JASTI 5-11-5の遵守を、どのような証拠をもって示せばいいか、簡単にまとめます。
JASTI 5-11-5 原文
工場は、工場所在地の法令に従い、化学物質について、SDS(製品安全デ ータシート)を保管場所及び取り扱う各作業場の見やすい場所に常時提示 する等、必要な従業員への周知をしなければならない。
達成すべきコミットメント
「私たちは、事業場所在地の法令に従い、化学物質について、SDS(製品安全データシート)を保管場所及び取り扱う各作業場の見やすい場所に常時提示する等、必要な労働者等への周知をします。」
補足説明:法的根拠
労働安全衛生法 第57条の2および安衛則 第34条の2の4:SDSの交付および労働者への周知を事業者に義務付けています。「周知」の方法として、①作業場の見やすい場所に常時掲示・備え付け、②書面の交付、③電子媒体での常時確認可能な機器の設置、の3つが定められています。
コミットメント達成の意義
SDSは、化学物質の「取扱説明書」です。労働者が自らの身を守るために必要な危険有害性、安全な取扱い、緊急時対応などの情報が記載されています。この情報へのアクセスを保証することは、労働者の「知る権利」を尊重し、自主的な安全行動を促すための第一歩であり、化学物質による労働災害を防止する上で不可欠です。
遵守を裏付ける証拠をカテゴリー別に整理
1. SDS管理手順書
SDSの入手から更新、保管、周知までのプロセスを定めたルールブック。体系的な管理を示します。
- SDSの管理・運用に関する社内規程。
- 化学物質管理者が責任を持って管理していることを示す組織図や職務分掌。
2. SDSの物理的な掲示・備付け
労働者がいつでもSDSを確認できる状態にあることを示す、最も直接的な証拠です。
- 作業場の見やすい場所に設置された「SDSステーション」(ファイルやPC端末)の写真。
- 「SDSはこちら」等の明確な標識の写真。
3. SDSへのアクセス機能テスト
SDSが単に「ある」だけでなく、労働者が「使える」状態にあることを実証します。
- 監査時に、労働者が自力で特定のSDSを迅速に提示できたことの記録。
- 電子システムの場合、検索・表示機能が正常に作動することの確認記録。
4. 安全衛生教育の記録
SDSの内容を労働者が理解し、安全行動に繋げられるよう教育していることを示します。
- SDSの見方、危険性、安全な取扱いに関する教育の実施記録(参加者署名付き)。
- 訓練後の理解度テストの結果。
5. リスクアセスメント記録
SDS情報が、リスクの特定・評価・対策という実効的な管理活動に活用されていることを証明します。
- SDS情報を基に危険有害性を特定したリスクアセスメントシート。
- 評価に基づき、換気装置設置や保護具着用などの対策を決定した記録。
6. SDSのレビュー・更新記録
SDS情報が「常時」最新かつ正確に保たれていることを示す、継続性の証拠です。
- 供給者からのSDS更新情報に対応した記録。
- 定期的に全SDSのバージョンを確認し、更新したログ。
7. 内部監査・パトロール記録
SDSの管理・周知体制が、継続的に監視・改善されていることを示します。
- 内部監査で、SDSの掲示状況や周知状況をチェックした記録。
- 不備が発見された場合の是正処置計画と完了報告。
8. 安全衛生委員会議事録
労働者の意見を反映し、組織としてSDS管理体制の改善に取り組んでいることを証明します。
- SDSに基づくリスクアセスメント結果を審議した議事録。
- 労働者からの意見に基づき、周知方法を改善した記録。
9. 事故・ヒヤリハット報告書
SDS情報が事故の再発防止や、ヒヤリハットの分析に活用されていることを示します。
- 化学物質関連の事故報告書。
- 原因分析で、SDSの周知不足が特定され、是正措置が講じられた記録。
統合コンプライアンス・ポートフォリオの重要性
SDSの周知義務の遵守は、単にSDSをファイルしているだけでは証明できません。管理手順の策定、物理的なアクセス確保、教育の実施、そしてリスクアセスメントへの活用といった一連の証拠が相互に連携して初めて、その有効性が証明されます。
これらの証拠を体系的に管理・提示することで、SDSが化学物質管理システムの「生きた情報源」として機能し、労働者の安全確保に貢献していることを、説得力をもって示すことができます。
重要な注意点
ここで挙げる証拠は、遵守を示すための具体例です。しかし、これらを全て揃えなくとも十分に遵守を証明又は疎明できることもあります。それは御社の状況次第、そして監査の判定基準次第です。 詳しくは私どもHCDコンサルティングにお尋ねください。
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JASTIは、中小企業等が最低限遵守すべき事項を社会人権面を中心に網羅した監査要求事項・評価基準から成り、ILO(国際労働機関)中核的労働基準を含みます。
当事務所代表は、全国社会保険労務士会連合会「ビジネスと人権」研修(ILO駐日事務所の技術協力で構築された研修)で、合計7度ファシリテーターを務めました。
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