JASTI 1-3-2 の遵守を、どのような証拠をもって示せばいいか、簡単にまとめます。
JASTI 1-3-2 原文
工場は、将来払うべき前項の控除を目的とした金銭を、従業員から強制的に事前に徴収してはならない。
達成すべきコミットメント
「私たちは、将来払うべき前項の控除を目的とした金銭を、労働者等から強制的に事前に徴収しません。」
補足説明:法的根拠と国際基準
国際人権基準:ILO強制労働に関する条約(第29号、第105号)は強制労働を禁止しており、「事前の強制徴収」が債務による束縛や労働者の自由の制限につながる場合、これに該当し得ます。ILO賃金保護条約(第95号)は、特に雇用確保に関連する賃金からの控除を厳しく制限・禁止しています。ILO公正な募集原則は、募集手数料を労働者に負担させないことを明確にしています。国連ビジネスと人権に関する指導原則(UNGPs)は、企業に人権尊重責任とデューデリジェンスを求めています。
日本の国内法:労働基準法は、強制労働の禁止(第5条)、賠償予定の禁止(第16条)、前借金相殺の禁止(第17条)、強制貯金の禁止(第18条)、賃金の全額払いの原則(第24条)を定めており、これら全てが「事前の強制徴収」の禁止と関連します。職業安定法は、求職者からの手数料徴収を原則禁止しています。
コミットメント達成の意義
このコミットメントの達成は、国際的に認められた人権(強制労働からの自由、債務による束縛、公正な賃金慣行の権利)を擁護し、日本の労働法の基本原則を遵守するために不可欠です。単に法的コンプライアンスの問題であるだけでなく、倫理的な事業行動と労働者の基本的権利の尊重へのコミットメントの証であり、従業員、投資家、顧客、その他のステークホルダーとの信頼を構築します。
将来控除すべき金銭の事前徴収禁止:遵守を裏付ける証拠カテゴリー
1. 強固な方針の枠組み
企業の方針や規定が、金銭の事前強制徴収を明確に禁止していることを示します。
- 人権方針、行動規範、サプライヤー行動規範に、強制労働、債務による束縛、労働者負担の採用費用を禁止する明確な記載。
- 雇用契約書テンプレートや就業規則に、いかなる前払いや保証金も要求しない旨の明確な規定。
- 管理者や会社代表者による事前の強制的な金銭徴収を禁止する就業規則。
- これら方針のトップマネジメントによる承認と、全従業員・関連ビジネスパートナーへの周知の証拠。
2. 倫理的な採用・オンボーディング
採用プロセスにおいて、労働者に不当な費用負担や金銭要求がないことを保証します。
- 人材紹介会社との契約書に、会社が全費用を負担し、紹介会社が候補者から手数料を徴収しない旨を明記。
- 会社が支払った人材紹介会社への請求書。
- 採用関連費用(面接旅費、健康診断費、ビザ手続き支援費等)を会社が負担する方針文書。
- 求人広告、内定通知書、オンボーディング資料に、いかなる事前徴収も要求しない旨を明記。
- 採用担当者・マネージャー向けの倫理的採用慣行(労働者手数料負担なし方針含む)に関する研修資料・出席記録。
3. 財務の透明性と管理体制
労働者からの不適切な金銭徴収を防ぐための、透明な財務管理と内部統制を示します。
- 労働者からの「将来の控除のための事前徴収」を示す総勘定元帳勘定科目や会計仕訳が存在しないこと。
- 監査済み財務諸表に、そのような徴収に由来する負債や制限付現金が示されていないこと。
- 給与計算プロセス・明細において、法的に認められた控除のみが処理・記載されていること。
- 不正または不適切な資金徴収を防止するための文書化された内部統制(職務分掌含む)。
4. 労働者の意識向上とエンパワーメント
労働者が自身の権利を理解し、不当な要求に対して声を上げられるようにします。
- 賃金に関する権利、法的控除、強制的な事前徴収に対する会社の方針、懸念を提起する方法に関する全労働者向け研修の文書(多言語対応)。
- 従業員ハンドブック、イントラネット、掲示板等での、企業の「強制的な事前徴収なし」方針の明確な表示と正当な控除プロセスの概説。
- 研修資料や情報が、労働者の母国語または理解できる言語で提供されている証拠。
5. 効果的な苦情処理・内部告発制度
労働者が報復を恐れずに懸念を報告できる、実効性のあるチャネルの存在を示します。
- 複数の、機密性があり、容易にアクセス可能な苦情申立チャネル(ホットライン、専用メール、オンブズパーソン等)の存在。
- 苦情の受付、調査(公平かつ迅速)、是正に関する明確な書面による手順。
- 内部告発者に対する報復禁止のコミットメント。
- これらのチャネルを宣伝するコミュニケーション資料。
- 金銭問題に関連する苦情およびその解決の(匿名化された)ログ。
6. 検証・監視システム
方針と手順が実際に遵守されていることを、独立した検証を通じて確認します。
- 採用慣行(労働者への手数料なし)、給与控除、強制的な事前徴収の不在の検証を具体的に含む労働監査、社会コンプライアンス監査、または財務監査報告書。
- 監査チェックリストまたは作業範囲にこのリスクが明確に含まれていること。
- 匿名の従業員アンケートまたは機密の労働者インタビュー(強制的な事前徴収の圧力や事例を検出する質問を含む)の結果。
持続的なコンプライアンスとベストプラクティスのための積極的措置
このコミットメントの遵守を実証するには、強固な方針、透明かつ倫理的な運用手順、包括的な労働者へのコミュニケーションと研修、効果的な苦情処理メカニズム、そして監査と監視を通じた勤勉な検証を含む、多層的なアプローチが必要です。
企業は、方針および手順の定期的な見直しと更新、第三者労働供給業者(人材紹介会社等)の選定および監視における厳格なデューデリジェンス、労働者との明確かつ継続的なコミュニケーション、そしてリーダーシップによる支持と尊重の文化の育成を通じて、持続的なコンプライアンスを確保する必要があります。
強制的な事前徴収のリスクを企業の人権デューデリジェンスプロセスに正式に含め、特に脆弱な労働者に焦点を当て、業界のベストプラクティスをベンチマークし、報告における透明性を高めることが推奨されます。
重要な注意点
ここで挙げた証拠は、JASTI要求事項が実際に遵守されていることを示すための具体例です。しかし、これらを全て揃えればそれで完ぺきということはなく、すべて揃わなくても十分にJASTI要求事項の遵守を証明又は疎明できることもあります。 それは御社の状況次第、そして監査の判定基準次第です。
詳しくは私どもHCDコンサルティングにお尋ねください。