JASTI 3-3 の遵守を、どのような証拠をもって示せばいいか、簡単にまとめます。
JASTI 3-3 原文
工場は、従業員が自主的に労働組合を組織すること(従業員代表を選出す ることを含む)を保障しなければならない。また、従業員に対し組合活動 への参加等を理由に解雇もしくは不利益な取り扱いを行ってはならない。
達成すべきコミットメント
「私たちは、労働者等が自主的に労働組合を組織すること(労働者等代表を選出することを含む)を保障します。また、労働者等に対し組合活動への参加等を理由に解雇もしくは不利益な取り扱いを行いません。」
補足説明:法的根拠と国際基準
日本の国内法:日本国憲法(第28条 団結権、団体交渉権、団体行動権)、労働組合法(不当労働行為の禁止)。
国際人権基準:国際労働機関(ILO)条約(第87号条約 結社の自由及び団結権の保護、第98号条約 団結権及び団体交渉権)、国連ビジネスと人権に関する指導原則(UNGPs)。
企業は、国内法を遵守するだけでなく、国際人権基準の精神も尊重し、労働者が自主的に団結し、公正に交渉できる環境を構築・維持することが求められます。
コミットメント達成の意義
このコミットメントの達成は、単なる法的義務の遵守に留まらず、公正な労使関係を促進し、従業員の信頼とエンゲージメントを醸成します。これは、企業の社会的評価を高め、ますますESGを重視する環境において、持続可能な企業価値の向上に貢献します。
遵守を裏付ける証拠をカテゴリー別に整理
1. 企業方針と人権枠組み
結社の自由と団体交渉権の尊重を明確に表明した企業方針を文書化し、周知します。
- ILO第87号条約、第98号条約、日本国憲法第28条、労働組合法へのコミットメントを明記した方針(従業員ハンドブック、ウェブサイト、サステナビリティ報告書など)。
- より広範な人権デュー・ディリジェンス・プロセスへの統合を示す証拠。
2. 組合結成・加入プロセス
労働者が使用者の干渉なしに労働組合を結成し、加入できることを示します。
- 労働者が事前の許可なく組合を結成・加入できる明確な手続(または制限の不在)。
- 会社が受領した労働組合結成通知の記録(もしあれば、中立的な処理を示す)。
- 反組合キャンペーンや組織活動の監視がないことの積極的な証拠。
- 「黄犬契約」の条件がないことの証明。
3. 労働者代表選挙プロセス
労働組合代表者および非組合事業場における労働者代表(36協定代表者など)の公正で透明な選挙プロセスを保証します。
- 労働者代表選挙のための書面による手続(労働者主導、公正な投票プロセス)。
- 選挙の公示、候補者リスト、議事録、結果発表の記録。
- 厚生労働省ガイダンスの遵守記録。
4. 労働協約と交渉
労働組合が存在する場合、労働協約の存在と、誠実な団体交渉が行われていることを示します。
- 現行の労働協約の写しと、全対象従業員へのアクセス可能性の証拠。
- 経営側からの誠実な交渉への参加を示す団体交渉議事録または要約。
- 労働協約によってカバーされる労働力の割合に関するデータ。
5. 組合の独立性
組合運営、財政、活動における使用者の不干渉を証明し、真の独立性を確保します。
- 組合の規約、会議議事録(組合の自律性を示す)。
- 会社と組合間の金融取引記録(不適切な援助がないことを示す)。
- 施設供与に関する正式な合意書(依存関係を生じさせない)。
- 組合が使用者からの検閲なしに組合員と自由にコミュニケーションできることの証拠。
6. 報復・不利益取扱いの禁止
組合員資格や活動を理由とする解雇、賃金差別、ハラスメント、その他いかなる不利益な取扱いも行わないことを保証します。
- 報復禁止方針(労働組合法第7条に定義されるすべての不当労働行為からの保護を明記)。
- 解雇事案に関する人事記録(組合活動を理由としない正当な理由の明記)。
- 人事考課、賃金決定、異動に関する客観的基準と記録。
- 組合員と非組合員間の処遇に関する統計的有意差の不在を示すデータ(匿名化)。
- 労働委員会による不当労働行為に関する裁定がないこと、または命令遵守の記録。
7. 苦情処理メカニズム
労働者が報復を恐れることなく、結社の自由の侵害や反組合的差別を報告できる、アクセス可能で効果的な苦情処理メカニズムを確立します。
- 苦情処理方針(アクセス可能性、機密性、報復禁止を明記)。
- 苦情の匿名化されたログ(性質、調査プロセス、解決策、救済措置)。
- 苦情処理メカニズムを利用した者に対する報復がないことを示す証拠。
8. 支援メカニズムとプロセス
結社の自由と団体交渉に関する理解を深め、建設的な労使関係を促進するための支援メカニズムとプロセスを導入します。
- 結社の自由と団体交渉に関する研修プログラムの資料と参加記録(管理職、人事担当者向け)。
- 労働者代表/労働組合との定期的な対話及び協議の議事録(労使協議会など)。
- 第三者による社会監査(SA8000など)の報告書と認証(該当する場合)。
- サプライチェーンにおけるデュー・ディリジェンスの証拠(サプライヤー行動規範など)。
9. 検証と継続的改善
結社の自由と団体交渉に関する慣行を強化するための継続的な監視と改善プロセスを確立します。
- 労働組合慣行に特化した定期的な内部監査報告書。
- 労働組合の独立性を示す証拠(組合主導のイニシアチブ、独立した意思決定、財政管理)。
- サステナビリティ報告書または専用の人権報告書における透明性のある情報開示。
- 従業員調査や機密インタビューの結果(労働者が自由に組織し、活動できているか)。
持続的なコミットメントと人権尊重文化の醸成
結社の自由及び団体交渉権に関するコミットメントを実証するためには、堅牢な方針、公正かつ独立したプロセス、誠実な団体交渉の記録、一貫した非差別的な人事慣行、効果的な苦情処理メカニズム、包括的な研修プログラム、そして透明性のある報告と第三者検証からなる多角的かつ重層的な証拠が不可欠です。これらの内部システムを継続的に見直し、改善することで、持続的なコンプライアンスと「具体的証拠」の即時的な利用可能性を確保することが推奨されます。
企業は、本報告書で提示された枠組みに基づき、定期的な自己監査を実施し、コンプライアンスを継続的に維持・改善していくことで、労働者の権利保護に貢献し、社会からの信頼を得ることが求められます。
重要な注意点
ここで挙げる証拠は、遵守を示すための具体例です。しかし、これらを全て揃えなくとも十分に遵守を証明又は疎明できることもあります。それは御社の状況次第、そして監査の判定基準次第です。 詳しくは私どもHCDコンサルティングにお尋ねください。
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JASTIは、中小企業等が最低限遵守すべき事項を社会人権面を中心に網羅した監査要求事項・評価基準から成り、ILO(国際労働機関)中核的労働基準を含みます。
当事務所代表は、全国社会保険労務士会連合会「ビジネスと人権」研修(ILO駐日事務所の技術協力で構築された研修)で、合計7度ファシリテーターを務めました。
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