JASTI 5-13の遵守を、どのような証拠をもって示せばいいか、簡単にまとめます。
JASTI 5-13 原文
工場は、労働災害が発生した場合、それを明らかにするとともに、原因究 明と是正策を講じ、その記録を工場所在地の法令で定める期間、保管しな ければならない。工場所在地の法令に保存期間の定めがない場合、1 年以 上保管しなければならない。工場所在地の法令で定めがある場合、届出な くてはならない。
達成すべきコミットメント
「私たちは、労働災害が発生した場合、それを明らかにするとともに、原因究明と是正策を講じ、その記録を事業場所在地の法令で定める期間、保管します。事業場所在地の法令に保存期間の定めがない場合、1 年以上保管します。事業場所在地の法令で定めがある場合は、届出ます。」
補足説明:法的根拠
労働安全衛生規則 第96条・97条:労働災害の発生時に、事業者は「遅滞なく」労働基準監督署長に「労働者死傷病報告」等を提出する義務があります。これは災害を隠蔽せず「明らかにする」こと、そして「届出る」ことの直接的な法的義務です。
労働基準法 第109条:災害補償に関する重要な書類は5年間(当面は3年間)の保存が義務付けられています。これは「記録保管」に関する主要な法的根拠の一つです。
コミットメント達成の意義
労働災害への対応は、企業の安全文化そのものを映し出す鏡です。災害を隠蔽せず、真摯に原因を究明し、実効性のある再発防止策を講じるプロセス全体が、労働者の安全を最優先する姿勢を示します。適切な記録と報告は、法的義務を果たすだけでなく、組織としての学習と改善を促進し、より安全な未来を築くための基盤となります。
遵守を裏付ける証拠をカテゴリー別に整理
1. 社内インシデント報告体制
災害を隠蔽せず、速やかに社内で「明らかにする」仕組みの存在を示します。
- 事故発生時の報告を義務付ける社内規程や手順書。
- 初期インシデント報告のフォームやシステム入力記録。
- 報告義務に関する労働者への教育記録。
2. 労働基準監督署への届出
法令に基づき、災害を公的に「届出る」義務を履行していることを示す最も直接的な証拠です。
- 提出した「労働者死傷病報告」(様式第23号・24号)の写し。
- 火災・爆発時等に提出した「労災事故報告書」(様式第22号)の写し。
- 労働基準監督署の受理印が押された控え。
3. 事故調査と原因究明記録
表面的な事象だけでなく、根本原因まで掘り下げて分析していることを証明します。
- 内部または外部専門家による事故調査報告書。
- 「なぜなぜ分析」や特性要因図など、体系的な分析手法を用いた記録。
- 「労働災害再発防止対策検討書」の作成記録。
4. 是正措置計画と実施記録
原因分析が具体的な再発防止策に繋がり、確実に実行されていることを示します。
- 措置内容、責任者、期限を定めた是正措置計画書。
- 設備の改修、作業手順書の改訂、研修の実施など、措置の完了を示す記録。
- 措置の有効性を評価したフォローアップの記録。
5. 安全衛生委員会議事録
労働者の参加のもと、災害対応が組織的に審議・決定されていることを示す重要な証拠です。
- 災害事例、原因分析、是正措置について審議した議事録。
- 労働者代表の意見や提案が反映された記録。
- 議事録が3年間保存されていること。
6. 記録管理方針と保管台帳
法令で定められた期間、災害関連記録を体系的に保管・管理していることを証明します。
- 記録の保存期間を定めた社内規程。
- 各災害記録の保存期間を一覧化した台帳やログ。
- 整理された物理的または電子的な保管システムの状況。
7. OHSマネジメントシステム
災害対応が、ISO 45001等の国際基準に準拠した体系的な枠組みの一部であることを示します。
- ISO 45001認証書(取得している場合)。
- インシデント調査や是正措置に関する手順書。
- OHSMSの内部監査報告書やマネジメントレビュー議事録。
8. 保存期間遵守の証明
多岐にわたる法定保存期間を正確に理解し、遵守していることを示します。
- 各記録に適用される法定保存期間(3年、5年、30年等)を明記した管理台帳。
- 法令に定めがない場合に「1年以上」を適用した記録。
9. 外部への情報開示
透明性を確保し、ステークホルダーに対して説明責任を果たしている姿勢を示します。
- サステナビリティ報告書や統合報告書。
- GRIスタンダード403(労働安全衛生)に準拠した、労働災害の発生率や件数などの情報開示。
統合コンプライアンス・ポートフォリオの重要性
労働災害への対応は、報告、原因究明、是正措置、記録保管という一連のプロセスが相互に連携して初めて完結します。個別の証拠だけでなく、これらの活動が安全衛生委員会などを通じて組織的に管理され、継続的に改善されていることを示すことが重要です。
これらの証拠を体系的に管理・提示することで、企業が法令を遵守するだけでなく、労働者の安全と人権を尊重する、真摯で透明性の高い組織であることを、説得力をもって示すことができます。
重要な注意点
ここで挙げる証拠は、遵守を示すための具体例です。しかし、これらを全て揃えなくとも十分に遵守を証明又は疎明できることもあります。それは御社の状況次第、そして監査の判定基準次第です。 詳しくは私どもHCDコンサルティングにお尋ねください。
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JASTIは、中小企業等が最低限遵守すべき事項を社会人権面を中心に網羅した監査要求事項・評価基準から成り、ILO(国際労働機関)中核的労働基準を含みます。
当事務所代表は、全国社会保険労務士会連合会「ビジネスと人権」研修(ILO駐日事務所の技術協力で構築された研修)で、合計7度ファシリテーターを務めました。
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