニズム

労働者が報復を恐れずに業務負荷や生産ノルマに関する懸念を提起できる、実効的な仕組みがあることを示します。

遵守を示す証拠 (例):
  • 複数の苦情申立チャネル(ホットライン、相談窓口等)の周知資料。
  • 明確な報復禁止方針。
  • 業務負荷に関する苦情の受付、調査、対応、是正措置の記録(匿名化済)。

10. 従業員からのフィードバック

業務負荷や目標の公正性について、従業員の意見を積極的に収集し、制度改善に活かしていることを示します。

遵守を示す証拠 (例):
  • 業務負荷に関する項目を含む、匿名の従業員満足度調査の質問票と集計結果。
  • 労働者代表や衛生委員会との協議議事録。
  • フィードバックを受けて実施された改善策の記録。

11. 管理職向けの研修

管理職が、関連法規や方針を理解し、公正な目標設定と業務負荷管理を実践できるよう研修していることを示します。

遵守を示す証拠 (例):
  • 労働時間法規、公正な目標設定方法、過重労働の兆候認識などを網羅した研修資料。
  • 研修の出席記録と理解度評価。
  • ハラスメントや不当な圧力を禁止する内容を含む研修。

12. 報告と継続的改善

パフォーマンスを監視し、その結果を報告し、継続的な改善の仕組みを運用していることを示します。

遵守を示す証拠 (例):
  • KPI(時間外労働時間、目標達成率等)に関する内部管理報告書。
  • CSR/サステナビリティ報告書における労働慣行に関する記載。
  • 内部監査報告書、および監査結果に基づく是正措置計画。

労働者の能力を尊重する文化の醸成

「労働者の能力を超える生産ノルマ等を設定しない」というコミットメントの達成は、単にルールを設けるだけでなく、労働者の健康と尊厳を尊重する企業文化が不可欠です。提示された証拠は、方針、運用、監視、フィードバック、改善という一連のサイクルが機能していることを示すものです。

これらの具体的証拠を体系的に整備し、開示することで、企業はステークホルダーに対し、公正な労働条件を確保し、持続可能な生産活動を営んでいることへの信頼を醸成することができます。最も重要なのは、これらのシステムが実際に機能し、労働者一人ひとりの能力が真に尊重される職場を実現することです。

重要な注意点
ここで挙げる証拠は、遵守を示すための具体例です。しかし、これらを全て揃えなくとも十分に遵守を証明又は疎明できることもあります。それは御社の状況次第、そして監査の判定基準次第です。 詳しくは私どもHCDコンサルティングにお尋ねください。

JASTI監査対策のご相談は、私どもHCDコンサルティングへ

JASTIは、中小企業等が最低限遵守すべき事項を社会人権面を中心に網羅した監査要求事項・評価基準から成り、ILO(国際労働機関)中核的労働基準を含みます。

当事務所代表は、全国社会保険労務士会連合会「ビジネスと人権」研修(ILO駐日事務所の技術協力で構築された研修で、合計7度ファシリテーターを務めました。

JASTI監査に向けたコンサルティングは、私どもHCDコンサルティングにお任せください。