JASTI 7-8-1 の遵守を、どのような証拠をもって示せばいいか、簡単にまとめます。
JASTI 7-8-1 原文
工場は、工場所在地の法令に従い、1 ヶ月の時間外労働時間の制限を超えてはならない。法令の定めがない場合、1 ヶ月の時間外労働時間を 45 時間以内に維持するよう努め、100 時間を超えてはならない。
達成すべきコミットメント
「工場所在地の法令に従い、1ヶ月の時間外労働時間の制限を超えてはならない。法令の定めがない場合、1ヶ月の時間外労働時間を45時間以内に維持するよう努め、100時間を超えてはならない。」
補足説明:法的枠組みとコミットメントの二重構造
法的義務の遵守:日本の労働基準法では、時間外労働は原則「月45時間・年360時間」が上限です。臨時的な事情がある場合でも、特別条項付き36協定により「年720時間」「時間外・休日労働の合計が月100時間未満かつ2~6ヶ月平均80時間以内」等の厳格な上限が定められています。
自主基準の達成:法令遵守に加え、「月45時間以内への努力」と「月100時間の絶対上限」という社内基準の達成が求められます。「努力」を証明するには、具体的な削減施策の実施記録が不可欠です。
遵守を裏付ける証拠をカテゴリー別に整理
1. 36協定の締結・届出
時間外労働を命じるための法的な前提条件である36協定が、適法に締結・届出されていることを証明します。
- 労働者の過半数代表者と締結した最新の36協定書(特別条項を含む)の写し。
- 労働基準監督署の受理印がある届出書の控え、または電子申請の受付完了通知。
2. 36協定の従業員への周知
36協定の内容を全従業員に周知する法的義務を履行していることを示します。
- 作業場への掲示状況を撮影した写真(日付入り)。
- 従業員への書面交付の記録(配布リスト等)。
- 社内イントラネットへの掲載画面のスクリーンショットとアップロード記録。
3. 客観的な労働時間記録
厚労省ガイドラインに基づき、始業・終業時刻等を客観的な方法で記録・管理していることを証明します。
- タイムカード、ICカード、PCログ等の客観的な記録データ。
- 打刻漏れ等が発生した際の、正当な理由に基づく修正・承認プロセスの記録。
- システムに改ざん防止機能があることを示す仕様書。
4. 時間外労働時間の実績管理
全従業員の時間外労働時間(休日労働含む)が、法的上限および社内基準の範囲内であることを実績データで示します。
- 月ごと・従業員ごとの時間外労働時間・休日労働時間の集計データ。
- 特別条項の要件(月100時間未満、複数月平均80時間以内、年6回まで)の遵守状況を示すレポート。
5. 賃金台帳・給与明細との整合性
記録された時間外労働時間に基づき、割増賃金が正確に計算・支払われていることを証明します。
- 賃金台帳における時間外労働時間数と割増賃金額の記載。
- 給与明細書での時間外手当の内訳(時間数、金額)の明示。
- 勤怠記録、賃金台帳、給与明細のデータの一貫性。
6. 就業規則によるルール明確化
時間外労働を命じる際の手続きや割増賃金率が、就業規則や賃金規程で適法に定められていることを示します。
- 時間外労働に関する条項を含む就業規則。
- 割増賃金の計算方法を定めた賃金規程。
- 時間外労働の事前申請・承認制度に関する規定。
7. 時間外労働削減への「努力」
月45時間以内を目指すという努力義務を果たすため、具体的な削減施策を計画・実行していることを示します。
- 「ノー残業デー」等の設定・運用記録。
- 業務効率化プロジェクトの計画書・実施報告書。
- 時間外労働の事前申請・承認制度の運用実績。
8. 健康確保措置の実施
月45時間を超える労働者等に対し、労働安全衛生法に基づく健康配慮義務を適切に履行していることを示します。
- 産業医等による面接指導の対象者リストと実施記録。
- 医師の意見書、およびそれに基づき講じた就業上の措置(労働時間短縮等)の記録。
9. 管理職への教育・研修
部下の労働時間を管理する管理職に対し、関連法規や削減手法に関する適切な教育を行っていることを示します。
- 労働時間管理に関する研修資料、参加者リスト。
- 研修後の理解度テストの結果やアンケート。
10. システムの監査証跡
勤怠・給与システムの監査証跡機能により、データの信頼性と改ざん防止が担保されていることを示します。
- 勤怠データの変更履歴(誰が、いつ、何を変更したか)のログ。
- アクセス権限の設定・管理記録。
- 改ざん防止機能に関するシステム仕様書。
11. 内部監査と是正措置
定期的な内部監査を通じて遵守状況を自己評価し、問題が発見された場合に適切に対応する仕組みがあることを示します。
- 内部監査または外部専門家による労務監査報告書。
- 監査チェックリスト(時間外労働管理に関する項目)。
- 指摘事項に対する是正措置計画と完了報告。
12. 内部通報制度の運用
従業員がサービス残業等を不利益なく報告できる実効性のある内部通報制度は、自浄作用の存在を示します。
- 内部通報制度に関する社内規程と周知資料。
- 時間外労働に関する通報があった場合の調査・対応記録の概要(プライバシーに配慮)。
結論:一貫性のある証拠による網羅的な証明
時間外労働に関するコミットメントの達成を証明するには、断片的な証拠ではなく、網羅的かつ一貫性のある証拠群が必要です。客観的な労働時間記録、36協定の遵守、適切な賃金支払い、そして時間外労働削減への積極的な取り組みと健康確保措置といった一連の証拠が、矛盾なく連携していることが重要です。
堅牢な内部統制と定期的な自己点検・改善プロセスは、これらの証拠の信頼性を担保し、企業の継続的なコンプライアンス遵守姿勢を示す上で不可欠です。これらを通じて、企業は法的リスクを低減し、従業員のウェルビーイングを向上させ、社会からの信頼を獲得することができます。
重要な注意点
ここで挙げる証拠は、遵守を示すための具体例です。しかし、これらを全て揃えなくとも十分に遵守を証明又は疎明できることもあります。それは御社の状況次第、そして監査の判定基準次第です。 詳しくは私どもHCDコンサルティングにお尋ねください。
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JASTIは、中小企業等が最低限遵守すべき事項を社会人権面を中心に網羅した監査要求事項・評価基準から成り、ILO(国際労働機関)中核的労働基準を含みます。
当事務所代表は、全国社会保険労務士会連合会「ビジネスと人権」研修(ILO駐日事務所の技術協力で構築された研修)で、合計7度ファシリテーターを務めました。
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