JASTI 8-4 の遵守を、どのような証拠をもって示せばいいか、簡単にまとめます。
JASTI 8-4 原文
工場は、人権に関するリスクを定期的にレビューし、自主監査または外部監査などを通じて改善を図らなければならない。
達成すべきコミットメント
「私たちは、人権に関するリスクを定期的にレビューし、自主監査または外部監査などを通じて改善を図ります。」
補足説明:国際規範と国内の動向
国際規範:国連「ビジネスと人権に関する指導原則(UNGPs)」は、企業に人権デューディリジェンスの実施を求めています。これは、人権リスクを特定し、防止・軽減し、対処状況を報告する継続的なプロセスです。
国内の動向:日本政府も「ビジネスと人権に関する行動計画」やガイドラインを策定し、全ての企業に人権尊重の取り組みを求めています。これは、企業の社会的責任としてだけでなく、サプライチェーン管理や企業価値向上においても重要です。
遵守を裏付ける証拠をカテゴリー別に整理
1. 人権DDの体制とプロセス
人権リスクを体系的に特定・評価するための、明確な社内体制とプロセスが確立されていることを示します。
- 人権デューディリジェンス(HRDD)のプロセスを定めた社内規程やフロー図。
- 人権担当部署や委員会の設置を示す組織図。
- リスク評価の方法論(外部データ活用、深刻度・発生可能性の評価基準等)を記した文書。
2. 定期的なリスクレビュー
人権リスク評価が一度きりでなく、定期的に見直され、変化する事業環境や社会情勢に対応していることを示します。
- 年次や3年ごとなど、定期的な人権影響評価の実施計画と報告書。
- 主要な人権課題に関する、経営層や専門家を交えた年次レビューの議事録。
- 事業内容や対象地域の変化に伴うリスク評価範囲の見直し記録。
3. リスク評価の範囲と優先順位
自社事業だけでなくサプライチェーン全体を視野に入れ、深刻度等に基づきリスクに優先順位を付けていることを示します。
- 自社、子会社、サプライヤー(一次、二次以降)を含むリスク評価の対象範囲を示した文書。
- 特定されたリスクの深刻度と発生可能性を評価したリスクマップ。
- 「高リスク」と特定された国・地域、産品、人権課題のリスト。
4. 自主監査・内部監査
自社の事業所やサプライヤーに対し、人権方針や行動規範の遵守状況を検証するための自主監査を実施していることを示します。
- サプライヤー向け自己評価質問票(SAQ)の送付・回収記録。
- 自社担当者によるサプライヤーへの訪問監査(CSR監査)の報告書。
- 内部監査部門が人権項目を監査した際のチェックリストと報告書。
5. 外部監査・第三者検証
独立した第三者機関による監査や検証を活用し、取り組みの客観性と信頼性を高めていることを示します。
- Sedex/SMETA、SA8000、FSC等の国際基準に基づく第三者監査報告書や認証書。
- 人権分野の専門家やNPOに委託した影響評価の報告書。
- 監査方法論の合理性に関する第三者機関による確認書。
6. 是正措置計画の策定・実行
監査やレビューで特定された問題点に対し、具体的な改善計画を策定し、実行していることを示します。
- 監査結果に基づく是正措置計画書(CAP)。
- サプライヤーに改善を要請した際の通信記録や「実施確認書」。
- 基準未達のサプライヤーとの取引停止など、影響力を行使した記録。
7. 改善効果のモニタリング
講じた是正措置が実際に効果を上げているか、リスクが軽減されたかを継続的に追跡・評価していることを示します。
- 改善が見られないサプライヤーに対するフォローアップ監査の記録。
- 是正措置後のKPI(重要業績評価指標)の変化を示すデータ。
- 改善状況に関する定期的な経営層への報告資料。
8. 苦情処理メカニズム
影響を受ける可能性のある全てのステークホルダーが、懸念を表明し救済を求めることができる実効的な窓口があることを示します。
- 従業員およびサプライヤー労働者向けの内部通報・相談窓口の運用記録。
- 受付件数、主な問題、解決状況に関する統計データ。
- 苦情データ分析をリスク評価に活用している記録。
9. ステークホルダーとの対話
従業員、サプライヤー、専門家、地域社会など、関連するステークホルダーと継続的に対話し、意見を取り入れていることを示します。
- 外部専門家やNPOとの協議会の議事録。
- サプライヤー向けの説明会や研修の実施記録。
- 労働組合や従業員代表との対話記録。
10. 経営層の関与とガバナンス
人権尊重の取り組みが、経営トップの強いコミットメントの下で、全社的なガバナンス体制に組み込まれていることを示します。
- 人権方針に関するCEOメッセージ。
- 人権課題を取締役会で報告・議論した議事録。
- 人権担当役員や委員会の活動報告。
11. サプライチェーンへの展開
人権尊重の取り組みをサプライヤーにも求め、サプライチェーン全体でのリスク低減を図っていることを示します。
- 人権尊重を求める条項を含むサプライヤー行動規範。
- 取引契約書における人権条項の組み込み。
- サプライヤー向けの人権研修や意識向上プログラムの実施記録。
12. 外部への透明な情報開示
人権に関する取り組み、進捗、課題について、ステークホルダーに透明性をもって報告していることを示します。
- 人権報告書、サステナビリティレポート、統合報告書。
- ウェブサイトでの人権に関する情報開示。
- 人権報告に関する第三者機関による保証報告書。
結論:継続的な改善サイクルによる人権尊重の実践
人権リスクの定期的なレビューと監査を通じた改善は、一度きりの活動ではなく、継続的なプロセスです。本報告書で提示された多角的な証拠は、企業が人権デューディリジェンスのサイクルを体系的に回し、その実効性を高めようと努力していることを示します。
重要なのは、プロセスの存在だけでなく、監査や対話を通じて得られた知見が、具体的な是正措置や予防策に繋がり、最終的に影響を受ける人々の権利保護という「インパクト」を生み出しているかを実証することです。この継続的な取り組みこそが、真に責任ある企業としての信頼を構築する鍵となります。
重要な注意点
ここで挙げる証拠は、遵守を示すための具体例です。しかし、これらを全て揃えなくとも十分に遵守を証明又は疎明できることもあります。それは御社の状況次第、そして監査の判定基準次第です。 詳しくは私どもHCDコンサルティングにお尋ねください。
JASTI監査対策のご相談は、私どもHCDコンサルティングへ
JASTIは、中小企業等が最低限遵守すべき事項を社会人権面を中心に網羅した監査要求事項・評価基準から成り、ILO(国際労働機関)中核的労働基準を含みます。
当事務所代表は、全国社会保険労務士会連合会「ビジネスと人権」研修(ILO駐日事務所の技術協力で構築された研修)で、合計7度ファシリテーターを務めました。
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