JASTI 5-11-6の遵守を、どのような証拠をもって示せばいいか、簡単にまとめます。
JASTI 5-11-6 原文
工場は、必要に応じて、化学薬品を使用する場所の近くに、洗眼器を設置 しなくてはならない。 注:日本においては、特定化学物質、または有機溶剤を使用している場合 は洗眼用具を設置すること。
達成すべきコミットメント
「私たちは、事業場所在地の法令に従い、必要に応じて、特定化学物質、または有機溶剤を使用する場所の近くに、洗眼器などの洗眼用具を設置します。」
補足説明:法的根拠
特定化学物質障害予防規則(特化則)第38条:皮膚や眼に障害を与えるおそれのある特定化学物質を扱う作業場に、洗眼・シャワー設備の設置を義務付けています。
リスクアセスメント(安衛法):「必要に応じて」という判断は、化学物質のリスクアセスメントの結果に基づかなければなりません。眼や皮膚への接触リスクが高いと評価されれば、設置は必須の管理措置となります。
コミットメント達成の意義
化学物質の飛散事故において、受傷後の数秒間が失明や重度の皮膚障害を防ぐためのゴールデンタイムです。いつでも使用可能な洗眼器が、危険な作業場所から10秒以内の距離にあることは、万が一の際に労働者の健康被害を最小限に抑えるための生命線となります。
遵守を裏付ける証拠をカテゴリー別に整理
1. リスクアセスメント記録
洗眼器設置が「必要に応じて」という判断の根拠。リスク評価に基づき、設置を決定したプロセスを示します。
- 化学物質の眼・皮膚への危険性を特定したリスク評価シート。
- リスク低減措置として、洗眼器の設置を必要と判断した記録。
- 労働者代表が意見聴取に参加した記録。
2. 設備仕様書と購入記録
設置された設備が、国際的なベストプラクティス(ANSI Z358.1等)に準拠した適切な性能を持つことを示します。
- 洗眼器・シャワー設備の製品カタログや技術仕様書。
- ANSI準拠製品等の購入を証明する請求書や領収書。
3. 設置場所の図面と写真
設備が実際に存在し、かつ緊急時にアクセス可能な場所に正しく配置されていることを証明します。
- 化学物質使用場所から10秒以内の経路を示した施設図面。
- 実際に設置された洗眼器と、そこまでの経路に障害物がないことを示す写真。
4. 週次・年次点検の記録
設備が「いつでも使える」状態に維持されていることを示す、継続的な管理の証拠です。
- 水の流れや水質を確認する週次点検ログ(日付・署名入り)。
- 水温、流量、作動時間等を測定する年次点検の報告書。
- 専門業者による点検・保守の記録。
5. 是正措置の記録
点検で発見された不具合に対し、迅速に対応し、改善サイクルを回していることを示します。
- 点検で発見された不具合(水圧不足等)の内容と、その是正措置を記録した報告書。
- 修理・部品交換の記録と、改善後の再点検結果。
6. 安全衛生教育・訓練記録
労働者が設備の場所を認知し、緊急時に正しく使用できる能力があることを証明します。
- 洗眼器の場所と使用方法に関する教育の実施記録(参加者署名付き)。
- 緊急時対応訓練(化学物質曝露シナリオ等)の計画書と報告書。
7. SDSの管理と周知記録
洗眼等の応急処置情報が記載されたSDSが、いつでも閲覧可能な状態にあることを示します。
- SDSの管理手順書とマスターリスト。
- SDSが保管されたファイルやPC端末の写真。
- 労働者がSDSにアクセスできることの機能テスト記録。
8. 安全衛生委員会議事録
労働者の意見を反映し、組織として緊急時対応体制の改善に取り組んでいることを証明します。
- 洗眼器の設置状況や点検結果について審議した議事録。
- 労働者からの意見に基づき、設置場所や訓練内容を改善した記録。
9. 事故・ヒヤリハット報告書
実際の事象から学び、応急処置体制の有効性を評価し、改善に繋げていることを示します。
- 化学物質の接触事故に関する報告書。
- 応急処置として洗眼器が有効に機能したか、課題はなかったかを分析した記録。
統合コンプライアンス・ポートフォリオの重要性
洗眼器の設置に関するコンプライアンスは、リスクアセスメント(計画)から、設備の設置・維持管理(実行)、そして訓練や事故レビューを通じた見直し(評価・改善)まで、一連のPDCAサイクルが機能していることで証明されます。
これらの証拠を体系的に管理・提示することで、単に設備があるだけでなく、労働者の健康被害を未然に防ぐための「生きた」緊急時対応システムが構築されていることを、説得力をもって示すことができます。
重要な注意点
ここで挙げる証拠は、遵守を示すための具体例です。しかし、これらを全て揃えなくとも十分に遵守を証明又は疎明できることもあります。それは御社の状況次第、そして監査の判定基準次第です。 詳しくは私どもHCDコンサルティングにお尋ねください。
JASTI監査対策のご相談は、私どもHCDコンサルティングへ
JASTIは、中小企業等が最低限遵守すべき事項を社会人権面を中心に網羅した監査要求事項・評価基準から成り、ILO(国際労働機関)中核的労働基準を含みます。
当事務所代表は、全国社会保険労務士会連合会「ビジネスと人権」研修(ILO駐日事務所の技術協力で構築された研修)で、合計7度ファシリテーターを務めました。
JASTI監査に向けたコンサルティングは、私どもHCDコンサルティングにお任せください。