JASTI 9-1 の遵守を、どのような証拠をもって示せばいいか、簡単にまとめます。
JASTI 9-1 原文
工場は、外国人労働者との契約の不履行について、違約金を予定する契約 をしてはならない。
達成すべきコミットメント
「私たちは、外国人労働者との契約の不履行について、違約金を予定する契約をしません。」
補足説明:法的・国際的枠組み
日本の国内法:労働基準法第16条は、労働契約の不履行について違約金を定め、または損害賠償額を予定する契約を禁止しています。これは労働者の「退職の自由」を保障するための重要な規定であり、違反には罰則が伴います。
国際基準と人権:ILOの強制労働に関する条約やRBA行動規範は、違約金や不当な手数料が労働者を職場に縛り付ける「債務による束縛」につながることを問題視しています。特に、言語や文化の壁に直面しがちな外国人労働者の脆弱性を悪用しないことは、企業の人権尊重責任の根幹です。
遵守を裏付ける証拠をカテゴリー別に整理
1. 方針による明確な禁止
違約金や賠償額の予定を禁止することが、企業の公式な方針として文書化され、周知されていることを示します。
- 強制労働の禁止、違約金や不当な控除の禁止を明記した人権方針または企業行動規範。
- 労働基準法第16条の遵守を明記した人事・労務関連の社内規程。
2. 雇用契約書の適法性
外国人労働者と締結する雇用契約書に、違法な違約金や賠償予定に関する条項が含まれていないことを証明します。
- 外国人労働者向けの標準雇用契約書テンプレート。
- 実際に締結された雇用契約書のサンプル(匿名化済)。
- 退職・解雇に関する条件が法に則って明確に記載されていること。
3. 多言語での契約内容伝達
労働者が自身の権利と義務を正確に理解できるよう、契約内容を母国語等の理解可能な言語で提供していることを示します。
- 労働者の母国語に翻訳された雇用契約書や労働条件通知書。
- 厚労省提供の多言語モデル労働条件通知書の活用記録。
- 契約内容を理解したことを示す、労働者本人による署名済みの確認書。
4. 募集・採用プロセスの健全性
労働者が来日や就職に際して不当な費用を負担させられ、債務による束縛に陥ることを防ぐ措置を講じていることを示します。
- 人材紹介会社に対し、労働者から手数料を徴収しないことを契約で義務付けている記録。
- RBA等の「労働者負担費用ゼロ」原則に準拠した採用方針。
5. 研修費用の適正な取り扱い
研修費用の返還に関する取り決めが、実質的な違約金として機能し、労働者の退職の自由を不当に制約していないことを示します。
- 研修費用返還規定が存在しない、または業務命令による研修費用は会社負担であることを明記した規程。
- 費用の貸付を行う場合、雇用契約とは別の金銭消費貸借契約書と、その合理的な返済計画書。
6. 管理職・担当者への研修
外国人労働者の採用や管理に関わる従業員が、違約金禁止の法的・倫理的重要性を理解していることを示します。
- 人事、法務、管理職向けの研修資料(労働基準法第16条、RBA行動規範など)。
- 研修の実施記録(参加者リスト、理解度テスト)。
7. 労働者への権利啓発
外国人労働者自身が、違法な違約金から保護される権利を有していることを認識できるよう支援していることを示します。
- 入社時オリエンテーションでの権利説明の記録。
- 労働者の権利について母国語で解説したパンフレットやポスターの配布・掲示。
- 相談窓口の利用方法に関する案内。
8. 内部監査とモニタリング
雇用契約や人事慣行が違約金禁止の原則に準拠しているかを、定期的に自己点検・評価する仕組みがあることを示します。
- 外国人労働者の雇用契約を対象とした定期的な内部監査の計画書・報告書。
- 監査チェックリスト(労働基準法第16条の遵守項目を含む)。
- 発見された問題点に対する是正措置の記録。
9. 苦情処理メカニズム
労働者が不当な違約金や費用の請求に関する懸念を、報復の恐れなく安全に報告できる窓口が機能していることを示します。
- 外国人労働者が利用しやすい相談・通報窓口(多言語対応、匿名可)の運用記録。
- JP-MIRAI等の外部プラットフォームへの参加。
10. 違反発見時の是正プロセス
万が一、禁止されている違約金条項や不当な費用負担が発見された場合に、迅速かつ公正に是正するプロセスがあることを示します。
- 苦情申し立てに対する調査・対応記録。
- 不当に徴収された違約金や手数料を労働者に返金した記録。
- 問題が発見された契約書を修正した記録。
11. サプライヤーへの働きかけ
サプライチェーン(特に人材紹介会社)においても、同様の原則が守られるよう働きかけていることを示します。
- サプライヤー行動規範における違約金・手数料禁止の明記。
- サプライヤー監査における契約内容の確認項目と結果。
12. 外部への透明性
違約金禁止の方針や取り組みについて、社外のステークホルダーに対し透明性をもって報告していることを示します。
- 人権報告書やサステナビリティレポートでの言及。
- RBA VAP監査など、第三者監査報告書における良好な評価。
結論:尊重とコンプライアンスの文化の持続
外国人労働者との間で違法な違約金契約をしないというコミットメントの達成は、単に契約書に禁止条項を設けないという形式的な遵守に留まりません。それは、募集段階から入社後のフォローアップ、そして万が一問題が発生した際の救済プロセスまで、一貫した人権尊重の姿勢を示すことです。
本報告書で提示された多角的な証拠を体系的に整備・運用することで、企業は法的リスクを回避し、特に脆弱な立場にある労働者を保護する責任を果たし、全てのステークホルダーからの信頼を確固たるものにすることができます。
重要な注意点
ここで挙げる証拠は、遵守を示すための具体例です。しかし、これらを全て揃えなくとも十分に遵守を証明又は疎明できることもあります。それは御社の状況次第、そして監査の判定基準次第です。 詳しくは私どもHCDコンサルティングにお尋ねください。
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JASTIは、中小企業等が最低限遵守すべき事項を社会人権面を中心に網羅した監査要求事項・評価基準から成り、ILO(国際労働機関)中核的労働基準を含みます。
当事務所代表は、全国社会保険労務士会連合会「ビジネスと人権」研修(ILO駐日事務所の技術協力で構築された研修)で、合計7度ファシリテーターを務めました。
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