JASTI 3-2 の遵守を、どのような証拠をもって示せばいいか、簡単にまとめます。
JASTI 3-2 原文
工場は、工場所在地の法令に従い、障害のある従業員に対し、障害の特性を踏まえた無理のない業務を実施させ、処遇や業務遂行に関して差別的な扱いをしてはならない。
達成すべきコミットメント
「私たちは、事業場所在地の法令に従い、障害のある労働者等に対し、障害の特性を踏まえた無理のない業務を担当させ、処遇や業務遂行に関して差別的な扱いをしません。」
補足説明:法的根拠と国際基準
日本の国内法:障害者の雇用の促進等に関する法律(障害者雇用促進法)、労働基準法、男女雇用機会均等法など。
国際人権基準:障害者の権利に関する条約(CRPD、特に第27条 労働及び雇用、第2条 定義、第5条 平等及び無差別、第9条 アクセシビリティ)、国際労働機関(ILO)条約(C159 職業リハビリテーション及び雇用、C111 差別)など。
企業は、国内法を遵守するだけでなく、国際人権基準の精神も尊重し、障害のある労働者がその能力を最大限に発揮し、尊厳をもって働くことができる包摂的な職場環境を構築・維持することが求められます。
コミットメント達成の意義
このコミットメントの達成は、単なる法令遵守に留まらず、障害のある労働者の尊厳と能力を尊重し、多様性と包摂性を重視する現代社会において企業の社会的評価を高めます。これは、優秀な人材の獲得・維持、企業全体の生産性向上、そして持続可能な企業価値の向上に貢献します。
遵守を裏付ける証拠をカテゴリー別に整理
1. 方針とガバナンス
障害者への非差別、合理的配慮提供、苦情処理に関する明確な方針を文書化し、周知します。
- 障害者差別禁止を明記した機会均等方針(CRPD、ILO条約、国内法準拠)。
- 合理的配慮提供方針(要求・評価・実施プロセスを含む)。
- 障害関連苦情に対応するアクセス可能で機密性の高い苦情処理規定。
2. 募集と採用
障害の有無に関わらず公正な募集・選考プロセスを実施し、必要に応じて合理的配慮を提供します。
- 障害の有無を問わない募集広告例、面接官向け非差別トレーニング資料。
- 採用試験・面接時の合理的配慮提供事例(匿名ケーススタディ)。
- 障害のある応募者の採用率データ(匿名・集計)。
3. 職務割り当てと配慮
障害の特性を踏まえた無理のない業務を割り当て、個別の合理的配慮を具体的に実施します。
- 合理的配慮要求フォーム、個別ニーズ評価記録(匿名)。
- 配慮内容決定に関する従業員との協議記録(匿名抜粋)。
- 提供された配慮の種類・日付のログ、支援技術購入請求書、調整済みワークステーションの写真。
4. 研修、意識向上、文化
管理職・人事担当者を含む全従業員に対し、障害者インクルージョンと非差別に関する研修を実施し、支援的な文化を醸成します。
- 障害者インクルージョン、非差別、合理的配慮に関する研修資料と受講記録。
- 社内イントラネット記事、啓発ポスター、ダイバーシティ&インクルージョンイベント記録。
- 経営層による公的および社内での声明記録。
5. 業績評価とキャリア開発
障害のある労働者に対し、公正な評価基準とキャリア開発の機会を保証します。
- 客観的評価基準を定めた評価フォーム、合理的配慮を考慮した評価ガイドライン。
- 障害のある従業員の昇進率・研修参加率データ(匿名・集計)。
- 賃金・福利厚生が障害の有無で差別されないことを示す給与データ分析。
6. 職場アクセシビリティ
物理的環境および情報通信技術(ICT)のアクセシビリティを確保し、継続的な改善を行います。
- アクセシビリティ監査報告書(内部/外部)、改修記録(スロープ、アクセス可能なトイレ等)。
- アクセシブルなICT調達方針、スクリーンリーダー対応ウェブサイト、字幕付き動画の例。
- 国内の建築基準法やアクセシビリティ基準への準拠を示す証明書。
7. 苦情処理と救済
障害のある従業員が差別や不公正な処遇について安心して報告できる実効的なメカニズムを確立します。
- 苦情処理方針の文書と周知記録(匿名通報制度の有無を含む)。
- 障害関連苦情の記録(性質、調査、解決策、所要期間を示した匿名化ログ)。
- 苦情処理担当者向けの研修記録。
- 従業員からのフィードバック(調査、フォーカスグループ)に基づく改善記録。
8. 国内法遵守と報告
事業所所在地における障害者雇用関連法規を遵守し、法定報告義務を果たします。
- 各事業所の障害者雇用関連法に特化した法的登録簿またはコンプライアンス・マトリックス。
- 法定雇用率遵守に関する行政機関への提出書類の写し、障害者雇用状況報告書。
- 国内の法的基準に照らした内部アクセシビリティ監査報告書。
- 地域の障害者団体との協議記録(推奨される場合)。
9. 包括的検証と継続的改善
方針、実践、記録、データ、労働者の声を統合的に検証し、継続的な改善サイクルを確立します。
- 関連する全方針のマスターリストと版管理履歴。
- 合理的配慮ケースファイル(匿名)、苦情ログ(匿名)。
- 内部監査報告書(障害者関連項目の評価、是正措置、フォローアップ)。
- サステナビリティ報告書や人権報告書における障害者インクルージョンへの取り組み開示。
- 見直しサイクル(年次方針見直し、インシデント後の見直し)の記録。
持続的なコミットメントと人権尊重文化の醸成
障害のある労働者への合理的配慮と非差別的処遇に関するコミットメントを実証するためには、明確な方針、実践的な実施記録、堅牢な検証・監視メカニズム、そして支援的な職場文化の存在からなる多角的かつ重層的な証拠が不可欠です。これらの内部システムを継続的に見直し、改善することで、持続的なコンプライアンスと「具体的証拠」の即時的な利用可能性を確保することが推奨されます。
企業は、本報告書で提示された枠組みに基づき、定期的な自己監査を実施し、コンプライアンスを継続的に維持・改善していくことで、障害のある労働者の権利保護に貢献し、社会からの信頼を得ることが求められます。
重要な注意点
ここで挙げる証拠は、遵守を示すための具体例です。しかし、これらを全て揃えなくとも十分に遵守を証明又は疎明できることもあります。それは御社の状況次第、そして監査の判定基準次第です。 詳しくは私どもHCDコンサルティングにお尋ねください。
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JASTIは、中小企業等が最低限遵守すべき事項を社会人権面を中心に網羅した監査要求事項・評価基準から成り、ILO(国際労働機関)中核的労働基準を含みます。
当事務所代表は、全国社会保険労務士会連合会「ビジネスと人権」研修(ILO駐日事務所の技術協力で構築された研修)で、合計7度ファシリテーターを務めました。
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