JASTI 7-7-4 の遵守を、どのような証拠をもって示せばいいか、簡単にまとめます。
JASTI 7-7-4 原文
工場は、賃金台帳を最新の状態に維持し、工場所在地の法令で定める期間、保管しなければならない。工場所在地の法令で定めがない場合は 1 年以上保管しなければならない。
達成すべきコミットメント
「私たちは、賃金台帳を最新の状態に維持し、事業場所在地の法令で定める期間、保管します。事業場所在地の法令で定めがない場合は1年以上保管します。」
補足説明:法的根拠と国際基準
日本の国内法:労働基準法第108条および第109条により、賃金台帳の作成、必須記載事項、および保存期間(原則5年、当面3年)が厳格に定められています。違反には罰則が科される可能性があります。
国際人権基準:ILO第95号条約は適切な賃金記録の保持を求めており、UNGPsは透明性のある賃金記録管理を人権デューディリジェンスの重要な一環と位置付けています。正確な賃金台帳は、公正な報酬を証明する基礎となります。
遵守を裏付ける証拠をカテゴリー別に整理
1. 必須記載事項の網羅性
賃金台帳が、労働基準法で定められた全ての必須項目を遺漏なく記載していることを証明します。
- 労働時間数、時間外労働時間数、基本給・手当・控除の各項目等が明記された賃金台帳のサンプル(匿名化済)。
- 厚労省様式(様式20号等)またはそれに準拠した社内テンプレート。
2. 適時更新プロセスの確立
賃金台帳が「支払の都度、遅滞なく」更新され、常に最新の状態に維持される運用体制があることを示します。
- 賃金台帳の更新頻度と手順を定めた業務マニュアル。
- 給与計算プロセスにおけるデータ検証(勤怠データとの照合等)のフロー図。
- 電子システム上の更新日やタイムスタンプの記録。
3. 法定保存期間の遵守
労働基準法が定める保存期間(原則5年、当面3年)を遵守していることを社内規程と実運用で示します。
- 法定保存期間を明記した文書管理規程。
- コミットメントの「1年」ではなく、日本の法律が優先されることの認識を示した文書。
- (源泉徴収簿を兼ねる場合)税法上の7年保存への対応。
4. 正確な起算日の適用
保存期間の起算日を「最後の記入日または支払期日の遅い方」とする法規定を正しく適用していることを示します。
- 起算日の決定ルールを明記した社内規程。
- 起算日と廃棄予定日を管理している書類管理台帳の抜粋。
- システムがこのルールに基づき起算日を自動計算している場合、その設定画面。
5. 紙媒体の安全な保管
紙で保管された賃金台帳を、劣化、紛失、不正アクセスから保護するための物理的セキュリティ措置を講じていることを示します。
- 施錠可能なキャビネットや専用保管室の写真・説明。
- 保管場所へのアクセス権限者リストと鍵の管理記録。
- 火災や水害対策(耐火書庫等)に関する説明。
6. 電子データの安全な保管
電子データで保管された賃金台帳の機密性、完全性、可用性を確保するための技術的・組織的対策を示します。
- 不正アクセス防止策(ID・パスワード管理、多要素認証、アクセス権限設定)の規程。
- 定期的なデータバックアップの実施記録と手順書。
- 通信経路や保存データの暗号化に関するシステム仕様書。
7. 電子帳簿保存法への対応
電子保管システムが、電子帳簿保存法の「真実性の確保」と「可視性の確保」の要件を満たしていることを証明します。
- 訂正・削除履歴が残る、または訂正・削除ができないシステムの仕様書。
- 日付・金額・項目等で検索できる機能の証明。
- ディスプレイやプリンタ等を備え、速やかに出力できる体制の証明。
8. アクセシビリティの確保
労基署の調査や従業員本人からの開示請求があった際に、賃金台帳を速やかに提示・提出できる体制を示します。
- 当局からの要請への対応手順を定めた内部文書。
- 従業員からの開示請求に関する対応マニュアル。
- 過去の開示請求への対応記録(匿名化済)。
9. 安全な廃棄手順
保存期間が満了した賃金台帳を、情報漏洩のリスクなく安全に廃棄するプロセスが確立されていることを示します。
- 機密文書廃棄規程。
- 廃棄方法(シュレッダー、溶解、データ消去等)の規定。
- 外部業者に委託する場合の契約書や廃棄証明書。
10. 内部方針とガバナンス
賃金台帳の管理に関する包括的な社内方針が存在し、組織全体で一貫した運用がなされていることを示します。
- 賃金台帳管理規程、文書管理規程、情報セキュリティポリシー。
- 規程が関係者に周知されている記録(研修、イントラネット等)。
11. 内部監査と是正措置
定期的な内部監査を通じて遵守状況を自己評価し、問題が発見された場合に適切に対応する仕組みがあることを示します。
- 内部監査計画書、報告書、監査チェックリスト。
- 指摘事項に対する是正措置計画と完了報告。
- 法改正に伴う社内プロセスの見直し記録。
12. 担当者研修と啓発
人事・労務等の担当者が、法的要件や社内規程を正しく理解し、実践するための知識とスキルを有していることを示します。
- 賃金台帳管理に関する研修資料と実施記録。
- 法改正や社内規程の変更に関する研修会や説明会の記録。
- 研修参加者の理解度テストの結果。
結論:継続的コンプライアンスと信頼の構築
賃金台帳の適時かつ正確な維持・保管は、法的義務の履行に留まらず、労働者の権利を尊重し、公正な労働慣行を確保するための企業の基本的な責任です。本報告書で詳述した証拠は、企業がその責任を体系的に果たしていることを示すためのものです。
堅牢な記録管理体制、定期的な内部検証、そして継続的な改善への取り組みを通じて、企業はステークホルダーからの信頼を獲得し、持続可能な事業運営の基盤を強化することができます。
重要な注意点
ここで挙げる証拠は、遵守を示すための具体例です。しかし、これらを全て揃えなくとも十分に遵守を証明又は疎明できることもあります。それは御社の状況次第、そして監査の判定基準次第です。 詳しくは私どもHCDコンサルティングにお尋ねください。
JASTI監査対策のご相談は、私どもHCDコンサルティングへ
JASTIは、中小企業等が最低限遵守すべき事項を社会人権面を中心に網羅した監査要求事項・評価基準から成り、ILO(国際労働機関)中核的労働基準を含みます。
当事務所代表は、全国社会保険労務士会連合会「ビジネスと人権」研修(ILO駐日事務所の技術協力で構築された研修)で、合計7度ファシリテーターを務めました。
JASTI監査に向けたコンサルティングは、私どもHCDコンサルティングにお任せください。