JASTI 3-6 の遵守を、どのような証拠をもって示せばいいか、簡単にまとめます。
JASTI 3-6 原文
工場は、女性に対し、工場所在地の法令に従い、職種の制限を設けなくて はならない。
達成すべきコミットメント
「私たちは、女性に対し、事業場所在地の法令に従い、職種の制限を設けます。」
補足説明:法的根拠と原則
日本の国内法:労働基準法(母性保護措置、危険有害業務の制限)、男女雇用機会均等法(性別差別禁止、合理的理由に基づく例外)、職業安定法、日本国憲法(法の下の平等)。
国際人権基準:女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約(CEDAW)、国際労働機関(ILO)条約(C111 差別に関する条約)。
企業は、国内法を遵守するだけでなく、国際的な人権基準に照らし、女性に対する職種制限が真に法的に許容される範囲(母性保護や極めて限定的な例外)に厳密に限られることを示す必要があります。
コミットメント達成の意義
女性に対する職種制限に関するコミットメントを適切に実施することは、単なる法令遵守に留まらず、女性の健康と安全を保護し、雇用における実質的な平等を促進します。これにより、企業のレピュテーション向上、人材の多様性確保、そして持続可能な企業価値の構築に貢献します。
遵守を裏付ける証拠をカテゴリー別に整理
1. 機会均等・無差別方針
すべてのジェンダーに対する無差別と機会均等を明確に述べた文書化された方針を策定し、周知します。
- 性別に関するあらゆる差別を禁止し、平等を肯定する会社方針(均等法、労基法に言及)。
- 「女性に対する職種の制限」が、法的に義務付けられた保護または狭く定義された例外に限定されることを詳述した内部ガイドライン。
2. 性別中立な職務記述書
職務記述書が性別中立的であり、法的に義務付けられた制限や真の職務適格要件(BFOQ)が証明されている場合を除き、性別を特定しないようにします。
- 本質的な機能とスキルに焦点を当て、ジェンダーコード化された言葉遣いや間接差別につながる可能性のある要件を避けた職務記述書。
- 男女雇用機会均等法の例外として認められる「合理的理由」に基づく職務(例:俳優、特定の警備員)について、BFOQの基準を満たすことを証明する文書化された正当化。
3. 募集・採用・昇進プロセス
標準化された質問、客観的な評価基準、多様な面接パネルを通じて、透明かつ非差別的なプロセスを保証します。
- 標準化された面接質問、客観的な評価基準、多様な面接パネル。
- 応募者プール、最終候補者リスト、採用者、昇進者の性別分類記録(格差を監視)。
- 募集、採用、昇進の各段階における公正性と透明性を示す文書。
4. 危険有害業務のリスク評価
労働基準法および女性労働基準規則に基づき、女性に制限される特定の業務について文書化されたリスク評価を実施します。
- 労働基準法第64条の3および女性労働基準規則に基づき、特定の業務が女性(特に妊産婦)に制限される理由を示すリスク評価文書。
- 女性労働基準規則にリストされた業務の特定と、重量制限(例:成人女性の断続作業30kg、継続作業20kg)の適用に関する文書。
5. 妊産婦への配慮記録
労働基準法に基づく妊産婦および産後の母親に対する法的に義務付けられた配慮の実施を記録します。
- 妊産婦からの軽易業務、休業、または時間外/深夜業の免除要請、およびそれらへの対応に関する文書。
- 産前産後休業、軽易業務転換、時間外・休日・深夜業の制限など、特定の母性保護規定の遵守を示す記録。
6. 人事・管理職向け研修
人事担当者および管理職に対し、無差別法および合法的な保護措置に関する定期的かつ義務的な研修を実施します。
- 男女雇用機会均等法、労働基準法上の保護措置、企業の無差別方針、および制限を合法的かつ狭義に適用する方法を網羅した研修資料。
- 研修への従業員の参加記録(出席者名簿、修了記録)。
- 無意識の偏見に対処するための研修内容。
7. 苦情処理メカニズム
従業員が差別やハラスメントに関する懸念や苦情を申し立てるための明確でアクセスしやすいメカニズムを確立し、その処理状況を記録します。
- 明確でアクセスしやすく、秘密厳守の苦情処理プロセスに関する文書。
- 差別やハラスメントに関する苦情がどのように調査され、解決されたかの記録。
- 苦情処理のプロセスと結果の透明性を示す報告書(匿名化された統計やケーススタディを含む)。
8. データ分析とモニタリング
従業員構成、賃金格差、採用・昇進率に関する男女別データを定期的に収集・分析し、潜在的な不均衡や差別を特定します。
- 職種、役職、部署別の男女別従業員構成データ(不均衡の特定)。
- 同等の職務における男女別賃金格差分析、および是正措置の行動計画。
- 応募、採用、昇進率に関する男女別比較データ(人材パイプラインにおける偏見の特定)。
- 女子差別撤廃委員会の勧告(賃金格差、管理職割合の低さなど)に照らしたデータ分析。
9. 継続的コンプライアンスと改善
法的遵守を超え、国際的な最善慣行と女子差別撤廃委員会の勧告に積極的に整合し、継続的な改善を行います。
- 職務分類、募集・昇進決定、職種制限の適用に関する定期的な内部監査報告書。
- 男女間賃金格差の是正、指導的地位における女性の増加、間接差別への包括的対処に向けた取り組み。
- 国際的な最善慣行(ILO第111号条約など)の自主的な採用。
- 法的変更やステークホルダーからのフィードバックに基づいた方針・慣行の定期的な見直し記録。
持続的なコミットメントと人権尊重文化の醸成
女性に対する職種制限に関するコミットメントを実証するためには、厳格な法的遵守、強固な方針、透明かつ非差別的な運用慣行、勤勉な記録管理、継続的な研修、監視と継続的改善への積極的なアプローチが不可欠です。これらの内部システムを継続的に見直し、改善することで、持続的なコンプライアンスと「具体的証拠」の即時的な利用可能性を確保することが推奨されます。
企業は、本報告書で提示された枠組みに基づき、定期的な自己監査を実施し、コンプライアンスを継続的に維持・改善していくことで、女性の健康と安全を保護し、雇用における実質的な平等を促進し、社会からの信頼を得ることが求められます。
重要な注意点
ここで挙げる証拠は、遵守を示すための具体例です。しかし、これらを全て揃えなくとも十分に遵守を証明又は疎明できることもあります。それは御社の状況次第、そして監査の判定基準次第です。 詳しくは私どもHCDコンサルティングにお尋ねください。
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JASTIは、中小企業等が最低限遵守すべき事項を社会人権面を中心に網羅した監査要求事項・評価基準から成り、ILO(国際労働機関)中核的労働基準を含みます。
当事務所代表は、全国社会保険労務士会連合会「ビジネスと人権」研修(ILO駐日事務所の技術協力で構築された研修)で、合計7度ファシリテーターを務めました。
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