JASTI 4-2 の遵守を、どのような証拠をもって示せばいいか、簡単にまとめます。
JASTI 4-2 原文
⼯場は、労働組合による団体交渉、または従業員により使⽤者の介⼊なく⺠主的に選出された従業員代表による交渉を要求された場合、これを拒否してはならない。また、団体交渉の要求にも誠意を持って対応しなければならない。また、団体交渉の結果については議事録を作成しなくてはならない。
達成すべきコミットメント
「私たちは、労働組合による団体交渉、または労働者等により使用者の介入なく民主的に選出された労働者等代表による交渉を要求された場合、これを拒否しません。また、団体交渉の要求にも誠意を持って対応します。また、団体交渉の結果については議事録を作成します。」
補足説明:法的根拠と誠実交渉義務
法的根拠:日本国憲法第28条は団体交渉権を保障し、労働組合法第7条第2号は正当な理由なき団体交渉の拒否を不当労働行為として禁止しています。
誠実交渉義務:判例・学説上、使用者は単に交渉の席に着くだけでなく、「誠実に交渉する義務」を負うとされています。これには、主張への具体的な反論と根拠の提示、必要な資料の開示、合意形成への努力などが含まれます。
コミットメント達成の意義
団体交渉に誠実に応じることは、良好な労使関係を築き、社内の風通しを良くし、労働者の信頼を得るために不可欠です。これにより、人権デュー・ディリジェンスの実効性が高まり、不当労働行為に関する法的リスクを軽減し、企業の社会的評価を向上させることができます。
遵守を裏付ける証拠をカテゴリー別に整理
1. 方針の明確化と周知
団体交渉を拒否しないという方針を文書化し、全従業員に明確に伝えます。
- 団体交渉権の尊重を明記した労働関係方針書、人権方針、行動規範。
- 方針が社内イントラネット、研修資料、入社時オリエンテーション資料等で周知されている記録。
2. 交渉要求への対応プロセス
労働組合等からの交渉申し入れに対し、迅速かつ適切に対応する手順を確立します。
- 団体交渉申し入れの受付、記録、確認応答に関する明確な内部手続き・マニュアル。
- 申し入れから交渉日程の提案まで、適時に応答した通信記録(メール、書簡ログ)。
- 交渉対応の責任部署(人事部等)が明確に定められている組織図や規定。
3. 誠実な交渉準備
交渉議題を深く理解し、建設的な議論を行うための十分な準備を行います。
- 労働組合の要求事項を分析し、関連データを収集した記録。
- 交渉方針や論点を整理するための準備会議の議事録や社内検討資料。
4. 建設的な対話の実践
一方的な拒否ではなく、理由ある回答や対案を示し、合意形成に努めます。
- 組合の主張に真摯に耳を傾け、理由を付して回答したことを示す議事録。
- 要求を拒否するだけでなく、会社側から対案や代替案を提示した記録。
- 複数回の交渉開催に応じ、継続的に議論した実績。
5. 適切な情報共有
会社の主張の根拠となる関連情報を、誠実に開示する姿勢を示します。
- 賃上げ要求に対し経営状況を説明する際など、主張の裏付けとなる関連データを提供した記録。
- 機密情報で開示できない場合に、その理由を丁寧に説明し、代替情報を提供しようとした記録。
6. 交渉担当者の権限と研修
交渉担当者が責任ある議論を行えるよう、適切な権限と知識を与えます。
- 交渉担当者に一定の決定権限が与えられていることを示す内部規定や辞令。
- 交渉担当者に対し、労働法や誠実交渉義務に関する研修を実施した記録(研修資料、参加者リスト)。
7. 議事録の体系的な作成
交渉の経過と結果を客観的かつ正確に記録し、誤解を防ぎます。
- 日時、場所、出席者、議題、主要な主張、応答、合意事項、保留事項を記載した議事録。
- 各交渉後に速やかに議事録を作成・保管する社内ルールと、その実践記録。
- 客観性を保つため、音声記録の実施とその記録(双方合意の上)。
8. 議事録の共有と確認
透明性を高め、記録の正確性を担保するために、作成した議事録を関係者と共有します。
- 作成した議事録の草案を、労働組合や労働者代表に確認のため提示した記録。
- 相手方からのコメントや修正依頼と、それに対応した記録。
- 双方が内容を確認した最終版議事録。(署名は必須ではないが、あれば強力な証拠となる)
9. 民主的な代表選出の保証
労働組合がない場合、交渉相手となる労働者代表が、使用者の介入なく民主的に選ばれていることを保証します。
- 労働者代表の選出プロセス(投票など)が民主的であったことを示す記録(実施告知、投票結果など)。
- 選出プロセスにおいて、会社側が候補者の指名などに関与していないことの証明。
10. 国際基準との整合性
国内法遵守に加え、国際労働基準を尊重する姿勢を示し、企業の信頼性を高めます。
- CSR報告書やサステナビリティ報告書での、ILO中核条約(87号、98号)やOECD多国籍企業行動指針への準拠表明。
- 人権デュー・ディリジェンスの一環として、団体交渉権の尊重を位置づけている記録。
防御可能な態勢の構築と維持
団体交渉への誠実な対応を証明するには、明確な方針、一貫した手続き、交渉プロセスの徹底した文書化、そして正確な議事録作成が不可欠です。これらは個別の要素ではなく、相互に関連し合い、企業全体の信頼性を構築します。
定期的な研修や内部レビューを通じてこれらのシステムを維持・改善し、敬意ある対話の文化を醸成することが、安定した労使関係と持続的な事業の成功に繋がります。
重要な注意点
ここで挙げる証拠は、遵守を示すための具体例です。しかし、これらを全て揃えなくとも十分に遵守を証明又は疎明できることもあります。それは御社の状況次第、そして監査の判定基準次第です。 詳しくは私どもHCDコンサルティングにお尋ねください。
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JASTIは、中小企業等が最低限遵守すべき事項を社会人権面を中心に網羅した監査要求事項・評価基準から成り、ILO(国際労働機関)中核的労働基準を含みます。
当事務所代表は、全国社会保険労務士会連合会「ビジネスと人権」研修(ILO駐日事務所の技術協力で構築された研修)で、合計7度ファシリテーターを務めました。
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