化学物質などを取り扱う事業場では、万が一の事故に従業員が巻き込まれるリスクが常に存在します。そのリスクを最小限に抑え、従業員の安全を守るために不可欠な設備が「緊急用洗眼器」です。

「うちは法律で義務付けられている事業場ではないから大丈夫」
「とりあえず設置はしているから問題ない」
もしそうお考えでしたら、一度立ち止まってご確認ください。その「大丈夫」は、本当に万全な状態でしょうか?本記事では、人事・労務担当者が知っておくべき洗眼器の設置基準について、法的な背景と実務上のポイントを解説します。
日本の法律と「事実上の国際基準」
まず、日本国内の法律として、労働安全衛生法および特定化学物質障害予防規則(特化則)において、特定の化学物質を取り扱う事業者に洗眼・洗身設備の設置が義務付けられています。
特定化学物質障害予防規則 第三十八条(洗浄設備)
事業者は、第一類物質又は第二類物質を製造し、又は取り扱う作業に労働者を従事させるときは、洗眼、洗身又はうがいの設備、更衣設備及び洗たくのための設備を設けなければならない。
しかし、注目すべきは、この法律では「設置しなさい」と定められているものの、「どのような性能のものを、どこに設置すべきか」といった具体的な数値基準までは示されていない点です。
そこで、サプライチェーン全体で人権や労働安全衛生への配慮が求められる現代において、多くの企業が準拠しているのが、米国規格協会(ANSI)が定める「ANSI Z358.1」という基準です。これは事実上のグローバルスタンダードとなっており、安全配慮義務を適切に果たす上での具体的な指針となります。
【チェックリスト】あなたの会社は大丈夫?ANSI Z358.1が定める3つのポイント
万が一の際に「設置していたのに使えなかった」という事態を避けるため、以下の3つのポイントが満たされているか、ぜひ現場を確認してみてください。
1.設置場所:「10秒以内にたどり着けるか」
- 危険な作業場所から歩いて10秒以内に到達できること(目安:約15m)
- 洗眼器までの経路上に、ドアや段差などの障害物がないこと
- 設置場所は誰でもすぐに認識できるよう、見やすい標識を掲示すること
2.性能:「“ただの水”では意味がない」
- バルブを開くと1秒以内に水が流れ出すこと
- 毎分1.5リットル以上の流量で、最低15分間、継続して洗い流せること
- 水温は16℃~38℃の「ぬるま湯」であること(冷たすぎたり熱すぎたりする水は、かえって健康被害を悪化させるリスクがあります)
3.維持管理:「いざという時に確実に作動するか」
- いつでも正常に作動することを確認するため、週に1回は通水テストを行うこと
まとめ:従業員を守ることが、会社を守ることに繋がる
化学物質の安全データシート(SDS)に「目に入った場合は多量の水で洗い流す」といった旨の記載があれば、それは洗眼器の設置が必要であるというサインです。
グローバルな取引が増え、サプライヤーに対しても高いレベルの労働安全衛生基準が求められる今、「法律に書いていないから」という姿勢は企業リスクとなり得ます。従業員の安全を確保するための投資は、企業の社会的責任(CSR)を果たすだけでなく、労働災害の防止、ひいては企業のブランド価値や信頼性を守ることに直結します。
自社の職場は本当に安全か、この機会にぜひ一度、現場の担当者も交えてご確認いただくことをお勧めします。