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JASTI 9-6 遵守の証拠

JASTI 9-6 の遵守を、どのような証拠をもって示せばいいか、簡単にまとめます。

JASTI 9-6 原文

工場は、臨時従業員、非フルタイム労働者、外国人労働者いずれの場合で あっても、雇用契約に関して、工場所在地の法令で認められた内容の記載 とし、不当な差別が無いようにしなくてはならない。

達成すべきコミットメント (JASTI 9.6)

「私たちは、臨時労働者等、非フルタイム労働者、外国人労働者いずれの場合であっても、雇用契約に関して、事業場所在地の法令で認められた内容の記載とし、不当な差別が無いようにします。」

補足説明:法的根拠と国際基準

日本の国内法:労働基準法、パートタイム・有期雇用労働法、労働者派遣法などが、差別禁止と均等待遇の原則を定めています。

国際人権基準:国連「ビジネスと人権に関する指導原則(UNGPs)」は企業に人権尊重責任を、ILO「中核的労働基準」は雇用における差別撤廃を求めています。

このコミットメントは、法的義務の遵守に加え、国際的な人権基準に基づき、すべての労働者が公正に扱われる職場環境を構築することを目的とします。

遵守を裏付ける証拠をカテゴリー別に整理

1. 方針とガバナンス

非差別を経営の中核に据え、全社的な方針として明確に示します。

遵守を示す証拠 (例):
  • 取締役会承認済みの公開された人権方針(非正規、外国人、派遣労働者を含む全労働者を対象と明記)。
  • 非差別に関するサプライヤー行動規範。
  • 経営層による定期的な方針レビューの議事録。

2. 労働条件の明示

すべての労働者に対し、法的要件を満たした労働条件を文書で明示します。

遵守を示す証拠 (例):
  • 全労働者(非正規含む)に交付された労働条件通知書の控え。
  • 2024年4月改正法に対応した内容(就業場所・業務の変更範囲など)が記載されていること。
  • 外国人労働者には母国語併記版を提供していること。

3. 非正規:同一労働同一賃金

非正規雇用を理由とする不合理な待遇差をなくし、合理的な理由を説明できるようにします。

遵守を示す証拠 (例):
  • 正規・非正規の待遇比較と合理性分析をまとめた社内文書。
  • 待遇差について労働者から説明を求められた際の対応記録。
  • 通勤手当、福利厚生施設など、原則同等にすべき待遇が確保されている規程。

4. 非正規:職務評価と賃金体系

客観的な基準に基づき職務を評価し、透明性の高い賃金制度を構築します。

遵守を示す証拠 (例):
  • 全職位を対象とした職務記述書(ジョブディスクリプション)。
  • 職務等級制度や評価制度に関する規程。
  • 職務等級に連動した、公開された賃金テーブル。
  • 賃金制度改定時の労使協議の議事録。

5. 外国人:法令遵守と在留資格

入管法等の関連法規を遵守し、適法な雇用を徹底します。

遵守を示す証拠 (例):
  • 採用時の在留資格確認プロセスの記録。
  • 業務内容が在留資格の活動範囲内であることを確認した記録。
  • ハローワークへの外国人雇用状況の届出書の控え。
  • 不法就労防止に関する社内周知の記録。

6. 外国人:言語的アクセスと支援

言語や文化の壁を取り除き、実質的な機会均等を保証します。

遵守を示す証拠 (例):
  • 多言語化された雇用契約書、就業規則、安全衛生資料。
  • 日本語研修の提供記録や通訳サポート体制の証明。
  • 在留資格更新手続きの補助や専門家との提携実績。
  • 生活支援(住居、銀行口座開設等)のプログラム案内。

7. 派遣:サプライヤー管理

派遣会社を適正に選定・管理し、サプライチェーン全体で人権を尊重します。

遵守を示す証拠 (例):
  • 派遣元が派遣法遵守を確約する条項を含む労働者派遣基本契約書。
  • 派遣会社選定時のデューデリジェンス記録(許可の確認、待遇確認書の受領など)。
  • 派遣会社を含むサプライヤー向けの行動規範。

8. 派遣:日常業務の遵守

派遣先として禁止されている行為を回避し、偽装請負等を防ぎます。

遵守を示す証拠 (例):
  • 事前面接や個人特定行為を禁止する社内マニュアル。
  • 業務内容を正確に定義した労働者派遣個別契約書の写し。
  • 指揮命令系統が適正であることを示す組織図や業務フロー。

9. 人権デューデリジェンス

差別などの人権リスクを定期的に特定・評価し、是正措置を講じます。

遵守を示す証拠 (例):
  • 定期的な人権リスク評価の報告書(社内または第三者機関)。
  • JASTI監査など、サプライチェーンにおける人権監査の報告書。
  • 特定されたリスクに対する是正・軽減措置の計画と進捗記録。
  • サステナビリティレポート等での情報開示。

10. 研修と能力開発

全従業員、特に管理職に対し、非差別と多様性に関する研修を実施します。

遵守を示す証拠 (例):
  • 全従業員・役員を対象とした人権研修の実施記録(教材、参加者リスト等)。
  • 「同一労働同一賃金」「アンコンシャス・バイアス」など具体的なテーマを扱った研修資料。
  • 採用・評価に関わる管理職向けの専門研修の実施記録。

11. 苦情処理メカニズム

すべての労働者がアクセス可能で、実効性のある苦情処理制度を運用します。

遵守を示す証拠 (例):
  • 内部通報制度の運用規程(秘密保持、報復禁止の明記)。
  • 多言語対応や匿名通報など、アクセシビリティ確保の証明。
  • 制度の周知活動に関する記録(ポスター、社内報など)。
  • (個人情報を秘匿した)年次の苦情受付・対応状況の集計データ。

12. 公開情報と外部評価

取り組みを透明性をもって情報開示し、第三者による客観的な評価を受けます。

遵守を示す証拠 (例):
  • サステナビリティレポート等での人権に関する方針・実績の開示箇所。
  • 「くるみん」「えるぼし」などの認定取得証明。
  • 外部機関によるESG評価の結果レポート。

持続的なコミットメントと公正な職場文化の醸成

雇用形態や国籍に関わらず、すべての労働者に対する不当な差別のない雇用契約を保証するというコミットメントの達成は、単一の文書で証明されるものではありません。それは、法的遵守を基盤とし、具体的な実践を積み重ね、全社的なガバナンスと文化として浸透させる、継続的なプロセスの成果です。

本インフォグラフィックで示された証拠の体系(エコシステム)を構築・維持し、ステークホルダーに対して一貫した物語として提示することが、リスク管理を超え、多様な人材が公正に扱われ、その能力を最大限に発揮できる職場を構築するという企業の持続的な価値創造への取り組みを証明します。

重要な注意点
ここで挙げる証拠は、遵守を示すための具体例です。しかし、これらを全て揃えなくとも十分に遵守を証明又は疎明できることもあります。それは御社の状況次第、そして監査の判定基準次第です。 詳しくは私どもHCDコンサルティングにお尋ねください。

JASTI監査対策のご相談は、私どもHCDコンサルティングへ

JASTIは、中小企業等が最低限遵守すべき事項を社会人権面を中心に網羅した監査要求事項・評価基準から成り、ILO(国際労働機関)中核的労働基準を含みます。

当事務所代表は、全国社会保険労務士会連合会「ビジネスと人権」研修(ILO駐日事務所の技術協力で構築された研修で、合計7度ファシリテーターを務めました。

JASTI監査に向けたコンサルティングは、私どもHCDコンサルティングにお任せください。