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JASTI 3-4 遵守の証拠

JASTI 3-4 の遵守を、どのような証拠をもって示せばいいか、簡単にまとめます。

JASTI 3-4 原文

工場は、従業員が人権侵害、その他苦情を申し出ることが可能な苦情処理 メカニズム(意見箱・ホットラインの設置、労基署への通報窓口を示すポ スターの掲示等)を構築し、維持しなくてはならない。苦情処理メカニズ ムは、通報者の保護(経営層を含む社内での共有時に匿名とするか否か、 また、共有範囲について本人の意思に委ねることを含む)を行った上で確 実に経営層に伝達され、内容によって、申し出た従業員に差別・不利益・ 報復が生じるものであってはならない。また、母国語で第三者窓口に相談 できる環境を整備しなくてはならない。

達成すべきコミットメント

「私たちは、労働者等が人権侵害、その他苦情を申し出ることが可能な苦情処理メカニズム(意見箱・ホットラインの設置、労基署への通報窓口を示すポスターの掲示等)を構築し、維持します。苦情処理メカニズムは、通報者の保護(経営層を含む社内での共有時に匿名とするか否か、また、共有範囲について本人の意思に委ねることを含む)を行った上で確実に経営層に伝達され、内容によって、申し出た労働者等に差別・不利益・報復が生じ内容にします。また、母国語で第三者窓口に相談できる環境を整備します。」

補足説明:法的根拠と国際基準

日本の国内法:公益通報者保護法、労働基準法(第104条 監督機関に対する申告)、労働施策総合推進法(パワーハラスメント防止措置)。

国際人権基準:国連「ビジネスと人権に関する指導原則(UNGPs)」(指導原則29 実効的な救済メカニズムへのアクセス、指導原則31 実効性基準)。

企業は、国内法を遵守するだけでなく、国際人権基準が求める「実効性」の観点からも、真に機能し、信頼される苦情処理メカニズムを構築・維持することが求められます。

コミットメント達成の意義

効果的な苦情処理メカニズムは、人権侵害の早期発見と是正、潜在的なリスクの特定、そして企業とステークホルダー間の信頼醸成に寄与します。これは、法的・評判リスクの軽減、事業運営上のリスクの低減、そして持続可能な企業価値の向上に不可欠です。

遵守を裏付ける証拠をカテゴリー別に整理

1. 苦情処理チャネルの設置

意見箱やホットラインなどの苦情処理チャネルが構築され、継続的に維持・機能していることを示します。

遵守を示す証拠 (例):
  • 物理的/デジタル意見箱の設置写真、利用方法/回収頻度/審査プロセスを詳述した内部方針。
  • ホットラインの公式方針文書(対象者、利用言語、報告方法)、外部委託の場合は契約書。
  • ホットライン利用に関する匿名化・集計データ(報告件数、解決率、平均解決時間)。
  • 意見箱/ホットラインを通じて処理・解決された苦情の匿名化ケーススタディ。

2. 労基署窓口の周知

労働基準監督署への通報窓口を示すポスター等の掲示を通じて、労働者の法的権利を周知します。

遵守を示す証拠 (例):
  • 労基署の連絡先と労働者の申告権を明記したポスターが目立つ場所に掲示されている写真。
  • ポスターの文面が最新かつ正確であることを示す記録。
  • 社内イントラネットや従業員ポータルにも同様の情報が掲載されているスクリーンショット。
  • 従業員ハンドブックや行動規範における労基署チャネルへの言及。

3. 通報者保護(匿名性)

通報者が報復を恐れることなく匿名で通報できる明確な権利とプロセスを保証します。

遵守を示す証拠 (例):
  • 内部通報方針に匿名通報を認める明確な権利と処理プロセスを明記。
  • 受付フォーム(ウェブベースの場合)で通報者が匿名性に関する希望を指定できる機能。
  • 苦情処理に関与する全担当者(受付、調査、経営層)向けの、匿名性尊重に関する研修資料。
  • これらの匿名性プロトコルへの準拠を評価する内部監査結果。

4. 通報者保護(情報共有の意思尊重)

通報者が、自身の身元や情報の共有範囲について「本人の意思に委ねる」形でコントロールできるプロセスを確立します。

遵守を示す証拠 (例):
  • 内部通報方針に、本人の明確なインフォームドコンセントなしに身元をさらに開示しない旨を明記。
  • 同意を得るための文書化された手順(どのような情報が、誰と、どのような目的で共有されるかを特定)。
  • 受付フォーム等で、通報者が情報共有に関する自身の希望を特定できるようにする項目。
  • 消費者庁のモデル規程(「予め明示的に同意しない限り」共有しない)への準拠を示す文書。

