JASTI 1-3-1 の遵守を、どのような証拠をもって示せばいいか、簡単にまとめます。
JASTI 1-3-1 原文
法令に定められた税金の控除、社会保険料、その他の控除(労使協定があ る場合)は給与の支払いの度に明細書によって従業員に提示され、正確で 正当な理由を明示しなくてはならない。
達成すべきコミットメント
「私たちは、法令に定められた税金の控除、社会保険料、その他の控除(労使協定がある場合)を、給与の支払いの度に明細書によって労働者等に提示し、正確で正当な理由を明示します。」
補足説明:法的根拠と国際基準
国内法:所得税法、労働基準法(第24条 賃金支払いの5原則)、健康保険法、厚生年金保険法等が、給与明細書の交付義務、記載事項、控除の法的根拠を定めています。特に、法令に基づく控除(税金、社会保険料)と労使協定に基づく控除が明確に区別されます。
国際基準:ILO第95号条約(賃金の保護に関する条約)は、賃金からの控除が国内法規等で定められた条件・限度でのみ許可されること、労働者への事前通知、控除の制限などを規定しています。これらは公正な賃金慣行の国際的ベンチマークです。
コミットメント達成の意義
このコミットメントの達成は、法的コンプライアンスの基礎であると同時に、従業員の信頼を醸成し、公正な報酬と情報に対する労働者の権利を擁護する上で不可欠です。企業の社会的責任(CSR)および人権デューディリジェンスに関する広範な期待とも合致し、誤解、紛争、潜在的な搾取を防ぐのに役立ちます。
給与明細の透明性:遵守を裏付ける証拠カテゴリー
1. 給与明細書からの証拠
給与明細書自体が、控除の提示、正確性、正当性の主要な証拠となります。
- 包括的な給与明細書テンプレート(従業員情報、期間、勤怠、支給、控除項目別、合計額を明記)。
- 控除計算根拠の表示(明細書への注釈、または計算方法を説明する内部文書/イントラネットへのリンク)。
- 社会保険料:標準報酬月額、保険料率、公的機関の表への参照。
- 所得税:源泉徴収税額表、扶養親族等の概念への参照。
- 住民税:前年所得に基づく地方自治体決定の旨の説明。
- 労使協定に基づく控除:協定条項と計算方法への参照。
- 給与明細の定期的交付記録(給与支払サイクルごと)。
- 電子交付の場合:従業員の同意書、電子交付システムの文書、アクセス方法の通知記録。
2. 補足文書・内部プロセス
給与明細の背後にある文書やプロセスが、コミットメントの完全な達成を裏付けます。
- 法定控除以外の控除を規定する有効な労使協定の写し(控除項目、計算方法、目的、適用範囲、適法な締結の証拠を明記)。
- 個別的な控除に関する従業員の自由意思に基づく同意書(必要な場合)。
- 社内給与規程・手順書(計算プロセス、チェック体制、更新手順、明細書作成・配布ガイドライン、記録保存方針)。
- 給与計算記録(基礎データ入力、総支給額計算、各控除額導出、差引支給額計算の監査可能な追跡記録)。
- 従業員向けコミュニケーション資料(給与明細の読み方、控除の説明、FAQ等を記載したハンドブックやイントラネット情報)。
- 苦情/問い合わせ記録および解決プロセス(文書化されたプロセス、問い合わせログ、連絡担当者/部署)。
- 給与担当者および従業員への関連研修記録。
3. 正確性・正当性の検証
給与計算の正確性と控除の正当性を継続的に検証・レビューする体制を示します。
- 給与計算プロセス、控除計算、法令遵守をレビューした内部/外部監査報告書の関連セクション。
- 誤り訂正システム(特定、計算、伝達、調整の文書化された手順)。
- 定期的なレビュープロセス(社会保険料率・税額表等の更新、労使協定の有効性確認、給与計算システム設定確認の記録)。
4. 人権尊重の実証
給与慣行が国際的に認められた人権の尊重と結びついていることを示します。
- 控除の公正性、合法性、必要性の確保(ILO第95号条約第8条との整合性)。
- 公正な労働慣行としての透明性(情報への権利、ILO第95号条約第10条との整合性)。
- 情報へのアクセス可能性と救済メカニズム(国連ビジネスと人権に関する指導原則との関連)。
- 企業の人権方針、サステナビリティレポート等での公正な賃金・透明な給与慣行への言及。
- 給与慣行の人権デューディリジェンスプロセスへの統合の証拠。
5. 継続的改善とコンプライアンス
一度きりの作業ではなく、継続的な警戒、レビュー、適応を必要とすることを示します。
- 給与計算プロセスに関する定期的な内部監査(および外部監査)の実施記録。
- 法改正モニタリングシステムの導入と運用記録。
- 労使協定の定期的レビューと必要に応じた更新・改定の記録。
- 従業員からのフィードバック収集と、それに基づくコミュニケーション改善の記録。
- 給与担当者向け定期研修の実施記録。
- 給与の透明性のCSR報告や人権影響評価への統合。
6. 主要な証拠ポイント要約
コミットメント達成を実証するための最も重要な証拠をまとめたものです。
- 明確で包括的、定期発行される給与明細書(物理的または同意に基づく電子的形式)。
- 控除計算に関するアクセス可能な説明。
- 全ての控除に対する有効かつ文書化された法的根拠(法令、労使協定/個別同意)。
- 正確性を期すための堅牢な内部プロセスと統制。
- 効果的なコミュニケーションおよび苦情処理チャネル。
継続的な取り組みと検証の重要性
これらの証拠カテゴリーは、企業が「給与明細の透明性」に関するコミットメントを実質的に達成していることを多角的に示すものです。
重要なのは、方針として掲げるだけでなく、それが企業活動のあらゆる側面に浸透し、研修、システム、監査を通じて継続的に実施・検証され、必要に応じて是正される「生きた原則」であることを示すことです。
国際人権基準の動向、法改正、リスクの変化に対応し、労働者やステークホルダーとの対話を通じて、常に人権デューディリジェンスのプロセスを見直し、改善していく必要があります。
給与透明性をより広範なCSR/人権フレームワークの中に位置づけることは、それを純粋な管理機能から、企業の評判とステークホルダーとの関係に貢献する戦略的なものへと昇華させます。
重要な注意点
ここで挙げた証拠は、JASTI要求事項が実際に遵守されていることを示すための具体例です。しかし、これらを全て揃えればそれで完ぺきということはなく、すべて揃わなくても十分にJASTI要求事項の遵守を証明又は疎明できることもあります。 それは御社の状況次第、そして監査の判定基準次第です。
詳しくは私どもHCDコンサルティングにお尋ねください。