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JASTI 5-15 遵守の証拠

JASTI 5-15の遵守を、どのような証拠をもって示せばいいか、簡単にまとめます。

JASTI 5-15 原文

工場は、従業員に対し、利用しやすい飲料水の提供場所を設置し、時間の 制約なく飲料水を提供しなくてはならない。 工場は、工場所在地の法令に従い、水質検査を行い合格しなければならな い。

注:日本においては、水道水のみを使用している場合、水質検査は不要。

達成すべきコミットメント (JASTI 5.15)

「私たちは、労働者等に対し、利用しやすい飲料水の提供場所を設置し、時間の制約なく飲料水を提供します。私たちは、水道水のみを使用している場合を除いて、飲料水について水質検査を行い、合格します。」

補足説明:法的根拠と国際基準

日本の国内法:労働安全衛生規則は、多量の汗をかく作業場での飲料水備え付けを義務付けています。また、事務所衛生基準規則や水道法は、特に私設水源の水質に関する厳格な基準を定めています。

国際人権基準:ISO 45001は、労働者の健康保護の一環として、安全な飲料水へのアクセスを重要な要素と見なしています。

このコミットメントは、熱中症予防などの健康障害防止という法的義務を超え、労働者の基本的な健康と福祉を確保する企業の積極的な姿勢を示すものです。

遵守を裏付ける証拠をカテゴリー別に整理

1. 方針と管理体制

飲料水の供給が、組織的なルールに基づき、安定的かつ衛生的に管理されていることを示します。

遵守を示す証拠 (例):
  • 飲料水提供に関する社内規程(設置場所、衛生管理手順、緊急時対応等)。
  • 休憩時間が適切に確保されていることを示す就業規則。
  • 飲料水供給の責任者を定めた文書。

2. 物理的な設置状況

労働者が「利用しやすい場所」で「時間の制約なく」水にアクセスできることを物理的に証明します。

遵守を示す証拠 (例):
  • 作業場、休憩室、食堂等に設置された給水設備の写真(日付入り)。
  • 設備が清潔で、周囲に障害物がないことを示す写真。
  • 「飲用可能」「無料」などの表示がされている写真。

3. 衛生管理と保守点検

給水設備が継続的に衛生的で、正常に機能していることを証明します。

遵守を示す証拠 (例):
  • 給水設備の定期的な清掃・点検スケジュールと実施記録。
  • 浄水器のフィルター交換記録。
  • 安全パトロールのチェックリストに、給水設備の衛生・機能確認項目が含まれていること。

4. 水道水の利用証明

飲料水が、地方自治体によって水質が保証された水道水であることを示します。

遵守を示す証拠 (例):
  • 地方自治体発行の水道料金請求書の控え。
  • 水道事業者との水道使用契約書の写し。
  • 自治体が公表する水質検査結果への参照情報(URL等)。

5. 水質検査計画(私設水源)

井戸水等の私設水源を使用する場合、水質を体系的に管理する計画があることを示します。

遵守を示す証拠 (例):
  • 水質管理計画書(水源情報、検査スケジュール、責任者、緊急時対応等)。
  • 水源設備(ポンプ、貯水槽)の保守点検計画と記録。
  • 浄水処理プロセスの詳細を記した文書。

6. 水質検査成績書(私設水源)

飲料水の安全性を証明する最も重要かつ決定的な証拠です。

遵守を示す証拠 (例):
  • 厚労省登録検査機関発行の「水質検査成績書」。
  • 水道法に定める51項目全てに合格していること。
  • 法令で定められた頻度(年1回以上等)で実施されていること。

7. 塩素消毒記録(私設水源)

水道法に基づき、衛生上の措置が継続的に講じられていることを証明します。

遵守を示す証拠 (例):
  • 遊離残留塩素濃度の定期的な測定記録(毎日等)。
  • 測定値が法定基準(0.1mg/L以上)を満たしていること。
  • 消毒用薬剤の管理記録。

8. 水質異常時の是正措置

問題発生時に、迅速かつ体系的に対応し、安全を回復する能力を示します。

遵守を示す証拠 (例):
  • 水質基準不適合時の原因究明調査の報告書。
  • 浄水設備の改修や消毒方法の改善などの是正措置計画と実施記録。
  • 改善後の再検査で基準に適合したことを示す検査成績書。

9. リスクアセスメント

飲料水に関する潜在的リスクを特定・評価し、管理措置を講じていることを示します。

遵守を示す証拠 (例):
  • 水質汚染、アクセス不良による脱水症状等のリスク評価記録。
  • 水質検査や給水設備整備をリスク低減措置として位置づけた文書。
  • 労働者の意見を聴取した記録。

10. 安全衛生委員会での審議

飲料水供給が、労働者の参加を得て、組織的に管理・改善されていることを示します。

遵守を示す証拠 (例):
  • 安全衛生委員会の議事録(3年間保存)。
  • 議事録に、水質検査結果の報告や給水設備に関する議題があること。
  • 労働者代表からの改善提案と、それに対する会社の対応記録。

11. 労働者への周知と教育

労働者が飲料水の重要性を理解し、衛生的に利用するための知識を持つことを保証します。

遵守を示す証拠 (例):
  • 給水設備の利用方法や衛生管理に関する周知記録(掲示物、社内報等)。
  • 熱中症予防のための水分補給の重要性に関する安全衛生教育の記録。
  • 水質異常時の報告手順に関する訓練記録。

12. 緊急時対応計画

断水や災害時にも、労働者の水分補給が途絶えないように備えます。

遵守を示す証拠 (例):
  • 緊急時(断水、災害等)の飲料水供給に関する対応計画書。
  • 備蓄用の飲料水(ペットボトル等)の管理台帳と保管場所の写真。
  • 熱中症警戒アラート発令時の追加的な水分・塩分補給の対策記録。

安全な水が育む、健康で生産的な職場

安全な飲料水へのアクセスは、労働者の基本的な権利であり、健康と生産性の基盤です。このコミットメントの達成は、単に蛇口を設置することではなく、アクセシビリティ、水質、衛生管理、そして緊急時対応までを含む包括的な管理体制を構築・維持することを意味します。

特に私設水源を利用する場合は、公的な水質検査成績書がコンプライアンスを証明する上で決定的な証拠となります。これらの証拠を体系的に提示することは、企業が労働者の健康を最優先し、責任ある経営を実践していることの力強い証明となります。

重要な注意点
ここで挙げる証拠は、遵守を示すための具体例です。しかし、これらを全て揃えなくとも十分に遵守を証明又は疎明できることもあります。それは御社の状況次第、そして監査の判定基準次第です。 詳しくは私どもHCDコンサルティングにお尋ねください。

JASTI監査対策のご相談は、私どもHCDコンサルティングへ

JASTIは、中小企業等が最低限遵守すべき事項を社会人権面を中心に網羅した監査要求事項・評価基準から成り、ILO(国際労働機関)中核的労働基準を含みます。

当事務所代表は、全国社会保険労務士会連合会「ビジネスと人権」研修(ILO駐日事務所の技術協力で構築された研修で、合計7度ファシリテーターを務めました。

JASTI監査に向けたコンサルティングは、私どもHCDコンサルティングにお任せください。