JASTI 5-11-7の遵守を、どのような証拠をもって示せばいいか、簡単にまとめます。
JASTI 5-11-7 原文
化学薬品に関する以下の表示および掲示は、従業員が解読可能な言語で記 載されなければならない。 表示:安全情報、内容表示(成分、特性、取扱注意事項、保管場所) 掲示:使用する場所で掲示されなければならない注意表示と使用法
達成すべきコミットメント (JASTI 5.11.7)
「私たちは、化学薬品に関する以下の表示および掲示は、労働者等が解読可能な言語で記載します。表示:安全情報、内容表示(成分、特性、取扱注意事項、保管場所)掲示:使用する場所で掲示されなければならない注意表示と使用法」
補足説明:法的根拠と国際基準
日本の国内法:労働安全衛生法は、事業者に対し、化学物質の危険有害性情報を安全データシート(SDS)等により労働者に周知することを義務付けています。
国際人権基準:ILOや国連指導原則(UNGPs)は、労働者が自らの安全を守るために、情報を「解読可能な言語」で理解し、安全衛生活動に参加する権利を重視しています。
このコミットメントは、形式的な情報提供に留まらず、労働者一人ひとりが化学物質のリスクを実質的に理解し、安全に行動できる環境を構築することを目的とします。
遵守を裏付ける証拠をカテゴリー別に整理
1. 方針と管理体制
化学物質情報の伝達を組織的に管理し、「解読可能な言語」での提供を方針として定めます。
- 表示・掲示に関する社内規程(多言語対応やピクトグラム活用の基準を含む)。
- 化学物質管理の責任者と役割分担を定めた文書。
- 翻訳プロセスや定期的な見直し手順を定めたマニュアル。
2. SDSの管理と活用
全ての化学物質情報の源泉であるSDSを、体系的に入手・管理・更新します。
- SDSの入手、レビュー、登録、更新に関する手順書。
- 全化学物質のSDS管理台帳(電子または物理ファイル)。
- 多言語版SDSを入手している場合はその管理記録。
3. リスクアセスメントとの連携
表示・掲示の内容が、現場固有のリスク評価に基づいていることを示します。
- 化学物質リスクアセスメントの実施記録。
- リスク評価結果に基づき、表示・掲示内容を決定したプロセス記録。
- 表示・掲示をリスク低減措置として位置づけた文書。
4. 表示(ラベル)の物理的証拠
化学物質の容器に、解読可能な言語で必要な情報が表示されていることを証明します。
- 容器ラベルの現物写真(日付入り)。
- 多言語表示やGHSピクトグラムが使用されていることがわかる写真。
- 表示内容がSDSと一致していることの確認記録。
5. 掲示の物理的証拠
使用場所で、注意表示や使用法が視認性高く掲示されていることを証明します。
- 作業場に掲示された注意喚起(保護具着用等)や作業手順書の写真。
- 緊急時対応フロー(洗眼器の位置等)の掲示写真。
- 多言語やイラストが併記されていることがわかる写真。
6. 情報へのアクセス保証
労働者が必要な時にいつでも安全情報にアクセスできる環境を整備します。
- SDSを保管したファイルや棚(SDSステーション)の写真。
- SDSを検索・閲覧できるPCやタブレット端末が作業場に設置されている写真。
- 情報アクセス方法に関する周知ポスター等。
7. 安全衛生教育
情報が単に提供されるだけでなく、労働者によって「理解」されることを保証します。
- SDSやラベルの読み方に関する教育の実施記録(受講者サイン含む)。
- 多言語の教材や通訳を用いて教育を行った記録。
- 新規雇入れ時や作業内容変更時の教育カリキュラム。
8. 労働者の力量評価
教育訓練を通じて、労働者が安全情報を理解し、行動できるようになったことを確認します。
- 教育後の理解度を確認する小テストやアンケートの結果。
- 保護具の正しい使用方法などに関する実技評価の記録。
- 現場でのOJT(On-the-Job Training)における観察・指導記録。
9. 現場での理解度確認
情報伝達が現場で機能していることを、監査や対話を通じて実証します。
- 内部監査や安全パトロール時の労働者へのインタビュー記録。
- 「このピクトグラムの意味は?」等の質問に対する回答記録。
- 外国人労働者が母国語で表示内容を説明できたことの確認記録。
10. 労働者のフィードバック
情報伝達を一方的なものでなく、双方向のコミュニケーションとして改善します。
- 表示・掲示の分かりやすさに関するアンケート結果。
- 提案制度を通じて寄せられた改善提案と、それへの対応記録。
- 安全衛生委員会で労働者側から出された意見に関する議事録。
11. 事例からの改善
発生した問題から学び、表示・掲示を継続的に改善する仕組みを証明します。
- ヒヤリハットや事故の調査報告書で、情報伝達の不備が原因と特定された事例。
- その結果として、表示・掲示を改善した際の記録(Before/After写真など)。
- 改善内容を水平展開した記録。
12. 内部監査と改善
組織が自主的にコンプライアンス状況を監視・評価し、改善していることを示します。
- 表示・掲示の有効性を評価項目に含む内部監査チェックリスト。
- 監査報告書と、指摘事項に対する是正措置計画。
- PDCAサイクルが機能していることを示すマネジメントレビュー議事録。
「解読可能な言語」が拓く、真の安全文化
化学物質に関する情報を「解読可能な言語」で提供することは、単なる翻訳作業ではありません。それは、ピクトグラムの活用、分かりやすい表現、そして双方向のコミュニケーションを通じて、全ての労働者がリスクを「自分ごと」として理解し、安全に行動できるよう支援するプロセスです。
本インフォグラフィックで示した多角的な証拠ポートフォリオは、企業が法令を遵守するだけでなく、労働者の参加を促し、現場に根差した実効性のある安全文化を構築していることの力強い証明となります。
重要な注意点
ここで挙げる証拠は、遵守を示すための具体例です。しかし、これらを全て揃えなくとも十分に遵守を証明又は疎明できることもあります。それは御社の状況次第、そして監査の判定基準次第です。 詳しくは私どもHCDコンサルティングにお尋ねください。
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JASTIは、中小企業等が最低限遵守すべき事項を社会人権面を中心に網羅した監査要求事項・評価基準から成り、ILO(国際労働機関)中核的労働基準を含みます。
当事務所代表は、全国社会保険労務士会連合会「ビジネスと人権」研修(ILO駐日事務所の技術協力で構築された研修)で、合計7度ファシリテーターを務めました。
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