5. 経営層への確実な伝達

受け付けられた苦情が、種類や重大度に応じて確実に経営層に伝達されるプロセスを保証します。

遵守を示す証拠 (例):
  • 苦情のエスカレーション経路を明確に概説した文書化された内部手順(エスカレーション基準、担当経営職位、タイムライン)。
  • 経営層または取締役会に提示された報告書または苦情データの要約(匿名化されたもの)。
  • 経営委員会または取締役会会議の議事録(苦情報告に関する議論を反映)。
  • エスカレーション手順の一貫した適用を検証する内部監査報告書。

6. 報復禁止措置

申し出た労働者等に差別、不利益、報復が生じないことを保証するための措置を講じます。

遵守を示す証拠 (例):
  • 明確で周知された報復禁止方針(あらゆる形態の報復をカバー)。
  • 報復禁止方針とその遵守における責任について、管理職向けの研修記録。
  • 報復の申し立てを監視し、対処するための手順。
  • 報復を行ったと認定された者に対する懲戒措置の記録。
  • 通報者に対する事後フォローアップ(報復を認識していないか確認)の記録。

7. 多言語第三者窓口

母国語で第三者窓口に相談できる環境を整備し、言語の壁や報告への抵抗を軽減します。

遵守を示す証拠 (例):
  • 多言語相談サービスを提供する第三者機関との契約書または合意書。
  • これらのサービスへのアクセス方法を説明する、多言語で従業員に提供される情報資料。
  • 多言語サービスの利用に関する匿名化データ(例:言語別の相談件数)。
  • 利用されている第三者機関の例(NGO、専門コンサルタント会社、JaCER参加など)。

8. 運用と結果の透明性

苦情処理メカニズムの運用状況、提起された苦情の種類、解決率、救済の有効性に関する透明性ある情報を開示します。

遵守を示す証拠 (例):
  • ホットラインの利用統計(報告件数、種類、解決率、解決までの期間)。
  • 年次サステナビリティ報告書等での苦情処理メカニズムに関する詳細な報告。
  • 解決された苦情の匿名化された事例やケーススタディ。
  • 従業員満足度調査やフィードバックを通じて得られた、メカニズムの有効性に関するデータ。

9. 検証と継続的改善

苦情処理メカニズムが実効的に機能し、継続的に改善されることを保証するための包括的な検証プロセスを確立します。

遵守を示す証拠 (例):
  • 苦情処理メカニズムに特化した定期的な内部監査報告書(UNGPs実効性基準への準拠を含む)。
  • 外部機関によるメカニズムの評価や検証の記録(該当する場合)。
  • 運用経験、法的変更、ステークホルダーからのフィードバックに基づいてメカニズムを見直し、更新するプロセスを文書化。
  • 苦情処理プロセスに関する管理職および従業員への継続的な研修記録。

持続的なコミットメントと人権尊重文化の醸成

企業の苦情処理メカニズムに関するコミットメントを実証するためには、明確な方針とチャネルの設置だけでなく、通報者保護、経営層への確実な伝達、報復防止、多言語対応といった各要素が「維持され」、「実効的に」機能していることを示す具体的かつ詳細な証拠が不可欠です。これらの内部システムを継続的に見直し、改善することで、持続的なコンプライアンスと「具体的証拠」の即時的な利用可能性を確保することが推奨されます。

企業は、本報告書で提示された枠組みに基づき、定期的な自己監査を実施し、コンプライアンスを継続的に維持・改善していくことで、労働者の権利保護に貢献し、社会からの信頼を得ることが求められます。

重要な注意点
ここで挙げる証拠は、遵守を示すための具体例です。しかし、これらを全て揃えなくとも十分に遵守を証明又は疎明できることもあります。それは御社の状況次第、そして監査の判定基準次第です。 詳しくは私どもHCDコンサルティングにお尋ねください。

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JASTIは、中小企業等が最低限遵守すべき事項を社会人権面を中心に網羅した監査要求事項・評価基準から成り、ILO(国際労働機関)中核的労働基準を含みます。

当事務所代表は、全国社会保険労務士会連合会「ビジネスと人権」研修(ILO駐日事務所の技術協力で構築された研修で、合計7度ファシリテーターを務めました。

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