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危険物の保管量に関する法令上のルール

「自社の倉庫に置いている消毒用アルコール、これって法的に大丈夫?」 「工場の燃料やオイルの管理方法、改めて確認しておきたい…」

企業の安全衛生管理やコンプライアンスを担当する人事・総務部門の皆様にとって、危険物の管理は避けて通れない重要なテーマです。しかし、専門用語が多く、法律のルールも複雑で分かりにくいと感じる方も多いのではないでしょうか。

今回は、そんな危険物管理の基本となる消防法の「指定数量」という考え方と、保管量によって変わる具体的なルールについて、人事・労務担当者が押さえておきたいポイントを分かりやすく解説します。

危険物保管のキホン、「指定数量」とは?

まず、最も重要なキーワードが指定数量です。

これは、消防法で定められた「これ以上の量を保管・取り扱いする場合は、専門的な規制の対象としますよ」という基準量のことです。ガソリンなら200リットル、灯油なら1,000リットルというように、物質の危険性に応じて細かく定められています。

企業が保管している危険物の量が、この「指定数量」を基準にどのレベルにあるかで、求められる対応が大きく変わります。

保管量で変わる3つの規制レベル

保管している危険物の量によって、規制のレベルは大きく3段階に分かれます。自社がどのレベルに該当するのか、まずは確認してみましょう。

保管量レベル求められる対応関連する法律など
指定数量以上【高】行政からの『許可』が必要
国が定める厳しい技術基準を満たした専門の施設(危険物貯蔵所など)での保管・管理が義務付けられます。
消防法
指定数量の1/5以上、指定数量未満【中】管轄消防署への『届出』が必要
少量危険物として扱われ、各市町村が定める条例の基準(標識の設置、消火器の準備など)を遵守する必要があります。
市町村条例
指定数量の1/5未満【小】届出は原則不要
ただし、火気の近くで保管しないなど、市町村条例で定められた基本的な安全管理ルールは遵守する必要があります。
市町村条例

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多くの企業様にとって、特に注意が必要なのは「少量危険物」(指定数量の1/5以上)のケースです。「指定数量未満だから大丈夫」と思っていても、届出や一定の管理体制が求められるため、見落とさないようにしましょう。

これって危険物?身近な危険物と指定数量の一覧

ここでは、オフィスや工場、店舗などでよく見かける「第4類 引火性液体」を中心に、具体的な指定数量をご紹介します。自社に該当するものがないか、チェックしてみてください。

▼第4類 引火性液体 の主な指定数量

品名指定数量主な物品の例
第一石油類(非水溶性)200リットルガソリン、ベンゼン、トルエン
アルコール類400リットルメタノール、エタノール(濃度60%以上の消毒用アルコールなど)
第二石油類(非水溶性)1,000リットル灯油軽油
第三石油類(非水溶性)2,000リットル重油、クレオソート油
動植物油類10,000リットルやし油、あまに油など

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※危険性が高い物質ほど、指定数量は小さく(厳しく)設定されています。

【意外な落とし穴】複数の危険物を保管する場合の「倍数計算」

「ガソリンと灯油、それぞれは指定数量未満だからセーフ」とは限りません。 複数の危険物を同じ場所で保管する場合、倍数計算という方法で合計のリスクを判断する必要があります。

【計算方法】 それぞれの危険物の「貯蔵量 ÷ 指定数量」を算出し、その合計値で判断します。

【チェック例】 事業所でガソリン100リットルと灯油500リットルを保管している場合…

  • ガソリンの倍数: 100 L ÷ 200 L(指定数量) = 0.5
  • 灯油の倍数: 500 L ÷ 1,000 L(指定数量) = 0.5
  • 合計倍数: 0.5 + 0.5 = 1.0

このケースでは、合計倍数が「1.0」となるため、全体として指定数量以上と見なされます。その結果、消防法に基づく行政の許可や、専門の貯蔵施設が必要となるのです。担当者として必ず押さえておきたいチェックポイントです。

まとめ

今回は、企業のコンプライアンス・安全管理上、非常に重要な危険物の保管ルールについて解説しました。最後に、担当者として覚えておきたいポイントをまとめます。

  • POINT 1:危険物管理の基準は消防法の「指定数量」 保管量がこの基準を超えるかどうかで、求められる対応が大きく変わる。
  • POINT 2:保管量は3つのレベルで考える 「指定数量以上」「指定数量の1/5以上(少量危険物)」「指定数量の1/5未満」の3段階で自社の状況を確認する。
  • POINT 3:少量でも油断は禁物 指定数量未満でも、「少量危険物」に該当する場合は消防署への届出と条例に基づいた管理が必要。
  • POINT 4:複数保管は「倍数計算」でチェック 個々の量は少なくても、合計倍数が「1」以上になると消防法の厳しい規制対象となる。

危険物の管理は、従業員の安全と企業の信頼を守るための根幹業務です。実際の運用にあたっては、細かな規定が市町村条例で定められているため、必ず管轄の消防署に相談し、適切な指示を受けるようにしてください。