JASTI 1-1-2 1-1-3 の遵守を、どのような証拠をもって示せばいいか、簡単にまとめます。
JASTI 1-1-2 1-1-3 原文 (JASTI 1-1-2、1-1-3)
JASTI 1-1-2「工場は、従業員に対し、肉体的な暴力、例えば叩く、押す、などの行為を行ってはならない。」
JASTI 1-1-3「工場は、従業員に対し、以下の行為を行ってはならない。言葉による暴力(怒鳴る、脅迫する、けなす、侮辱するなど)、パワーハラスメント、セクシャルハラスメント、その他いじめや嫌がらせ」
達成すべきコミットメント
「私たちは、従業員に対し、肉体的な暴力(叩く、押す)や、言葉による暴力(怒鳴る、脅迫する、けなす、侮辱するなど)、パワーハラスメント、セクシャルハラスメント、その他いじめや嫌がらせを行いません。」
補足説明:国際基準の重要性
職場における暴力やハラスメントは人権侵害であり、個人の健康、尊厳、幸福に深刻な影響を与えるだけでなく、企業の生産性や評判にも悪影響を及ぼす可能性があります。国内法は最低基準を提供するものですが、ILO第190号条約や国連ビジネスと人権に関する指導原則(UNGPs)といった国際基準は、人権を「尊重する」ためにより高い基準を設定しています。これらの高い基準を満たすことは、法的リスク回避だけでなく、企業の評判向上、従業員との良好な関係、生産性向上にも繋がります。
コミットメント達成の意義
このコミットメントは、すべての人々の尊厳と権利を尊重し、倫理的かつ持続可能な事業運営を行うという企業の基本的な責任を表明するものです。ハラスメントの防止は、労働者の人権を保護し、安全で健全な労働条件を確保する上で不可欠です。これにより、企業は法的リスクやレピュテーションリスクを回避し、従業員のエンゲージメントと生産性を向上させ、組織全体の信頼性を高めることができます。
基盤となる柱:国際人権基準
ILO暴力・ハラスメント条約 (第190号)
暴力とハラスメントのない労働の世界に対する権利を認めた初の国際条約。
- 労働者と協議の上、職場方針を採択・実施。
- OSH管理に暴力・ハラスメントと関連する心理社会的リスクを考慮。
- 危険有害性の特定、リスク評価、予防・管理措置(労働者の参加を得て)。
- 情報提供と研修の実施。
- 被害者への救済措置と支援へのアクセス確保。
国連ビジネスと人権に関する指導原則 (UNGPs)
事業活動に関連する人権への負の影響を防止・対処するための世界的な基準。
- 人権を尊重する方針コミットメント。
- 人権への影響評価(職場ハラスメントを含む)。
- 評価結果の統合と影響防止・軽減措置。
- 実績の追跡と伝達。
- 被害者に対する救済の提供・実現プロセス。
暴力・ハラスメント禁止 遵守を裏付ける証拠
1. 方針の枠組み
明確に表明され、包括的なハラスメント防止方針の確立と周知。
- ハラスメント防止方針文書(ゼロ・トレランス表明、定義、範囲、責任、報告手順、報復禁止)。
- 方針の見直し・更新記録、経営層による支持表明。
- 全従業員への周知記録(イントラネット、メール、ハンドブック)。
- 従業員による方針受領・理解の署名済み確認書。
2. リスク評価と管理
職場におけるハラスメントリスクの特定、評価、および管理措置の実施。
- ハラスメントに特化したリスク評価報告書(心理社会的ハザード含む)。
- 評価方法論の文書化(調査、面談、データ分析等)。
- 労働者参加によるリスク特定・評価の記録。
- 特定リスクへの予防・管理措置の行動計画と実施・監視記録。
3. 研修と意識向上
全従業員に対する包括的なハラスメント防止研修の実施と効果測定。
- 全従業員、監督者、管理職向けの研修資料(方針、定義、影響、予防策、報告手順等)。
- 研修スケジュール、出席記録(新規採用者研修、定期再研修)。
- 研修後の理解度評価(クイズ、フィードバック調査)。
- 双方向的・調整された研修内容、アクセシビリティ確保の記録。
4. 報告・苦情処理
アクセス可能で安全な報告チャネルと、公正な苦情処理メカニズムの確立。
- 複数の報告チャネル(上司、人事、ホットライン等、匿名報告含む)。
- 報告手順の明確化と周知。
- 厳格な報復禁止方針とその執行記録。
- 報告システムへの従業員の認識と信頼を示す記録(調査、利用データ)。
5. 調査手続き
公正、公平、かつ迅速な調査プロトコルの確立と適切な実施。
- 書面による調査手順(タイムライン、聞き取り、証拠収集、機密保持)。
- 訓練を受け独立した調査員の確保(研修記録、利益相反防止策)。
- 匿名化された調査報告書またはケースサマリー。
- 調査結果と是正措置の根拠を説明する記録。
6. 被害者支援と救済
被害者への適切な支援提供と、加害者に対する適切な措置。
- 被害者支援の方針(医療、心理、法的支援、職場調整等)。
- 提供された支援の匿名化記録。
- 加害者に対する懲戒方針/マトリックスと適用記録(匿名化)。
- 調査結果に基づく体系的問題への対処と改善記録。
7. モニタリングと改善
ハラスメント防止策の有効性を定期的に監視・評価し、継続的に改善。
- 従業員調査結果(職場文化、ハラスメント認識、信頼度)。
- ハラスメント苦情データの分析記録(傾向、高リスク領域)。
- 内部/外部監査報告書。
- モニタリング結果に基づく方針・手順の見直しと更新記録。
8. 労働者との協議
方針策定やリスク評価等において、労働者及びその代表と意義のある協議を実施。
- 労働組合や従業員代表との協議会議事録。
- 協議の議題、出席者リスト、議論概要。
- 労働協約における関連条項(該当する場合)。
- 労働者のフィードバックがどのように考慮され、取り入れられたかの記録。
9. 堅牢な証拠ポートフォリオ
ハラスメント防止へのコミットメントと実践を裏付ける、包括的で整理された文書群。
- 方針書、リスク評価書、研修資料、出席/受領確認記録。
- 調査プロトコル、匿名化された調査報告書、懲戒記録。
- 被害者支援情報、モニタリング報告書(調査、監査、インシデント分析)。
- 協議会議事録、コミュニケーション記録。
- 記録は、同時性、正確性、完全性を備え、データインテグリティ、機密保持、プライバシー規制を遵守して管理される。
継続的な取り組みと検証
ハラスメントのない職場を実現することは、一度達成すれば終わりではなく、継続的な旅です。国際基準、国内法、インシデントからの教訓、そして労働者からのフィードバックに基づいて、システムを継続的に見直し、適応させ、改善していくことが重要です。企業は、これらの証拠を体系的に収集・維持し、ハラスメント防止体制の有効性を定期的に評価することで、そのコミットメントを具体的に示すことができます。単一の証拠が十分であることは稀であり、むしろ、相互に関連し合うポリシー、実務、そして検証メカニズムから成る一貫したシステムを通じて、コミットメントの達成を立証する必要があります。
重要な注意点
ここで挙げた証拠は、JASTI要求事項が実際に遵守されていることを示すための具体例です。しかし、これらを全て揃えればそれで完ぺきということはなく、すべて揃わなくても十分にJASTI要求事項の遵守を証明又は疎明できることもあります。 それは御社の状況次第、そして監査の判定基準次第です。
詳しくは私どもHCDコンサルティングにお尋ねください。