JASTI 8-7 の遵守を、どのような証拠をもって示せばいいか、簡単にまとめます。
JASTI 8-7 原文
工場は、工場所在地の法令遵守を確実に実行するため、法改正等を定期的 に確認し、社内規定等を適切に管理しなくてはならない。
達成すべきコミットメント
「私たちは、事業場所在地の法令遵守を確実に実行するため、法改正等を定期的に確認し、社内規定等を適切に管理します。」
補足説明:法令遵守と人権尊重の統合
国内法と国際規範の連携:企業のコンプライアンスは、日本の労働基準法や下請法などの国内法遵守が基本です。同時に、国連「ビジネスと人権に関する指導原則(UNGPs)」やILO中核的労働基準といった国際規範への整合性も求められます。
継続的な管理の重要性:法令や社会の期待は常に変化します。そのため、法改正を継続的に監視し、それを社内の方針や規定に迅速に反映させる、動的な管理体制が不可欠です。このプロセス全体がコミットメントの達成を示します。
遵守を裏付ける証拠をカテゴリー別に整理
1. コンプライアンス推進体制
法令遵守と人権尊重を組織的に推進するための、経営層の監督下にある専門部署や委員会の存在を示します。
- 法務・コンプライアンス・リスク管理部門の設置を示す組織図。
- コンプライアンス委員会やサステナビリティ委員会の設置と議事録。
- チーフ・コンプライアンス・オフィサー(CCO)等の責任者の任命。
2. 方針・規定の管理と改訂
法改正や社会情勢の変化に対応し、人権方針や行動規範などの社内規定を定期的に見直し、更新していることを示します。
- 改訂履歴(改訂日、主な変更点)が明記された人権方針や行動規範。
- 方針改訂に関する取締役会や委員会の議事録。
- 国際基準(現代奴隷法等)への対応を目的とした方針改訂の記録。
3. 全社的な研修・啓発
全従業員が法令や社内規定を理解し、遵守するための継続的な教育プログラムが実施されていることを示します。
- 全従業員対象の年次コンプライアンス・人権研修の実施記録(受講率含む)。
- 新任役員、管理職、高リスク部門向けの特定のテーマ別研修資料。
- コンプライアンス意識向上のための社内キャンペーン(例:「誠実であるために月間」)の記録。
4. 人権デューディリジェンス
法令違反を含む人権リスクを特定・評価し、予防・軽減するための継続的なプロセスを運用していることを示します。
- HRDDの実施記録(リスク評価、サプライヤー調査等)。
- 新規事業やM&AにおけるESGデューディリジェンスのチェックリスト。
- AI倫理など、新たな技術に関するリスク評価の実施記録。
5. サプライチェーン管理
法令遵守と人権尊重の要請をサプライヤーにも展開し、サプライチェーン全体でのリスク管理を行っていることを示します。
- RBA等の国際基準に準拠したサプライヤー行動規範。
- 取引契約書への人権・コンプライアンス条項の挿入。
- サプライヤー監査や自己評価質問票(SAQ)の実施記録。
6. 実効性のある内部通報制度
法令違反や人権侵害を早期に発見・是正するため、従業員や取引先が安全に利用できる相談・通報窓口を設けていることを示します。
- 匿名・多言語で24時間対応可能な内部通報窓口(ホットライン)の設置・周知記録。
- 報復禁止方針の明文化と周知。
- 通報の受付件数、調査、是正措置に関する統計データ。
7. 外部の苦情処理メカニズム
サプライチェーンの労働者など、外部のステークホルダーが利用できる、独立性の高い救済メカニズムへのアクセスを提供します。
- 外部ステークホルダー向けの問い合わせ・相談窓口の設置。
- JaCER(ビジネスと人権対話救済推進機構)などの業界横断的なプラットフォームへの参加。
8. 違反事例への対応と是正
過去の法令違反や人権侵害の指摘に対し、真摯に対応し、再発防止のための体制強化に繋げたことを示します。
- 労働基準監督署等からの是正勧告に対する改善報告書。
- 訴訟や社会的な批判を受けた問題に関する、原因分析と再発防止策の公表。
- 過去の事例を教訓とした、コンプライアンス体制の強化履歴。
9. 特定法令への遵守体制
下請法や安全保障輸出管理など、事業に特有の重要法令について、専門的な管理体制を構築していることを示します。
- 下請法遵守マニュアルや研修記録。
- 安全保障輸出管理に関する社内規程と輸出管理部門の活動記録。
- 個人情報保護法に対応したプライバシーポリシーと管理体制。
10. 内部監査とモニタリング
コンプライアンス遵守状況を定期的に自己評価し、継続的な改善を図るための内部監査プロセスが機能していることを示します。
- コンプライアンス・リスクに関する内部監査計画と報告書。
- 監査チェックリスト(人権・労働関連項を含む)。
- 監査結果に基づく改善勧告と、そのフォローアップ記録。
11. 第三者評価と認証
外部の独立した評価機関から、コンプライアンスや人権に関する取り組みが客観的に評価されていることを示します。
- Dow Jones Sustainability Index、FTSE4Good等のESG評価インデックスへの選定状況。
- 東洋経済「CSR企業ランキング」等の外部評価。
- FSC®、SA8000、ISO等の関連認証の取得状況。
12. 透明性のある情報開示
コンプライアンスや人権に関する取り組み、進捗、課題について、ステークホルダーに透明性をもって報告していることを示します。
- 人権報告書、サステナビリティレポート、統合報告書。
- ウェブサイトでのコンプライアンス体制や方針の開示。
- 英国現代奴隷法等に基づくステートメントの公表。
結論:法令遵守は継続的な改善プロセス
法令遵守と人権尊重は、静的な目標ではなく、動的なプロセスです。法改正を定期的に確認し、社内規定を適切に管理するというコミットメントは、確立されたガバナンス体制の下、方針、研修、デューディリジェンス、監査、そしてステークホルダーとの対話といった一連の活動を通じて達成されます。
本報告書で提示された多角的な証拠は、企業がこの継続的な改善サイクルを実効的に回していることを証明するためのものです。この真摯な取り組みこそが、法的リスクを管理し、社会からの信頼を獲得するための基盤となります。
重要な注意点
ここで挙げる証拠は、遵守を示すための具体例です。しかし、これらを全て揃えなくとも十分に遵守を証明又は疎明できることもあります。それは御社の状況次第、そして監査の判定基準次第です。 詳しくは私どもHCDコンサルティングにお尋ねください。
JASTI監査対策のご相談は、私どもHCDコンサルティングへ
JASTIは、中小企業等が最低限遵守すべき事項を社会人権面を中心に網羅した監査要求事項・評価基準から成り、ILO(国際労働機関)中核的労働基準を含みます。
当事務所代表は、全国社会保険労務士会連合会「ビジネスと人権」研修(ILO駐日事務所の技術協力で構築された研修)で、合計7度ファシリテーターを務めました。
JASTI監査に向けたコンサルティングは、私どもHCDコンサルティングにお任せください。